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23(最終話)


あの事件から数週間が経った。

霧伏巽は、東京のとあるコーヒーショップでコーヒーを飲んでいた。

さすがに真昼間から学校に行くべき年齢にしか見えない霧伏がいるのは怪しまれるだろう、と言うことで、姿は変えている。不老不死とはいえ、ずっと同じ姿ではいろいろと支障がある。そういうことで、神は彼に姿を変える力は残しておいたのであった。

今の霧伏は、トレードマークと言える眼鏡以外は、全くの別人となっていた。

そんな彼がブラックコーヒーを飲んでいると、彼に話しかけてくる女性がいた。

「ここ、同席してもよろしいかしら」

「?・・・・・・・・構いませんが」

霧伏は不審に思いながら返す。今の時間帯、人はまばらで、席などいくらでも空いている。

わざわざ見ず知らずの人物と同席したいなんて、どんな変わり者だ、とその女性の顔を見て、霧伏は固まった。

悪戯っぽい笑みを浮かべた女性。彼女の髪は明るい茶色に染められており、うっすらと化粧がされていた。一般的に見ても、美少女と形容していいだろう。

だが、彼が驚いたのはそんなことではない。彼女の顔、それはもはやこの世にいない人物のものであったから。

「入沢・・・・・・・・・・?」

呆然とつぶやいた霧伏に彼女は笑みを浮かべる。

「正解、よくわかったね、霧伏」

そう言うと、彼女は霧伏の向かいの席に座り、注文を取りに来た店員にコーヒーと軽食を頼む。

そんな彼女を霧伏は注視する。

「なんでお前がここにいる?」

「なかなか今のあなたはハンサムね。相変わらず、眼鏡はださいけど」

そう言った入沢は髪を弄る。

「おい、質問に答えろ」

「まあまあ、焦らないの。時間はたっぷりあるんだから」

そう言った彼女の瞳の中に、不思議な光が見えた。それで、霧伏はすべてを理解した。

「なるほど、それがお前に与えられた罰、か」

「そういうこと」

入沢はそう言うと、テーブルに両腕をつき、前のめりになる。

「ガブリエル、とかいう天使があなたの手助けをしろ、それがお前の罪の贖いだって」

「・・・・・・・・・・・」

なぜ、この女をよこしたのか、という思いを霧伏は抱く。ガブリエル、何を考えている?自身の最大の友であり、兄弟に心の中で霧伏は問いかける。

「なんかあなたとほぼ同等の力、不老不死と変化の力だっけ?を与えられたのだけれど」

「不老不死なんて、いい事なんざないぞ」

「でしょうね」

彼女は呆気からんと言った。

「当たり前の生活も日常も、もう訪れない。それはわかっているわよ」

入沢は真面目な顔で言った。

「でも、私がしたことは美貴本さんを傷つけ、追い詰めた。この程度の罰でそれが贖えるなんて、思ってないわ」

コーヒーと軽食を持ってきた店員からそれらを受け取ると、入沢は食べ始める。

「ずいぶんとがっつり食いついたな」

思い切り食いついた入沢を見て霧伏が言う。

「まあね。あの世にいた時は食事なんてしなかったしね、久々に味わえると思うとついね」

そう言い、彼女はすぐにそれを完色してしまった。

「さて、と。それじゃあ行きましょうか?」

コーヒーを飲み干すと、彼女は霧伏を見て言う。

「行くってどこに?」

「救済の旅へ、よ」

彼女はそう言った。

「簡単にいうものだな」

「ほかにすることもないでしょう?」

「それもそうだな」

霧伏はコーヒーを飲み干すと、席を立ちあがる。入沢もそれに続く。

「あ、コーヒーおごりで」

そう言って、彼女は手をひらひらと振る。

「実はお金なくってね」

茶目っ気たっぷりに笑って言う。

霧伏はその様子にため息をつく。





永い旅路。とはいえ、彼は一人ではない。

堕天使と、闇の少女は歩き出す。彼らの使命を果たすために。




願わくば、彼らの進む道に、救いと安らぎがあらんことを。






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