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魔王城の前で立ち憚る父親になりたくて   作者: 玉名 くじら


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11 謁見


 それは見ようによっては、オーガに追い立てられているようにも、捕まえた魔物を連行するようにも見えた。

 王城へと向かう一本道。それは広く整備されていたが、アレックスの整備した外周部に比べれば粗末なものだった。

 見る者全てが厭らしい笑みをたたえたまま指をさすように見ていたが、その指が正常な方向を向いているものはいなかった。

 気がつけば皆が自身の指を絶叫しながら凝視していた。

 「すまないが、そういった事はやめてくれないだろうか?」

 「そうだな。だが、俺は指を差されるのが嫌いなんだ。まぁ、すぐに元に戻るさ」

 衛兵達が顔を顰めながら互いに顔を見やった。

 アレックスが何をどうやったのかは分からないが、その矛先が自分達に向かいかねないと判断して、押し黙ってしまった。

 湧き上がる絶叫の中、アレックスは衛兵を従え王城へと歩き出した。


 王城前にいた衛兵が槍を向けたので、アレックスは一瞥する事なく、右手と左手で槍を掴んで破砕してしまった。アレックスの手にはかすり傷一つ付かなかった。

 アレックスの手から零れ落ちる槍だったものを眺めていた二人の衛兵は、自分達に興味すら持たないアレックスに怯え、尻餅をついてしまった。

 アレックスはそのままズカズカと城内へと入り、真っ直ぐ突き進んでいったが、流石に初めて入る場所なのか、迷子になったしまった。王の元へなど辿り着く事はできない。

 口を挟む事を躊躇っていた衛兵達は、ビクビクしながらそれを見ていた。やがて、壁や柱を破壊しそうになったので、慌てて前に躍り出て案内を始めた。何人かの衛兵が被害にあったが、なんとか城に被害を及ぼす事なく、王の御前へとアレックスを案内した。

 もっと早くこうしていればと後悔もしたが、今更言ったところでどうにもならなかった。

 顔を真っ白にした文官達が、先に部屋へ入ろうとしたが、アレックスは無遠慮に跳ね除けながら入っていった。

 そんなアレックスを見て国王と思しき者と宰相のような人物が顎をあげて目を見張った。ゴクリと生唾を飲む音だけが広い部屋にこだました。

 一体どんな事を言われるのか、その巨体を見た者全てが、礼儀作法など微塵も期待していなかった。

 「アレックスだ」

 短く告げ、片膝をついて片手を胸に当てた。

 獣同然の男が礼儀作法を重んじるなど、この場にいる誰もが予想していなかった。

 アレックスのそれは王国式の礼ではないが、下手に言って暴れられても困ると、そのまま推移を見守った。

 それから国王は、外周部での活躍などを賞賛しつつも要求を聞き出そうとした。だが、アレックスは語らなかった。

 ただ、「これからも王の希望に沿えられるよう精進していく」としか言わなかった。

 衛兵や文官達の中には、王と懇意にするのが目的だったのではないかと思うものもいたが、彼らの前でそれを口にするものはいなかった。

 その場にいた全員が、意外なほどにおとなしく接していたアレックスに肩透かしを食らったような気分になったのだった。


 それからというもの、アレックスはおとなしく、街の修繕や工事等に携わり、街の外では農地拡大の為に開墾を一人で担ったり、冬の前には森や山で大量の獣を狩ってきては、献上していた。

 街の居住環境を整えたり、食糧事情を改善したりと、王国の目覚ましい発展と安定に関与しており、一体何が目的なのか、国王も宰相も文官も衛兵も。果ては国民のほぼ全てが目的が分からずに、ただ得体の知れない恐怖感だけが皆の心の中で燻っていた。

 王国側としては、いっその事莫大な褒賞や賞金が欲しいと言えば、それに見合うものをいつでも渡せるように準備はしていたのだが、一向に言う気配はない。僅かばかりの賃金しか受け取らなかった。

 そして、そんなアレックスに対して街の住民達は、段々と聖人なのではないかと思い始めていた。

 あの巨体からくる大げさな動きとぶっきらぼうな物言いは、照れから来るものではないのか? 上手く感情表現を表すことが出来ない為に、あんな風な動きをしてしまうのではないだろうか。結果として言えばそれは全て間違っているのだが、街の住民達にとってはアレックスは賞賛されるべき人物となっていた。

 そう。国王よりも慕われ信頼できる人物へとなっていったのだった。


 アレックスの住む城壁寄りの外周部もいつの間にか中央部と言えるほどの位置になっていた。それくらいこの王都は発展し、拡張してきたのだ。

 いまでは古い城壁は二つだけを残し、三つになっていた。

 王侯貴族や商人や富裕層の住む中心地、その周りを囲む平民の居住区、新しく開発している外周部である。

 かつてあったスラム街のような場所は殆どなくなっていたが、未だに全て無くなったわけでは無かった。


 それはアレックスが十八歳になった頃だった。

 今では王城へ何の先触れもなく(元々そう行った事は一度も行ってないが)王城の中へと入り、頼みごとはないかと聞いて回っていた。

 初めてアレックスが王城へ足を踏み入れた時から体の大きさはそんなには変わっていなかったが、そろそろ家庭を持つ頃であろうと言われたアレックスは、「確かにな」と呟いて、その場で腕を組んで考え始めた。

 恐らく、この世界に転生して初めて長く考えたのではないだろうか。

 十分以上考えたアレックスは、近くにいた文官に尋ねた。

 「結婚とはどうやってやるのだ?」「子供はどうやって作るのだ?」「家族はどこにすめばいい?」と矢継ぎ早に質問攻めしていった。

 確かにアレックスは王国の発展と安定に寄与しているのだが、彼の嫁になりたいと願うものは王族はもちろんのこと、貴族や商人、一般人からは誰一人としていなかった。

 それにこの世界でアレックスに話しかける女性は母親以外には思い至らなかった。妹でさえなかなか声を聞かせてはくれないのだ。最近では近づくことすら片手で数える程だ。そんな妹の名前すらよく憶えていない。

 質問攻めされた文官は、視線をそらしながら、何と言ったものかと思い、どこまでをどう言うべきか考えた結果、「女性に声をかける」としか言えなかった。

 「それは母親でもいいのか?」

 「いや、家族以外の女性で……」

 「分かった。ありがとう」

 そう言ってアレックスは文官の肩をポンポンと叩いて王城を後にした。

 叩かれた文官は全治三週間ほどの打撲と診断されたのだった。


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