表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王城の前で立ち憚る父親になりたくて   作者: 玉名 くじら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/20

10 ボランティア


 アレックスは腕を組んで考えていた。

 基本的に十秒以上考えるのが苦手なアレックスが三分も考えているのだ。

 目を閉じ、眉間に皺を寄せ、鼻息荒く、組んだ腕に指を叩き続ける。

 貧乏ゆすりが段々と激しくなり、近隣のボロ家が何軒か倒壊した。

 目を瞑ったまま上を向くと、目を見開いた。閉じた口と耳からは真っ白な蒸気が漏れ出ていた。

 「これだ」と、静かに。そして重圧を伴った呟きを発した。

 立ち上がると脇目も振らずに外へ出て、辺りをゆっくりと一分以上かけて見回した。

 「粗末だな」

 この街の一番端っこにあるこの場所は低所得者エリアだ。場所によってはスラムと化しているところもあったのだが、アレックスが存在感を示すようになってからは無くなりつつあった。

 それ故、今だに簡素な街並みが広がっているのだ。アレックスの住む家でさえ、見た目だけは粗末なままなのだ。

 地面は凸凹で雨が降れば排水はされず、水は留まる。乾燥していれば、風が吹く度に視界不良になることもしばしばで、それを吸い込めば咳が止まらなくなるほどだ。

 家と家の感覚が狭く、バラック小屋のようなものが延々と続いていた。

 アレックスの家はまだマシな方ではあったのだが、如何せん環境が悪かった。

 もしこれを綺麗に整える事が出来れば、王への謁見の近道になるのではないかとアレックスは考えたのだった。

 自分の計画には王を利用する必要があるのだから…。


 そう思うと行動は早かった。

 早速アレックスは、入り組んだ家屋に目をつけた。中に人がいようが構わず破壊した。

 この街で誰もアレックスに歯向かおうなどという気概のあるものは誰一人いなかった。

 それ故、目の前で破壊されていく家をただ呆然と見ているしかなかった。

 だが、いくら狂人とはいえ、アレックスもただ破壊することが目的ではない。

 見栄えを良くするのが目的だ。ある程度の範囲を残骸へと変えた後にアレックスお得意の魔法で家を作っていく。

 スクラップアンドビルドを繰り返し、貴族街よりも立派な家屋を作っていった。

 その様子をただ呆然と見ていた街の住人達は素直に喜ぶことが出来なかった。一体どんな対価を要求されるのだろうかと。結局は杞憂に終わるのだが、普段のアレックスの行いを知っていればやむを得ないことだった。


 なんということだろうか。アレックスの無尽蔵な魔力により、アレックスの住む外周南区画は、この王都の中で尤も綺麗な街へと変わってしまった。

 今まで、バラック小屋で袋小路のようになっていて、所々薄汚れて悪臭を放っていた街は、綺麗に区画整理され統一感のある建物へと変化していた。地面も綺麗な石畳に変わり、排水も地面の下へ流れるようになっていた。

 尤も、アレックス自体が街づくり系のゲームが苦手で、どうやっても碁盤目の面白みのない街しか作れなかっただけなのだが。

 そうは言っても、前世の異世界転生もののアニメで見た建物を見事に再現しており、家具も揃っていた。

 母親はついぞ改心したのかと眦に涙を溢れさせていたが、アレックスにそんな感情は一切芽生えていなかった。

 一週間もすれば、街の外周部は完全に綺麗な街へと変わっていた。

 アレックスを知らないものは、これが王による横暴だと憤慨したが、直後に建てられた家屋に怒りをすぐに鎮めたのだった。きっと王による救済だと勘違いしたからだった。

 それにしてもほぼほぼ無言で事を行なっていたアレックス。歯向かうものには容赦無く吹き飛ばしていたが、誰も文句を言うものはいなかった。いや、言えなくなったのだった。


 そんな事をずっと続けていれば、やがて王の耳にも入ると言うものだ。

 朝一でアレックスの家の前には何十人もの衛兵と、数人の文官が列をなして待機していた。

 それをアレックスの父親と母親が青い顔で頭を何回も下げながら対応していたのだが、当の本人は、朝の鍛錬と称して山へ行ったままだった。

 文官がイライラとした表情を隠そうともしないまま「帰りはまだなのか!」と詰め寄っていた。

 ほぼ最下層の人間に対して、これでもかなり丁寧な方の対応だったのだろう。

 だが、丁度運悪く帰ってきたアレックスにはそうは見えなかったらしい。

 「何をしている」

 少年が出すような声ではなかった。それは、三十いや四十くらいの修羅場をくぐってきたような男の声だった。

 いくら人種的に見た目が早く老けて見えるとはいえ、これはあまりにも『老けて見える』の範疇を超えていた。

 そして、そんなアレックスを見上げていた衛兵達は固まり、震え、中には失神してしまう者も出てしまった。

 そんなアレックスに対して、苛立ちを隠せなかった文官もすっかりなりを潜めてしまった。

 だが、アレックスは家族を脅された事に珍しく怒りをいただいたようで、「おいお前」と低く地響きのような声をかけた。

 「ひいっ!」

 「俺に用があったのだろう?」

 予想以上に大きいアレックスに文官達も衛兵達も声も出せずに震え上がってしまい、会話にならなかった。

 脳筋のアレックスはそんな文官の一人の胸ぐらを掴んで問いかけた。

 「言え。何の用だ」

 文官は絞り出すようにして「お…王が…お呼び……ですっ…………」

 それを聞いたアレックスはほんの少し口角を釣り上げ、予備動作なく文官をその場に落とした。

 ガチョウのような鳴き声を出して地面に落とされた文官は、その衝撃で暫く立つことも息をする事も出来なかった。

 「いいだろう。案内しろ」

 アレックスの尊大な態度にそこにいた全員が『何も起きないように』と願ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ