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レストラン ミルティユ〜あなたのための一皿を〜  作者:


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12/13

第12話 最初の一席

―篠宮 恒一フレンチ


 ミルティユがまだ名前を持たなかった頃。

 その厨房には、鍋とコンロと、静かな男がひとりいただけだった。


 篠宮恒一は、白いコックコートを丁寧に畳み、段ボール箱に入れた。

 名門フレンチレストランを辞めた、その日の夜だった。


「……納得、いかなかった」


 理由を聞かれれば、いつもそう答えてきた。

 星の数、予約の回転率、評論家の一言。

 料理よりも“評価”が先に来る世界に、心がついていかなかった。


 そんな篠宮が、蒼井透と出会ったのは、

 閉店を決めた店の、最後のまかないの時間だった。


「捨てる予定の食材です。

 何か作りますか?」


 そう言って声をかけてきたのが、

 当時、間借りで厨房に立っていた蒼井だった。


「……あなたは?」


「料理人です。

 ただ、それだけです」


 蒼井は、売り物にならない端材で一皿作った。

 派手さはない。

 だが、口に入れた瞬間、篠宮は箸を置いた。


「……誰のための料理だ」


「今、目の前にいる人のためです」


 蒼井は即答した。


「評価も、星も?」


「後からついてくればいい」


 その言葉に、篠宮は初めて笑った。



 数日後。

 まだ看板も出ていない店で、蒼井は一人で椅子を並べていた。


「……人手、足りてますか」


 振り返ると、篠宮が立っていた。


「報酬は多くありませんよ」


「構わない。

 ……もう一度、料理を信じたい」


 蒼井は、少しだけ考え、頷いた。


「では――

 この店の、最初の席を任せます」


 その夜、

 篠宮恒一はミルティユで最初の一皿を出した。


 それは、

 “誰の評価も求めない料理”の始まりだった。


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