04 魔法
アレックスは目を見開き、小さく呻きながら驚いた。
まさかファンタジーのような魔法を目の当たりにしたからだ。
「ちょ、か…母さん今のは?」
「あんた本当にどうしちまったんだい? そんな不審なもんを見るような目をして」
どうやら『母さん』呼びは間違っていなかったらしい。
「あ、あぁ…。えっと、今のは?」
「今のって魔法のことかい?」
「そうそれ」
「別に大したもんじゃないよ。ただ風を巻き起こして掃除する。それだけさ」
アレックスの心はときめいた。まさかゲームや漫画で見た魔法が現実に存在するなんて。
これは是非とも使ってみたいと思った。
「それ、俺も使えるんか?」
「使えるでしょう? なーに当たり前の事を聞いてるんだい! あ、もしかして部屋の掃除をサボったのはもしかして…」
「え? あ、違うんだ。ちゃんとやるよ」
「そうしておくれよ」
慌てて取り繕う。下手に機嫌を損ねられて、根掘り葉掘り聞かれても面倒だと感じたからだ。
「ところでさ、その魔法っての? もっと強いのってあるの?」
「なんだい突然そんな事聞いて…。まぁ、そうだねぇ、小さい風を巻き起こす程度しか出来んよ」
「え? そうなの」
「そりゃあそうさ。大体そんな大きな風や火を起こしてどうするってんだい。危ないったらありゃしないじゃないか」
それを聞いて愕然とした。
どうやらゲームや漫画のような攻撃魔法みたいな派手なものは出来ないらしい。
そもそも、それが自分みたいな平民だから出来ないのか、それとも母親があまり知らないのかによって今後の目標が変わる。
「出せる人っていないの?」
「…いないねぇ」
「そんな便利なのに?」
「これ以上必要かい?」
「………そうだね」
どうやら後者のようだった。返答に少し違和感があったが、恐らくあるのだろう。
であれば、目標は出来た。少し生活の向上を目指しながら魔法を極めてやろうと。
そう思うと、この世界も悪くないとアレックスは思ったのだった。
さて、実際になんの魔法があるのかを、顔を引きつらせた母親から聞いた結果、四種類の魔法しか存在しない事が判明した。
まず先ほどの『クリーン』、ただゴミをかき集める程度の風しか起こせず、体は綺麗に出来ないのだそうだ。それでなんで『クリーン』なのかは分からなかった。
次に、『ライト』だ。これは光を灯すんじゃなくて、火を起こすものだ。指先にマッチ程度の火しか起こせないし、数秒程度しか持続できない。中途半端に不便だ。
三つ目は、『カット』。文字通り切る事が出来るが、切れるのは髪の毛やヒゲ程度。肌に傷なんかつけられない。便利なんだか不便なんだかわかりゃしない。野菜すらきれず何が『カット』か。
最後は期待もしなかった。『サイレント』。なんと、耳栓の代わりだそうだ。これで誰のいびきも聞かずに眠ることが出来る。……アホか! もっとマシなもんはないのかと。
恐らく、母親の使えるものがこの四種類なのだろう。きっと他にもある。大体初級の水が出せるような魔法が無いのがおかしいのだ。
もしかすると、魔法の名前も違う可能性がある。
母親が使うときに頭に「えーっと」とつける事が多いからだ。
であれば、当面の目標が出来た。他の魔法を調べる事とそれを習得する方法だ。
早速街中に出て、そういう事を行ってる人がいないか見て回った。
一応いるにはいたが、どれもこれも生活魔法というのすらおこがましい程しょぼかった。
しかし他にも魔法はあるのだという事を知れたのは僥倖だった。
早速人気の無い場所へ行き練習してみる。
母親の出すのよりも威力が強かった。
そんな時、人気の無い裏路地に入った事がよくなかったのだろう。
いくつかの影が見えたので、振り返ると、いかにもといった顔つきの男が三人、ニタニタと汚い笑顔を浮かべていた。笑顔だけでなく全体的に汚かった。綺麗な部分を探す方が難しかった。
「よぉ。こんな所でなにしてるんだぁ」
「ひっひっひ。殺されたくなかったら金目のもん出しなぁ」
「無いなら売り飛ばすだけだがよぉ」
これは助かる。実験台にしても良心が咎めない絶好の悪漢だ。
魔法とは想像力に依るところが多かったはずだ。
だから、先ほどよりも強いイメージを持って魔法を使えばいい。
頭の中に無数の鋭い刃を複数イメージして、両手を前に突き出し、声に出す。
「カット」
「なんだぁ…」
「何をし…」
「そんな事し…」
男達が言い終わる前に魔法は発動し、気がつけばバラバラになった男達が目の前に散乱していた。
「すごいなこれ」
感慨に耽っていると、視界がぼやけ始めた。
もしかしたら、『魔力』というものが枯渇しかけているのかもしれない。
肉片には見向きもせずに、急ぎその場を立ち去り、家に戻りそのまま泥のように眠った。
目がさめると、既に夜だった様だ。
真っ暗な部屋では何もすることが出来ず、まだ身体に気だるさが残る為、そのまま再び眠りに落ちたのだった。
翌日、目を覚まし、一階へ降りると、母親が深刻な表情でテーブルに肩肘を付き、頭を抑えていた。
「おはよう。どうかした?」
「あぁ、アレックス…。昨日はアンタ随分と早い時間から寝たんだね」
「ちょっと疲れてね。ところで、どうしたの? そんな疲れた顔して」
「あぁ、昨日ここいらで殺人があったらしくてね。いろいろと戸締りやらなんやらやっていてねぇ…。物騒だからアンタも気をつけなよ? 勝手にウロウロと裏路地に入ったりするんじゃないよ」
その顔は心配する母親そのものだった。
「分かってるよ。それにしても殺人なんて…。犯人捕まってないの?」
「どうだろうねぇ。まぁ、素行のいい連中じゃないから…って、こんな話子供にするもんじゃないね」
それ以降は何があったかは教えてくれなかった。
それにしても殺人とは、異世界とはなんて物騒な世界なんだとアレックスは軽く憤った。
そして、そんな世界でも強くあらねばならぬとある事を決意した。
自分の思い描く未来の為にも…。




