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魔王城の前で立ち憚る父親になりたくて   作者: 玉名 くじら


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18/20

18 帰国


 船に乗り港へ着く。そこから王都まで馬車で移動しようとしていたが、馬車には体格の関係で乗りこめず、歩いていくことに。

 そこまでの道中全ての旅費を魔王が出していた。

 よく食べるため、帰りの旅費の分を既に使い切っていた。

 約二週間を超える旅路を乗り越え、やっと王都の城門へと辿り着いた。

 地獄のような旅路で、魔王はモヤシのように白く細く痩せ細っていた。

 「軟弱な男だなお前は」

 反論する気力すら起きなかった。


 城門の前まで歩いていくと、城門前にいた兵士たちはまるで亡霊を見たかのように怯え出した。その中の一人が急いで奥へと走り出した。

 そして詰め所から大勢の兵士が出てきて整列し、一気に頭を下げた。

 「これは…」

 「ご苦労」

 審査待ちの人達の横を堂々と胸を張って通り過ぎていく。その後ろを小間使いのように平身低頭で付いていく魔王。

 誰もそれを止めたり伺ったり怒ったりしない。少しでもアレックスの気に触れたら、痛いどころでは済まないからだ。

 それは、何年経っても若い兵士に言い聞かせられてきたのだ。─────関わるな、と。


 魔王は驚いていた。アレックスに対する兵士の態度にではない。王国の繁栄具合にだ。

 しかしアレックスは本当に興味がないのか、一瞥することなく歩いていく。

 歩くこと十分少々。目的地はとある民家の一つだった。

 それは周りに比べて少し大きいがデザインや材質などは突出していない普通の家だった。

 アレックスが家の前に近づくと同時に、中から一人の女性が出てきた。

 そこそに若作りした女性で、髪や肌には艶があり、どことなく色気を纏っていた。

 その女性はアレックスを見て驚くと、壁に背を付けて口をパクパクさせていた。

 「あ…あんた…い、生きていたのかい?」

 「えっと、この女性は…」

 「妻だ。名前は……………………………………………」

 口を開けたまま固まるアレックス。

 きっと一生答えは出ないだろうと魔王は思った。

 「覚えていないのか?」

 「あぁ」

 「あんた…」

 女性が呆れた声をだした。

 マリアはアレックスと魔王に自分の名前を告げた。聞いてもなおアレックスは記憶にないといった顔をしていた。

 「こいつマジか…」と魔王が小さく呟いてマリアに頭を下げると、マリアも頭を下げた。

 しかしそんな事にお構いなしのアレックスは淡々とマリアに尋ねた。

 「アレクサンダーはどうした。ちゃんと旅に出ているのか」

 「あんた何を言っているんだい?」

 初めて聞いたといった顔をするマリア。それもそのはずだ。旅立ちの件は国王やその近くにいた衛兵や文官達にしか言っていないのだから。


 険悪なムードが立ち込める。魔王は嫌な予感がして、いつでも逃げられるような体勢をとっていた。

 そんな時、中から男性が三人の子供達と一緒に出てきた。

 「マリアどうしたんだい?」

 「あ、あぁ。実は…」

 「お前は誰だ」

 マリアが何かを言う前に、アレックスが疑問を口にした。

 「あ、あぁ。あんたが死んでると思ったから、再婚したんだよ。あんたのご両親は快諾してくれたから、そのまま前に付き合いのあったこの人と結婚したんだよ」

 それは懸命な判断だと魔王はうんうんと頷いていた。

 だが、それを聞いても眉ひとつ動かさないアレックス。

 「そんな事はどうでもいい。お前が誰と再婚しようが俺には関係ない。問題はアレクサンダーがどうしているかだ」

 「君はひどい男だな」

 「なんだと」

 振り返り魔王の顔にアイアンクローを食らわせるアレックス。なぜか魔王には当たりの強いアレックス。

 そんな事をしていると、更に中から女性が一人出てきた。

 「家の前で何をそんなに喋っているんだい……って、あんた! 生きていたのかい?」

 どうやらアレックスの母親のようだ。魔王はその女性に刻まれたシワを見て、かなり苦労しただろう事を想像した。

 アレックスの母親は魔王を見るなり憐れみの表情を向けた。

 「母さん、ちょうど良かった。アレクサンダーはどうしてる」

 アレックスの母さん呼びに、吹き出した魔王を肘で小突いた。アレックスの肘打ちだ。簡単に魔王は鼻から血を出して後ろに倒れ伏してしまった。

 「だ、大丈夫ですか?」

 「気にするな。それよりアレクサンダーはどうしてる」

 アレックスの態度にそこにいた全員がドン引きしていた。子供達も突然の大男の来襲に震えていた。

 そんな大男が目の前で蛮行を起こしているのだ。例えそういう行動を知っている家族でさえ引いていた。

 だが、アレックスは話の続きだけを求めていた。

 「早く言え」

 「王城で文官をしているよ」

 「なんだと。どうなっている」

 珍しく声を荒げたアレックスは鼻を押さえて悶絶している魔王の首根っこを掴むと、家族を見る事なく王城へと足早に歩き出したのだった。

 「ちょ、ちょっとどこ行くんだいっ、あんたー!」

 その声は決して小さいものではなかったが、アレックスの耳には届いていなかった。

 

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