第11話 それでも、ここで
神崎の問いは、
その夜のミルティユに、重く残った。
「……続けるさ」
蒼井は静かに言った。
「必要とされる限り」
「必要とされなくなったら?」
「それでも、料理は残ります」
神崎はしばらく黙り込んだ。
「……俺はな」
ぽつりとこぼす。
「店を潰した。
客の“不幸”を背負いきれなかった」
厨房の奥で、玲花がそっと手を止める。
「救えると思った。
料理で、人を。
……でも現実は、そんなに甘くなかった」
神崎は顔を上げ、蒼井を見る。
「お前は違うのか?」
蒼井は、少し考えてから答えた。
「同じです」
「……え?」
「私も、全員は救えません。
でも――」
蒼井は、店内を見渡した。
今夜も、静かに料理を待つ客たち。
「救えた“その一晩”が、
誰かの次の日を支えるなら、それでいい」
⸻
最後に出された料理は、
かつて二人で考えた、未完成の一皿だった。
「……覚えてたのか」
「忘れられませんでした」
神崎はゆっくりと食べ、深く息を吐いた。
「負けたよ、透。
いや……負けでいい」
立ち上がり、頭を下げる。
「この店、続けろ。
俺が出来なかったやり方で」
神崎は扉の前で振り返った。
「……いい仲間を持ったな」
蒼井は、初めて少しだけ笑った。
⸻
夜が終わり、厨房で全員が集まる。
「過去の人?」
アレックスが聞く。
「はい。
でも――」
蒼井は皆を見る。
「今のこの店を、
一番肯定してくれた人でもあります」
ミルティユは今日も灯りを落とす。
救えなかった過去も、
迷い続ける未来も抱えながら。
それでも――
明日も、誰かのための一皿を作るために。




