20 機転
話を聞いていたアレックスは、特に反応を示さなかった。
眉一つ動かさず、息も荒くなる事はなかった。
そして、そのまま踵を返すと、一言も発せずに部屋を出ていった。
残された国王と魔王は互いに顔を見合わせ、張り詰めていた緊張が途切れたのか、大きなため息を吐いた。
そして、ボロボロの状態で挨拶をしたのだった。
「お互い大変ですね」
「そちらも、大変なご迷惑をおかけして、誠に申し訳ない」
その後は、被害のあった部屋を出て、国王を治療し、それぞれの意見を交換していた。
喫緊の問題はアレックスによる魔王城前の不法占拠であるが、王国側が補償するという事で一応の解決を見せていた。
その後、兵士たちが、王都内を捜索して回ったが、アレックスの姿は見つけられなかった。
生家へ帰ったとの報告もなく、城門を通ったという話も聞かない。まるで霧のように消えてしまったのだった。
国王も魔王もその薄気味悪さに内心不安を覚えていたが、何もしないわけにはいかなかった。
魔王は国へ戻り、国王は王国内の捜索を命じた。
魔王が船で帰国の途についている途中、船上に大きなホログラムのような映像が浮かび上がった。それは全ての国で、あらゆる地域で確認する事が出来た。
そしてクリアな音声で誰の耳にもその声は届いた。
「アレクサンダー。お父さんは悲しいぞ。お前が来るのをどれほどに待ち望んだことか。だが、それが叶わないと知った。であれば、お前が俺の元へ来たくなるような世界にすればいい。なぁに簡単な話だよ。いずれ分かる。お父さんは待っているぞ。いつまでもな」
珍しくニッコリとした顔で締めくくった映像は、そこで唐突に終わった。
アレックスによる一方的な独白は世界中へと伝わった。
だが、それを本気にするものは殆どいなかった。
危惧したのは王国の中枢と魔王だけであった。
結果はというと、魔王が自分の国へ戻る前に知る事となった。
アレックスは一足先に。といってもアレックスは隠していた転移魔法で魔王城へと一気に戻り、魔族の国を侵略した。そして、魔族の国の住人を追い出し、魔法によって魔獣や魔人を産み出しあらゆる国や地域へと解き放った。
それはどこかで見たことのあるようなデザインをしており、どれもとても凶暴だった。理性のカケラもなく、ただ襲うことしか考えていなかった。
ドワーフの国、エルフの国、獣人の国などありとあらゆる国を征服し、追い出し、生活圏を狭めていった。
僅かに残ったのはアレックスの生まれた王国のみである。それ以外には、凶暴な魔獣が跋扈していた。
そして、占拠した魔族の国では、アレックス自ら生み出した魔物を各地に派遣していった。
僅かな期間で世界を混沌へと変えたアレックスは魔王城の広間にある椅子に座っていた。
その前には四天王と呼ばれる者が四人、アレックスへ賞賛の言葉を述べていた。
「いやぁ。さすがは新魔王様。たった数日で世界をここまで変えてしまうなんて流石ですぅ」
「本当だよね。平和ボケした奴らの慌てふためく様子は最高だったなぁ」
「ここまで順調に行くと、少々退屈ですね」
「それにしても、容赦無く攻めていくのはさすがのあたいらもびっくりさ」
それぞれが、アレックスがどこの場所をどんな方法で攻め落としたのかを、興奮気味に語っていたが、当のアレックス本人は一切興味を持たなかった。
そんなアレックスが確認の為にあることを訪ねた。
「ところで、人類の生存圏はあの国だけか?」
「えぇえぇ。そうですね。いろんな種族が押しかけてギュウギュウの状態ですが、そこ以外は全て我々の領土ですねぇ」
「そうか。つまり、城門を出れば魔物が襲ってくるような状態と言って間違いないか」
「まちがいないですぅ」
そこで、始めてニヤリと微笑んだアレックスを見て、四天王は更に過激に攻めていくのだろうと確信し笑みを深めた。
アレックスは立ち上がると、一番近くにいたヒゲ男の肩に手を乗せる。
ヒゲ男は気持ちの悪い声で喉を鳴らした。何かを期待するかのように。
だが、それはヒゲ男の予想の範囲を超えていた。
「今日からお前が魔王だ」
「は?」
「空いた四天王の枠には適当に誰か当てがってくれ。じゃあな」
そう言って部屋を出て行こうとしたアレックスを四天王が止める。
「ま、待ってくだい。ここまで来て魔王を辞めるとはどういうことですか。これからじゃないんですか?」
「そうです。我々と勝利を勝ち取るのが夢ではないのですか?」
「そもそもこいつを魔王になどと、ありえませんよ」
「いやぁ。私は別に構いませんが……」
アレックスは振り返ると、なんてことはないと言った風に口を開いた。
「魔王の座に興味はない」
「そんな…。では、あなた様は一体どうなさるというのですか!」
そこでアレックスは口角を上げた。
「決まっているだろう。魔王城の前で立ち憚る父親になるんだよ。最後の試練を執り行う父親にな。その為に舞台を用意したんだ」
「何を…言って…」
「俺はそこでアレクサンダーと戦えればそれでいい。そして死闘の末息子を見送る。それをやりたいんだ」
「意味が分かりません。そもそもあなた様より強い者など…」
「俺を超えてもらわなきゃ困るな。でなければ世界を壊した意味がないのだからな。じゃ、後は頼んだぞ」
そう言って、制止の言葉を背に受けて魔王城を後にしたアレックス。
十五年もの間過ごした魔王城の前で、座り慣れた丸太に座ったアレックスは、串にマシュマロを刺して焚き火に近づけたのだった。
* * *
「お呼びでしょうか、国王様」
「ああすまないな。アレクサンダー」
「要件はなんでしょうか。増えた亜人の居住区の問題でしょうか?」
「それはこっちで対応する案件だ」
感情の乏しい顔で国王を見つめるアレクサンダー。
周りに侍る衛兵がいくつかの箱を持っているのが気になった。
文官として生きていくと決めたアレクサンダー。
あの日、世界中に映し出された映像により世界は作り変えられた。
自分にも一端の責任はあるかもしれないが、兵士が対応する案件であると考えていた。
街中の治安も悪化したが、関係ないと高を括っていた。
そんなアレクサンダーに国王は笑みを消して告げた。
「魔王アレックス…いや、魔王城の前で待つアレックスを討つのだ」
「待ってください国王様。僕はあと半月で二十二ですよ? 剣どころかナイフすら持ったことはないのです。他の方を当たってください」
「アレックスの目的はお前だ。やはり、あの時心を鬼にしてでもお前を送るべきだった。頼む。世界を救う為アレックスの元へ赴いてはくれないだろうか」
「お断りします」
間髪入れずに拒否を示すアレクサンダーであったが、着々と話が進んでいく。
衛兵が箱から武器防具などを渡してくる。
受け取りを拒否すると、足元に置かれていく。後ろを振り返ると、扉の前には大勢の衛兵が塞いでいた。
最早、『逃げ出す』と『辞退』という選択肢は排除されていた。
あれを倒せるような力があれば、悩みなどしないとアレクサンダーは思った。
「では、最後に路銀として50ゴールドを支給しよう」
「少なっ!」
そんな声も虚しく、気がつけば手の上には小さな小袋が乗せられていた。
「では、世界の為に頑張ってくれたまえ」
アレクサンダーは目の前が真っ暗になったのだった。
「どうしてこうなった」
だが、それに応えるものは誰もいなかった。
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