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魔王城の前で立ち憚る父親になりたくて   作者: 玉名 くじら


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17/20

17 回避


 アレックスは元いた場所でヒゲ男と何やら会話をしていた。よくあの男と談笑できるなと呆然と見ていたが、何をしでかすか分からない以上、ここで立ち尽くすわけにもいかず、急いだ魔王は小走りで城壁を通り抜けた。

 別にヒゲ男がどうなろうと魔王にとってはどうでもよかったのだが、ヒゲ男に影響されてまたぞろ問題を起こされても困ると考えた。そして、近づくと和気藹々とボディランゲージを交えて話していた。

 ヒゲ男が当たった箇所を抑えていたので、相当に痛いのだろう。

 「お前面白い男だな。気に入った」

 「ドュフフ。ありがとうございますーん」

 あいかわらずボフボフとしたダミ声でよく聞き取れないと魔王は思っていた。

 痛さのせいか、ヒゲ男の語尾がおかしいと思った魔王は、おかしいのは顔だけにしてほしいと目を細めて見ていた。

 「では、ここは任せたぞ」

 「お任せくださいーん」

 手ぶらで行こうとするアレックスを魔王が後ろから制止した。

 「待て。荷物とか持っていかないのか?」

 「すぐに戻るのだから必要ないだろう?」

 魔王は顳顬を抑えてよろめいた。

 「何踊っているんだ?」

 「お…踊ってなんかいない…」

 「そうか」

 アレックスはそのまま街道の方へと歩き出した。

 魔王も諦めて後を付いていくことにした。

 後ろを振り返ると、ヒゲ男が痛くない方の腕を上げて振っていた。

 小さく舌打ちしてアレックスの後をついていく魔王。


 この時魔王はあることを完全に忘れていた。

 誰も通ることがなくなって久しいかつての主要街道。雑草が所々生えてはいるが、アレックスが日々歩いているのか雑草の数は少ない。

 だが奥に行くにつれ雑草が増え、道が狭まっていた。

 こんな状態では誰であろうとここへなど入り込んだりはしないだろう。目的地への道がここ以外にはい場合を除いて。

 そんな道をアレックスは気にせず、ガンガン進んでいく。魔王は追いつくのでやっとだった。

 數十分程、雑草生い茂る道を進むと柵が設けられていた。

 「なんだこれは」

 木の柵を掴んだアレックスはそのまま『バキッ』と音を響かせて破壊した。

 少し遅れて追いついた魔王がそれを見て、一気に顔を青ざめさせると、両手で口元抑えて膝から頽れてしまった。

 「………忘れてた…………………」

 柵の向こう側では大勢の商人や旅人などが歩いていた。

 アレックスは木の柵を完全に破壊して、街道へゆっくりと出た。大勢の視線を浴びても気にする様子はない。

 そしてアレックスはある看板の存在に気づいた。

 『ここから先大変危険な道となっております。勇者の方はこちらをお進みください。それ以外の方は、大変恐縮ですが左側の道をお進みください。お急ぎのところ、誠に申し訳ございませんが、何卒、ご理解ご了承をお願いします』

 「これは一体…」

 僅かに動揺するアレックスは周囲を大袈裟に見回していた。

 青い顔で恐る恐る出てきた魔王は、小刻みに震えるアレックスを見て恐怖した。

 そして、アレックスは振り返り魔王へ一直線に近づくと、片手で魔王の首を掴んで持ち上げた。

 「ぐっ……く…くる……し……」

 「なんだこれは」

 「…かはぁっ………がっ……あがっ……」

 周囲にいた人達も驚いて固まっていた。ただただ遠巻きに見ていることしかできなかった。なぜならば三メートルをゆうに超える大男が二メートル近い男を片手で持ち上げているからだ。それも丸太のように太い腕でだ。

 下手に近づいたり声を掛けようものなら、無事にすまないことは誰の目にも明らかだった。

 だが流石にアレックスも理性が残っていたのか、そのままパッと手を離すと、魔王は落とされ、そのまま尻餅をついた。

 「ぐぅっ!」

 「説明しろ。これは、なんだ」

 「ケホッ…ケホッ……」

 いつの間にか周囲からは人の群れが消え去っていた。尻餅をつくと同時に蜘蛛の子を散らすように我先に逃げ出したからだ。

 そして静寂が訪れると同時に魔王が睨めながら口を開いた。

 「…君が悪いんだ」

 「何?」

 「君があそこを占有した。そしてそれと同時に周りの人達へ危害を加えただろう?」

 「魔王の眷属なら当然だろう?」

 「眷属ではない。国民だ。そして我が国へ訪れた商人や旅人だぞ?」

 「? 魔族なんてどれも同じだろう?」

 基本的に他人に興味のないアレックスは首を傾げるにとどめた。

 「君がそんなんだから、代替の街道と城門を作ったんだ。君が誰かを殺してしまう前にな」

 「余計なことを」

 「だから、いつ来るか分からない勇者用に看板を立てたんだ」

 やはり私は正しかったと搔き消えるように呟きながら魔王は俯いた。

 「もしかしたら既に来ていた可能性だってあるだろう」

 抑揚のない声で話すアレックス。

 「残念ながら。城門を超える際に身分確認をしているからそれはない」

 それから魔王は怒りを抑えて、なるべく丁寧に説明した。

 「全く分からん。だが、アレクサンダーが来ていないということは分かった」

 「………………そうか………………」

 疲れたのか、一気に老け込んだ顔になった魔王。

 「じゃあ行こうか」

 なんて自分勝手なやつなんだと、魔王は小さく呻いた。

 「港はどこだ?」

 「こっちだ。ところで君の住んでた国の名前はなんだ? それが分からないとどこの港に行くか分からないんだが」

 「知らん」

 魔王は目を見開いて、すぐに諦めの表情に変わった。

 どちらにせよ、ここ十数年で領土を拡大した国は一つしかない。アレックスが語らなければ分からなかっただろう。

 こういう時、転移魔法のようなものがあれば楽なのになと魔王は思ったのだった。


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