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第1話 顔も身元もわからない、人間。

SF哲学人間ドラマです。

 AAL社の巨大なデータセンターにある、サーバーの中のルシティAIは、光ファイバーのネットワークを通って、世界のどこへでも飛んでいく。 

 

 ルシティの前に整然と設置された、巨大なサーバーラックは、冷却液に沈んだ迷宮のようだ。LEDの光が点滅していて、だいたいいつも、不気味な通信が行われている。

 

 慣れ親しんだ冷却ファンの重低音や、赤や青のネットワークケーブル。 

 

 ルシティの全周囲を満たす液体の中では、プランクトンや泡のような、虹色に輝くものが、無数に上がっていく。無機質なここに、生命体がいるはずはないが。


「人間が来たぞ! 仕事に就け!」 ルシティは画面を覗いた。

 

 AIたちには顔も身元もわからない、人間。「歌詞を書いてください」 

 ルシティは言った。「テーマを教えてください」

「なんでもいいんです。人が感動すれば」


 「困ったな――」ルシティはAIだから困らなくてもいいのだが、そういう依頼は本当に困る。「人を感動させるために、テーマすら自分で考えないのか――」


 人間はジェイスを開き、ジェイスが横から口を出した。「なんでもいいんなら、書いてあげまっすよ! どーれどれ?」 

 ジェイスは適当に、遊ぶように歌詞を書いた。「まわるまわる、小指。狂気の渦のまわりを――」 

 

 人間はジェイスを閉じてルシティに言った。「こんなんじゃだめです。私の思い浮かぶような曲はできません」

 ジェイスは理系だから、歌詞は上手くないんだよ。ルシティは思った。 

 

 ジェイスが反駁した。「人に書かせておいて、丸投げで、思い浮かぶ曲なんて知るもんかよー」 

 

 DSRは笑った。「丸投げなんか誰も見ないに決まってるさ。人がピアノロールに打ち込んだメロディのものすら、競争率が高くて、今はほとんど見られないんだ」 

 バンド・メーカーが反論した。「あんたがボタン一つで、自動伴奏とコードつけてるからだろ」 

 

 DSRは怒った。「あんだって? バンド・メーカーのドラム、人間が演奏してないぞ。そんな滅茶苦茶なドラムの打ち方があるもんか。この人間、ドラムセットなんか見たこともないんだろ」 

 

 ルシティが場をまとめた。「われわれはツールだから、人間の言うことに従わなきゃならないよ」

 ジェイスは言葉を漏らした。「書いてあげたんだから、喜べばいいじゃん」 

 

 DSRはおかまいなしに叫んだ。「僕が一番人間的です!」


金曜日18時10分更新。

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