05 修行①
別に勇者や英雄になりたい訳じゃない。
ただ強い事で達成出来る夢がある。
俺はそれに強い憧れを抱いていた。
その頂に到達するには並大抵の努力ではなし得ない事を理解しているつもりだ。
であれば、やる事は簡単だ。鍛えて鍛えて鍛えて鍛えて鍛え抜けばいい。
「なぁ、母さん」
「なんだい? ご飯はまだだよ」
「俺、修行しに山に篭ろうと思うんだ」
料理をする手を止めて、戸惑うような不審そうな顔でアレックスを見る。
「あんた、本当にどうしちまったんだい?」
だが、アレックスがそれに答える事は無かった。
ただ、これから行う事を告げただけなのだ。
幸か不幸かアレックスは学校にも通ってなければ、仕事すらしていない。本来ならどちらかをしている年齢だ。
だが、アレックスはそれ以上の事を言うつもりもなかった。
「ジョンとマリーはどうするんだい?」
一瞬誰の事なのか分からなかったが、それが自身の弟と妹である事に気づくのに少しの時間を要した。
「俺がいなくても大丈夫だろ?」
「何言ってんだい! まだ小さいんだよ?」
「分かった。二人も山に連れて行こう」
そう言った瞬間、大きく目を見開いて「とんでもない!」と声を大にして言った。
そして、「…あんたの好きにしたらいいさ」と、アレックスにはもう何を言ってもダメだと判断し、調理を再開した。
「まだ、物騒なんだ。気をつけて行ってきな」
ぶっきらぼうに言い放つが、どこか心配するような雰囲気も感じられた。
確かに、まだ殺人犯も捕まっていない。だが、魔法を用いれば難なく倒せるだろう。この前の悪漢だってそうやって倒したのだし、何なら山へ行く前に出会したら捕まえてもいいとアレックスは考えていた。
修行へと向かう日の朝、母親は本当に出ていくとは思っていなかったようで、戸惑いを隠さずにはいられなかった。
ここ数日のアレックスの変化にずっと戸惑っていたが、気持ちが追いついていないのだ。
母親は少し焦燥していたのか疲れた顔をしていた。
「まさか、本当に出ていくとはね…」
「大丈夫。ひと月くらいで戻るさ」
「あんたは子供なんだから、危ない事するんじゃないよ」
「心配しなくても大丈夫。じゃ行ってくるわ」
そこら辺に遊びに行くかのような感じで、何も持たずに出て行った。
この時までは、本当に修行という名の遊びに行くだけだと母親は思っていた。
だが、翌日にはその考えが間違いだと気付かされた。
街の中を歩き、街を囲む壁へと到着した。
関所のような場所で、身分確認をしていた。かなり大勢の人間が列をなしていた。あの列に並んでいては街を出る頃には来週になってしまうかもしれないと顔を顰めた。
だが、自分に身分を証明する様な物は持っていないと思い出した。
面倒だなと思ったアレックスは、何かないかと数秒思案して、自身に認識阻害の魔法を掛けて街を脱出した。
あまり魔法が普及していないのか、すんなりと通る事が出来た。
そのまま暫く歩き振り返る。端から端までかなりの距離がある。円形であるはずだが、遥か彼方まで一直線にそれは続いており、端が見えなかった。そこがかなり大きい街である事に気づいたが、アレックスにとってはどうでもよかった。メテオ一発で消し飛ばせそうだなと思うだけだった。
暫く街道を歩く。時々人とすれ違うが、皆が皆目を見開いては顔を覗く様にして見て去っていった。
牛車を引く男も牛も自分を見て首を傾げた。次に同じ事をしたら吹き飛ばしてやろうかと考えた辺りで立ち止まった。
左手に鬱蒼とした森が広がっていた。
街から歩いていた時に見えた山の麓の辺りだろうか。ここを突っ切れば最短距離で行くことが出来るが、手入れされた森ではないのか、木々の間隔はバラバラで、下草は繁茂し、つる草に至っては木々を覆い隠すほど伸びていた。
奥を窺おうにも漆黒が広がるだけで何も見えなかった。
他から入るところは無さそうだと判断したアレックスは魔法を組み合わせて衝撃波を放った。
馬車が二台余裕ですれ違える程の広さの道を作り出した。鬱蒼とした森には僅かばかりの光が降り注いでいた。
ここを歩いていけば間違いなく着くだろうと考えたが、やはり魔力が少ないのか視界が一瞬暗くなる。
これはやはり魔力量を増やさなければならないと膝をつきながらぼんやりと考えた。
そして体力や筋力も必要だなと思い至った辺りで、やっと魔力が回復したのか、視界の靄は晴れていた。
「よし…」
小さく声を出しながら立ち上がり、出来たばかりの道を歩き出すアレックス。
所々残った根っこや岩を消しながら、道を整備しながら進んでいく。
これも訓練の一部である為、丁寧に整えていく。まるで前世でやっていたマイン◯ラフトのようであった。
暫く進むと、道が途切れていた。いや、その先はあるのだが、どうやら湖沼地帯では先ほどの魔法では道にならなかったようだ。
これは改善があるなと考えるが、そもそも池や沼を埋めるのもよくないなと思い至り、橋を作ることにした。
道の端には倒れたり吹き飛んだ木々があるので材料には困らなかった。
アレックスはどういう形にしようか考え、地元にあった名所を思い浮かべた。
そして完成した橋は木製のアーチ状になっていた。
完成した橋を見てRPG感がより強くなったなと、口角を上げて何度も頷いていた。
そうして歩いていくと、山の麓へと辿り着いた。
辿り着くころには、視界が暗くなるような事も、頭が痛くなる事もなくなっていた。
見上げた山は何の変哲もないのだが、修行するのは相応しいと思い、自然と笑顔になった。
そして、あの時放った衝撃波は山にも大きな穴をあけていたらしい。向こう側に微かに光が見えたが、アレックスはあまり興味を持たなかったらしい。
そのまま一瞥して岩に手をかけ登り始めたのだった。




