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2話

1時間ほどゲームの記憶を頼りに歩いていると、大きな川と石で作られた橋が見えた。

その橋が見えたとたん皆の顔が笑顔になる。

端の向こうに町が小さく見えたからだ。


暗殺士の人が橋に向かって駆け出そうとした瞬間

水の中から鰐のようなモンスターが這い上がってきた。


すかさず私は弓を構える。

その瞬間、なぜか今までゲームの中で習得したスキルがどうすれば使えるのか理解できていた。

弓を拾った時から薄々、私はこの弓を使いこなせるとどこかで感じたのだけど、構えたことでそれは確信に変わる。


鰐のようなモンスターはゲームの中にも存在していたので、攻撃パターンは知っている。

意外に移動速度が早いモンスターなので、呪文を唱え弓矢に鈍足スキルを入れて鰐の足元に打ち込む。


すると、狙い通りに鰐のモンスターは足を痙攣させ移動速度をかなり落とした。


戦闘体制に入ったのは私だけではなかったようで、暗殺士の人がいつの間にか鰐の後ろに回りこんでいて

両手に持った中剣で踊るように切りつけていた。

モンスターは暗殺士の人に狙いを定めたようで、後ろを振り向くとガバリと大きな口をあける。

そこに剣士の人が両手に持った大剣を上から下に振りぬき鰐のモンスターを真っ二つにした。


私たちの勝利である。


少し震える手を見て、モンスターの前でハイタッチを交わす暗殺士の人と剣士の人を見る。

私、弓使いでよかった・・。


モンスターから金貨が出るわけでも消えるわけでもなく、ただそこに死体としてあり続けるのを見て

魔法使いのサラディアさんが嘔吐していた。


その後はモンスターに会うこともなく無事に町までたどり着き、宿をとるときにあたりは真っ黒になっていた。



今後のことを考えて1部屋で済ませようと思っていたのだけど、宿屋の女将さんに1泊の料金を聞いたところ

ゲーム内の価格と変わらず安く、レベル最高値まで勧めた私たちにとっては取るに足らない値段だったので

各自一部屋ずつ宿をとることにした。

一人になって色々考えたいから丁度よかったかも。


宿の内装はベット1つに丸い小さな机一つのみ。

もといた世界のベットより硬く、寝心地は悪そうだったけど。精神的にも体力的にも疲れていた私は装備をすべて取り

ベットにダイブして1分もしないうちに眠りに落ちた。



次の朝、誰に起こされるでもなくムクリと上半身を起こす。

私は目覚まし時計より早く起きるタイプで、大体7時ごろにおきるようになっている。

判を押したような生活を送ってきた成果だろう。


両手を上にあげ、うーん。と体を伸ばす。

しばらくボーっとした後、丸い机の上に容器に入った水があったので、それを使用して顔を洗った。


ベットに腰掛けてまたボーっとしてみる。


昨日は一人になって色々考えたいと思っていたけど、朝起きてぽつんと知らない世界に一人でいると、とたんに誰か知ってる人の傍にいたくなってしまった。

そう思うと本当に寂しくなって、すぐに兜をかぶり、装備を身につけ宿の一回にある食堂に向かう。


さっぱりした性格だと思ってたけど、私って結構甘えたがりだったのかもしれない。


食堂に下りたとき、壁際の四角い4人がけの席に剣士と暗殺士の人が視界に入ってほっとする。

小走りで2人の元に向かうと、途中で気づいた剣士の人が手を振ってこっちに来いと合図をしてくれた。


「おはようございます。」


「おはよう。」

「おっはよー。」


私の挨拶に、2人とも挨拶を返してくれる。


「座って。今ちょうど、今後の話に移ったところなんだ。」

剣士の人が隣の椅子を引いてくれたので、そこに座る。


「思うに、現状で動けるのはこの3人だと思うんだけど。間違いないかな。」

剣士の人が真剣な顔で私に聞いてきた。

きっと戦闘になったときの事とその後の態度で判断したんだろう。


戦闘になったとき、私たち3人は瞬時に動けたけど後の3人は固まったように動かなかった。

魔法使いのサラディアさんは座り込み嘔吐までしていたから、そうとう精神的に参っているだろう。

僧侶のキラさんは青ざめて、宿に着くまで剣士の人の腕を離さなかったし。

重剣士の人は終始無言だった。


3人の事を考えると確かに私は動けると思う。

剣士の人を見て、縦に首を振る。


ほっとしたのか、剣士の人は肩の力を抜いて笑顔でこちらを見て、よかった。と呟いた。


剣士の人の格好は昨日見た鎧姿ではなく、綿でできた普通の衣服を着ていた。

赤い短髪に金色の目、両耳には攻撃力UPになるピアスが合計5個ついていて、長身でガタイが良い。

改めてみてみると、お洒落で格好良い人だ。


「イケメンですね。」

その笑顔を見て私はポツリとつい思っていた事をそのまま言葉に出してしまった。

キャラクターを作る初期設定(元から用意されていた顔のつくり)は綺麗な顔のものだから、ゲーム中のプレーヤーはほぼ美男美女であった。

だからゲームをしてるときは顔について特に思わなかったけど、いざ目の前で生身で動かれるとかっこよさが際立つというかなんと言うか。

わざと平凡に作り変えた私としてはちょっと後悔したりして。

不細工というわけではなくて、特徴のない顔といえばいいのか、平均顔といえばいいのか。素朴といえばいいのか。

悶々としていると、斜め前から視線を感じた。


視線の主は暗殺士の人で、自分を指差し興味津々に聞いてきた。

「俺は?俺もかっこよくね!?」


暗殺士の人も昨日見た装備ではなく、こちらも綿で出来た衣服を着ていた。

少し肩にかかるほどの銀髪で瞳の色は青色。剣士の人ほど長身じゃないけど、私よりも少し高い。

体の太さも私より少し大きいかなと思う細さだけど、着崩した服から少し除く筋肉を見ると

結構がっしりしているようだ。

カッコ良いというより、色気がある系?ホスト系?

まあ、見た目はこちらも良く、綺麗な顔をしていらっしゃる。


私がかっこいい。というと。

だろ~。と鼻歌まで歌いだす。

この世界を満喫しまくってますね・・。うらやましい。


私がため息をつくと、ふと思い出したように暗殺士の人がこちらを向く。

「ディディアちゃんの顔が見たい。」

おいおい。勘弁してくださいよ。

「別に見せるのは嫌じゃないんですけど。この流れで兜を取るのは嫌です。」

落ちにされるのが目に見えているので遠慮します。


え~。と言いながら暗殺士の人が席を立ったので、ビクリと反応してしまう。

まさか、強硬手段で兜をとるのか!?そこまでする必要がありますか!!??

ひやりとしたその時。


「サイ、止めろ。」

剣士の人が、暗殺士の人を怒ってくれた。

暗殺士、サイはそんな剣士の人をニヤリと見た後、はいはい。と軽く返事を返し、席に座りなおしてくれた。


「すみません。私がアリさんを格好良いと言ったから脱線してしまいましたね。話を元にもどしましょう。」

剣士の人はアリという名前だ。2人とももっと長い(暗殺士の人は変な)名前だったけど略して呼んでいる。


「そうそう、話を元にもどすけど。ディディア、本当に動けると考えて大丈夫か?」

本当かどうかはわからないけど、一応動ける戦力としてみてもらって大丈夫だろう。

私はもう一度首を縦に振る。


「よし。じゃあ、俺たち3人で今日は行動しよう。」

あとの3人はどうするのだろうか。まあ、昨日の様子からすぐに動ける状態ではないのはわかっているけど。


「他の3人は・・おそらく、今日一日はこの宿から出たくないだろうな。」

彼ら3人の気持ちもわからなくはない。特に性転換してしまったキラさんの気持ちを考えると・・。


「で、考えたんだけど。今日は一度、ギルドをまとめる本部に顔を出してみないか?」

自分たちが所属するギルドがどうなったのか見てみたい気持ちはわかるけど、私ギルドに入ってないんですが・・。

とは言えず、首を縦に振る。ギルドに入っていないけど、一応他の人がどうなったか確かに気になるしね。


朝食を食べた後、席を立ち宿屋の扉を開けたところで暗殺士のサイが突然意見を変えた。

「やっぱさ、手分けして周りの状況探らねぇ?」


「3人とも別々にか?」


「いや、俺だけ別。俺さ、ちょっと街に言って獣人の女の子・・・じゃなくて聞き込みに言ってくるわ。」

なるほど、獣人の女の子を探しにいくんですね。

ゲーム内では獣人の種族もいて、猫耳に猫尻尾とかウサギ耳の女の人の美人さんとかいたからね。

生身で見れるのなら、私も一度は見てみたいけどさ・・。


「で?何を聞き込むんだよ。」

剣士の人はひっくい声でサイを睨み付ける。


「えーと。ほら、あれ。町の状況とか?物の価格とか?とにかく色々だよ!色々。」

いいだろー。とサイはすでに別行動する気満々だ。


剣士のアリは大きくため息をつく。

「わかった。ただ、手ぶらで帰ってきてみろ、マジで殺すぞ。」


その言葉に、はいはい~と手を振ってスキップでサイは街中へ消えていった。


「なんだろ。あいつが凄くうらやましく思える。」

「大丈夫。私もです。」


お互い顔を見合わせて少し笑う。

でも、サイさんのような存在がいてくれて精神的には助かっているかもしれない。


「じゃあ、行こうか。」

その言葉に私は首を縦に振る。

もちろん、アリさんの存在も大きく助かっていますよ。

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