12 告白
アレックスは家へ帰ると、早速母親に相談した。
どうやったら女性と結ばれるのかと。
まさか、筋肉と魔法にしか興味がないと思っていた息子が急に結婚したいと言い出したのだ。母親は理解が追いつかずに混乱してしまったが、なんとか顔には出さないよう必死に頬の内側を噛んで耐えた。
なんとか心の整理ができた母親は、まずは気になった女性に声を掛け、食事に誘ったり、プレゼントしてはどうだろうかと提案した。尤も、相手女性の事を考えるとおいそれと言うべきでは無いと考えたが、どこからかいきなり女性を攫ってこないか心配したので、段階を踏んで告白すべきと補足した。
母親自身もそんなロマンチックなお付き合いをしたわけではないので、他人から聞いた経験談を語るにとどまったのだが、アレックスには十分だったようだ。
アレックスはすぐさま立ち上がり家を出ようとしたが、まずどのように声をかけるべきか考える為、部屋に戻って考え始めたのだった。それはアレックス自身の記録を更新した。実に一週間もの間、どう声をかけるのが正しいのか考えていたのだ。朝の鍛錬や街の修繕を忘れるくらいに。
アレックスが意を決して家を出ると、アレックスが嫁を探しているという噂が街全体に広まっており、街には女性は一人も出歩いてはいなかった。もちろん、飲食店や雑貨屋などのお店にも女性はいなかった。
アレックスに対する評価は上がっているとはいえ、女性にどうでるか分からない以上、既婚者含め家で匿っていたのだ。父親や夫が代わりに雑事をすることになり、結果として、家事分担の文化が目覚めるのだが、それはまた別の話だった。
アレックスは軽く首を傾げながらも街の中を捜索した。
結果としては一般人の女性は見つけることは叶わなかった。
捜索時、アレックスを見るなり男達は身構えていた。家の中に入って攫われるのではないかと危惧したからだ。
流石のアレックスもそこまではしなかった。いや、その発想には至らなかったのだ。
その日の夜、雑多な繁華街の路地を入ったところで、一人の女性を見つけたアレックス。
アレックスは無表情にその女性へと近づくと、女性もアレックスに気付いて、その異様なほどの巨体に体を強張らせた。だが、すぐに柔和な表情を見せると、アレックスの丸太のような腕を摩りながら声を掛けた。
「あら、随分と逞しい身体ね」
そう言われて悪い気はしなかったアレックスだが、母親以外の女性と話すのは初めてのアレックス。
前世でも母親以外では先生くらいとしか話したことはないだろう。
そんなアレックスはほんのりと顔を朱らめた。
「あら。意外とウブなのね。でもこんなところに来るなんて、そういう目的なんでしょ? ふふ…」
彼女以外に女性は見当たらなかったが、猥雑な看板やチラシが貼ってあるその場所は、そういった目的のものしか訪れない場所だった。無論、アレックスにはその意味するところは何一つとして分からなかったのだが…。
そしてアレックスは自分に好意を向けていると勘違いして、その女性の両肩をがっしりと掴んで、いつもより控えめの声量で「俺の子供を産んでくれ」と言ったのだった。
流石の直裁な物言いに唖然とした彼女は、直ぐに意味を理解しこの場を離れようとしたががっしりと掴まれた手を振り払うことはできなかった。
だが、実際この生活を続けていくことにも限界を感じてもいた。初めて会ってその場で、ちょっとどうかしている告白に一瞬躊躇ったものの、まっすぐに見つめるその瞳の真剣さに、彼女は小さく頷いたのだった。
そして、アレックスはそのまま女性をお姫様抱っこではなく、肩に担いで家に帰ったのだった。
肩に担がれた瞬間、もしかしたら奴隷として売られるのではないだろうかという不安が一気に襲ってきた。
「下ろして!」と言いながら、アレックスの肩をパンパンと叩くが、アレックスは蚊が触れた程度にしか感じていなかった。尤も、この場で下ろしてしまえば、二度と女性と巡り会うことはないだろうという事は、アレックスは感じ取っていたので、そのまま強く抱えて家へと急いだのだった。
アレックスの足を持ってすれば、先程の場所から家までは五分とかからなかったが、街ゆく男達がアレックスを見て、「やっぱりな」と誰もが自分たちの疑いは間違っていなかったと確信したのだった。
そして、アレックスが通り過ぎていくと男達は手を合わせ犠牲になった女性に「ありがとう。そしてすまない…」と震えながら口にしたのだった。
アレックスが家に着く頃には女性の瞳からはハイライトが消えていた。
女性を肩に担いだままアレックスが家に入ると、丁度団欒中だったのか、家族が揃っていた。そして、女性を担いできたアレックスを見て、父親と妹は「やっぱりな」と心の中で呟き、弟は兄が犯罪者になってしまったと激しく動揺した。
そんな中で母親だけは違っていた。
「アレックス…。女性をそんな風に運ぶもんじゃありませんよ」と、ちょっとズレた感想を言ったのだった。
「どうすればよかったんだ」
「せめてお姫様抱っこしなさいよ」
「なるほど。善処しよう」
そう言って、すぐに肩に担いだ女性を、一瞬だけお姫様抱っこしてから地面に下ろした。
一連のやりとりを聞いていただけだった彼女は、その光景を見て、「もしかして召使いとして連れてこられた?」と勘違いしたのだった。




