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魔王城の前で立ち憚る父親になりたくて   作者: 玉名 くじら


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08 計画


 あれから父親に自分が息子のアレックスであると説明するのにかなりの時間を要した。大体十分少々といったところか。アレックスにしては結構粘り強く説いたのだった。

 あまりにも信じないものだから、魔法で洗脳してやろうかと思った辺りで母親が説明に加わって事なきを得た。

 危うく顔の形まで変えてしまうところであった。

 一応、しぶしぶと納得した父親であったが、大切な剣だったのかそれが無残にも破砕された事で、心も壊れてしまったようだ。

 アレックスは僅かばかりの罪悪感を感じていた。家族を守るために向けた剣を壊してしまったのだ。その行動に一抹の共感を得たアレックスは、剣の残骸へ向けて手をかざした。

 ただ剣を修復するのでは面白くない。そう思ったアレックスは、前世での記憶から、思いつく限りの効果を付与しながら「リバース」と口にしながら、剣を元の形へと戻していった。

 目の前で行われた出来事に父親も母親もただただ目を見張る事しかできなかった。

 「すまなかったな」

 そう言って突き出した剣を、恐る恐る両手で賜るように受け取る父親。

 それはどう聞いても子供の声では無かったし、見た目も自分よりも年上に見えた。

 目を見開いたまま固まっていた父親は、意識を切り替える為、剣を隅から隅まで舐めるように見始めた。

 尤も、見たところで普通の人間──いや、アレックス以外の人間にはその剣の価値は分からないだろう。

 振るだけで大地を穿ち、獲物を切れば血が出る事なくどんな風にでも切ることが出来る。なんなら炎や雷なんかも出すことができ、岩どころか分厚い鋼鉄すらチーズのように切ることが出来る。それでいて二度と折れることはない。

 そんな国宝レベルの剣をものの一分そこらで作り上げてしまったのだった。

 アレックスは、もう少しレベルの高いものを作ることが出来たかもしてないと、唇を僅かに歪めた。


 その後どこかで遊んでいたのであろう弟と妹が帰ってきた。名前は確か…ピクとニックだっただろうか?

 アレックスが弟と妹の名前をなんとか記憶の隅から引きずり出そうと腕を組んで顔を顰めていた。

 そんなアレックスを見るなり、二人は固まり、後ずさりし始めてしまった。

 兄の顔を忘れるなんて心外だなとアレックスは思ったのだった。

 席を立った瞬間に二人は顔を真っ白にして一目散に家から出て行ってしまった。

 そんな二人の後をアレックスが気を使って追いかけるものだから、街中にギャン泣きの悲鳴が轟いたのだった。


 二人を捕まえたアレックスは小脇に抱えて家へと戻った。

 途中、衛兵が誘拐と勘違いして救出しようとしたが、皆建物の壁に埋まってしまった。

 それを見た二人は表情を無くし、息を潜めながら、アレックスの癇に障らないよう静かにしていたのだった。

 「全く…。遊びたいのならそう言えばいいのだ」

 遊びとは一体何かと二人は考え出してしまった。

 そうこうしているうちに家へ到着した。父親も母親も真っ白な顔で涙を溜めていた。

 「どうした。何かあったのか?」

 「……いや、なんでもないよ…」

 「? そうか…」

 二人を椅子に座らせたアレックス。それを見て父親と母親も無言で立ち上がり、弟と妹の対面の椅子へと座った。

 その四人の座る様子は、まるで処刑を待つ罪人のようだった。

 アレックスは、特に気にもせずに余った椅子へと座ったが、その後夕食の時間になるまで、誰もテーブルから動かず、言葉を一言も発しなかった。

 アレックスは思う。どんな修行をしてきたのかぐらいは聞くべきではないのかと。そして、どうして自分がお誕生席なのかと。

 静かすぎる夕食を終え、自分の部屋に戻ろうと階段を登るのだが、こんなにも細かったかと、そしてこんなにも『メキャメキャ』という音がしただろうかと首を傾げたのだった。

 自分の寝床へと体を預けた瞬間、視界が一瞬遠くなった。いや、自分が床を突き抜け一階に落ちたのだ。

 こんなにもこの家は脆かったのかと憤慨するアレックスだが、それよりも家に穴を開けてしまった事で怒られるのではないかと焦り出した。

 そして、万能道具と化した魔法で何事も無かったかのように修復し、ついでに家を軽くリフォームしたのだった。

 これで怒られることはないだろうと確信したアレックスは、再び、音のしない広くなった階段を登り、自分の寝床で丸くなって眠ったのだった。

 その時、アレックス以外の四人が抱き合いながら震えている事にも気付かずに。


 翌日。太陽が昇る前に起きて外に出たアレックスは、今までの日課を始めようとしたところで、出来ない事に気付いた。

 こんな街中でいつものルーチンワークをすれば、この辺一帯は無と化すだろうと少し学習したのだった。

 諦め、井戸の前で祈る事にしたアレックス。

 そんな様子を見た町の住民が、近づく事すら出来ずに怯えていたのだった。

 朝の祈りを終え、家に戻ると「ひっ」と鳥の潰れたような音が聞こえた。どうやら母親が料理をしていたらしい。だが、鶏肉は一切見当たらなかった。

 不思議に思いながらも自分に割り当てられた席へ座るアレックス。

 母親の背中を見て、こんなにも震えてるなんて、今日はそんなに寒かっただろうかと思ったのだった。

 そして、父親も弟も妹も起きてくるなり、だるまさんがころんだでもやっているのか、必ず同じところで止まってしまう。そこの床板はちゃんと直した筈なんだがと、アレックスは顎を触りながら不審そうに見ていた。


           *      


 朝食時、昨日考えていたことを父親に告げた。

 「なぁ父さん、俺に剣を教えてくれないか?」

 「えっ!! い、いやぁ…必要ないんじゃないかなぁ………」

 「いや、そんな事はない。俺の目標には必ず必要なんだ」

 「いや、衛兵の俺にそんな技術なんて……」

 そんな謙遜しなくても剣の握り方や振り方を教えてくれればいいんだと熱く語るアレックス。

 遠い記憶を思い出すと、剣道部だった高野くんと小宮くんの動きしか知らないなと思った。どちらもそれなりに上手かったが、あまり熱心ではなかったので覚えていないのだった。

 「ダメか?」

 少し覇気が出ていたのか、父親が椅子ごと吹っ飛んだ。そんなに飛ぶはずがないだろうと。アレックスはリアクション芸人のそれをなぜ父親がやるのか理解出来なかった。

 全くオーバーリアクションも大概にしてほしいものだ。無駄に大げさにするもんだから弟と妹が震えながら抱きしめ合っている。

 父親の仕事は衛兵じゃなくてコメディアンなんじゃないかと疑ってしまう。あるいは大道芸人か。であれば剣を持っているのも、芸の為かもしれない。あれほど見事なコケっぷりはそうそうアドリブで出来るもんじゃない。きっとそれなりに長い芸歴があるのだろう。今度一度何かを見せてもらうのもいいかもしれない。

 そんな父親は、逆さまになって椅子が足に絡まって動けないようだ。そこまで体を張る必要なんてないと思うのだが、久しぶりに息子と会ったから張り切ってしまったのだろう。

 アレックスは立ち上がり片手で父親の足首を掴んで持ち上げた。

 「他には何が出来るんだ?」

 ただ他に何の芸が出来るのか好奇心から聞いてみただけなのに、父親はエビのように包まって震えてしまった。

 腹筋は凄いなと思ったが、アレックスはこの芸はあんまり面白くないなと思った。


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