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魔王城の前で立ち憚る父親になりたくて   作者: 玉名 くじら


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13 君の名は


 状況に戸惑う女性は、辺りをキョロキョロと見回していた。無理もない。いきなり下品な告白をされ拉致されてきたのだ。

 そんな女性に母親は椅子を引いて座るよう促した。

 軽く会釈して座る女性。少し縮こまっているが、露出の多い格好に母親以外の三人は服を剥いできたのではないかと疑いの目をアレックスへ向けた。そんなアレックスはなぜか誇らしげな表情をしていた。

 「ごめんなさいね…。うちの子、女性との接し方が分からなくて…」

 「あ、いえ…」

 先程までの会話と打って変わってしおらしくしている女性。やはりどこぞの令嬢を無理やり拉致してきたのではないだろうかと母親までも考え始めてしまった。

 しかし、よく見ると少しケバいメイクをしており、肌ツヤも髪質もあまりよくはない。安い香水の匂いが漂い、使い古されたような露出度の高いドレスを着ているので、どんな仕事についている人なのか聞かなくても分かった。

 再度アレックスを見ると、少年のようなドヤ顔をしていたので、アレックスの趣味かと無理やりに納得した。

 「えっと、アレックスとはどこで…」

 「十分くらい前に…」

 「「「「えっ!?」」」」

 家族全員が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。やっぱり拉致してきたのだと確信した。

 妹が申し訳なさそうな顔をして、軽く手を上げてから口を開いた。

 「うちのバカ兄が大変失礼な事をしました。あの…無理矢理連れてこられたんでしたら、やはりお帰りになられた方が…」

 「そうなんですけど、真剣に告白されたので…」

 「「「「えっ!?」」」」

 またぞろ家族が信じられないと言った顔をして父親と妹が、母親と弟が顔を見合わせてしまった。それくらいにありえない事だった。告白をするという行為にも驚いたが、女性を好きになるという感情が残っていることにも驚いていた。

 「一体どんな告白を?」

 弟が興味津々で尋ねると、女性は更に体を縮こませて、顔を朱らめて俯くと、小さく「俺の子供を産んでほしい……です」と答えた。

 それを聞いた全員が、こいつはやばいと犯罪者を見るような目つきへと変わった。

 まさか、「好き」とか「愛してる」と言ったものは言わないだろうとは思っており、「結婚しよう」くらいのものだと思っていたのだ。それをまさか、出会って直ぐ「子供を産んでほしい」は獣ではないか。盛りのついた駄犬ではないかと思ったのだった。

 そんな女性に同情の視線を向ける。もしかしたら、他にも言われて逃げ出せないのかもしれないと。

 だが、ここでふと疑問がよぎった父親がアレックスに質問をした。

 「な、なぁアレックス。この方の名前は知っているのか?」

 「名前? 知らん」

 そんなものあるのか? といったような答え方をするアレックスに父親は開いた口が塞がらなかった。

 堪らず母親が女性に体を寄せて話しかける。

 「あの…私はローズって言うんだけど、あなたお名前は?」

 「あ、マリアって言います」

 「そう…。マリアさんね。もしあれなら、逃げ出していいのよ? 少しくらいなら私達で抑えるから…」

 勿論そんな事不可能なのだが、罪悪感からそう言わずにはいられなかった。

 「いえ、大丈夫です。私結婚します」

 一体何がマリアをそう決意させたのかは分からないが、最近のアレックスは落ち着いてきているので、結婚すればさらにまともになるだろうと考えて、皆頷き、それぞれ自己紹介していったのだった。

 そんな様子を仁王立ちで見ていたアレックスはそこで初めて家族の名前を知ったのだった。

 前に弟と妹の名前は聞いた気がしたが、改めて認識したのだった。

 母親のローズ、父親のアレン、弟のジョン、妹のマリー。そして嫁のマリア。

 マリアは後ほど、街の女性達を救った英雄(ヒロイン)だと賞賛されるのだが、それもまた別の話だ。


 「ところで、あなたおいくつなの?」

 ローズがつい、気になって聞いてしまう。

 「あ、今年で二十九になります」

 「あら。アレックスよりも十一も上なのね」

 「えっ!? 私より年下なんですか!?」

 アレックスが年上が好みなのかと思ったローズと、見た目的にもっと年上だと思っていたマリア。

 そしてそんな話の噛み合わなさにいつも通りだと俯瞰してみるジョンとマリー。

 その中でただ一人、アレンだけが今頃になって思い出していた。過去にお世話になった事のある人だと。

 向こう側は覚えていないかもしれないが、特徴的な顔つきはそうそう忘れるものではない。

 凄く居心地の悪そうな気分になっていたが、今更どうする事もできない。下手な事を意味言えばアレックスにジュースにされてしまうだろう。

 それを考え顔が冷たくなる感覚があったが、努めて笑顔を保っていた。そんなアレンの微妙な違和感に誰も気が付かなかったのはアレンにとって救いだったのかもしれない。


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