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天災少年

エルトオリカ帝国の謁見の間。その日、皇帝に謁見しているのは旅人の少年だった。

「お初にお目にかかります陛下。私、エレルクイン・エッセンムント。旅の魔法使いです」

「ようこそエレルクイン殿。わが国は貴方を歓迎します」

 玉座に座した皇帝は両手を広げて歓迎の意を示す。

 ひざまずいている少年は茶色いマント、ひたいには青縁のゴーグル、背には木製の一メートル半はあるスタッフという出で立ち。

「エルで結構です、陛下」

 言ってエルが立ち上がる。

「この度は、入国許可をいただき、有り難う御座います。私は旅の疲れを癒すため、三日間ほどの滞在を許可頂きたいのですが」

「もちろんですよ。ようこそ、エルトオリカに」

「有り難う御座います」

「いえいえ、では」

「はい、お時間頂き有り難う御座いました」

「いえ」

 お互いのどこか不自然な笑みを浮かべながら謁見は終了した。

   ■

「エレル…クイン…」

 城の最上階、皇帝に秘密で仕掛けたカメラとスピーカーを近くに置きながら、腿の辺りまである長い茶色の髪に、美しいドレスの少女が窓の外を眺めている。

「エレルクイン・エッセンムント…」

 城を去る少年の名を、その背中を見つめながら呟いた。

   ■

「魔法使いめ…」

 謁見を終了した皇帝は、笑みを消し、苦々しく口元を歪めた。

「奴の滞在期間は三日だ。その間、計画は中止だ」

「御意」

 皇帝の指示に近衛の兵が恭しく頭を下げる。

「邪魔しおって……」

 皇帝は悔しげに呟いた。

   ■

エルトオリカ帝国の皇城前。黒髪の少年―エルが振り向いて呟く。

「タヌキオヤジめ…」

 忌々しげに呟く顔には先ほどまでのおとなしい印象は無く、精悍な顔には不敵な気配しか無い。

「ん?」

 ふと視線を上げると城の最上階の部屋の窓からこちらを見る視線を感じたのだが。

「? 気のせいか?」

 確かに感じた。突き刺さるようで、それでいてすがる様な視線。

「んー?」

 まぁいい。

「三日で十分だ」

 呟いて城から離れる。

「腹減ったな」

 とりあえず近くの定食屋に入った。

    ■

  魔法使いのギルドにある張り紙が張り出された。

「ん? なんだこれ?」

 張り紙に気付いた一人が仲間を引き止める。

「ん? ああ、天災の、ね」

「なんだよそれ」

「お前しらねぇの?」

 仲間の一人が馬鹿にしたように鼻で笑う。

「しらねえよ! なんだよそれ!」

「今噂の魔法使い。どうもかなりすげぇらしいぜ」

「らしい。ってなぁ…」

「まぁ嘘か真かもわかんねぇようなもんだけどな」

「ふーん。どんな奴なんだ?」

「おいおい止めとけよ? 相手は天才なんだから」

「まぁまぁ。な?」

「はいはい。どうもそいつは茶色いマントに青縁のゴーグルをして古びたスタッフを背負ってるらしいんだ」

「ふーん…あっ!」

 片方の魔法使いが外を指差して大げさに驚くので肩を軽くすくめてあしらおうとすると、

「居た…」

「はぁ? 何が?」

「ま、魔法使い…」

「?」

「て、て、天災のま、魔法使いが…」

「あのなぁ…」

「こ、こっち」

 こっち見て、と言葉を続ける。

「オレの事か? って言った」

「はぁ!?」

「茶色いマント、青縁ゴーグル、古びたスタッフ…」

「マジか!」

 驚きと興奮で飛び出した相棒の背を見ながらも言葉は続く。

「来ないでくれ」


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