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7話 タルローの森5

ーーあたりを見渡せば焼け落ちる木々、むせかえるような熱気が渦巻き、秘薬がなければとっくに焼き切れているだろう。



俺たちの目の前には、絶え間なく火球を吐き出すスライムが、炎の中を縦横無尽に跳ね回っている。




「テンっ、そろそろちゃんと前向け!丸焼きになりたくねえだろっ」




やや焦りを含んだレオの声。今まで感じていなかった熱い痛みが、のどの粘膜を襲う。耐火の秘薬のタイムリミットがいよいよ近づいているのだ。




「消しても消してもきりがないっ、普通の魔法の水量じゃすぐ干上がっちまうぞ!」




盾が尋常じゃない熱を帯び、ガイの白い手袋から、繊維が溶ける匂いが立ち上がっている。




「そろそろ秘薬の効果が切れるっ、このまま水球を打ち続けてたら水蒸気でこっちがやられるわよっ」




湿度が上がる、炎の勢いこそおさまってきたが、体力が奪われる速度が速まる。




「水はなしだ!!温度だけ下げろ!!」



「水膜で囲ってるから、そろそろ本格的に空気が薄くなるわ!急いで!」




ヒューと誰かの喉が鳴る。



...うまく確証はない。が、他に道もない。ぐっと剣を握り直し、息を吸った。





「――ベラ!スキルだ!」




「っ、え?テン、どういうことかしら?」





ベラの声は焦りと疲労がにじんでいた。流石の彼女と言えど広範囲の水膜維持をし続けるのはきついのだろう。





「あいつの周りのマナをなくせ!薄くするだけでもいいっ、一瞬でもあいつのへのマナ供給を止めるんだ!」




「...了解そういうことね、分かった。」





――マナ精密操作。周囲のマナを通常の魔法よりも高精度で扱い、操作するスキル。マナは彼女の意のままにある。




細められたアメジストの瞳とうなずきあう。




――くゆる紫炎。マナを誰よりも知る彼女が使う魔法は、やはり誰よりも美しい。





「水膜範囲を縮小する。空気がかなり薄くなるわよ、一発でお願いね。」




水膜範囲が半分ほどになり、一気に湿度と熱気が立ち込める。仲間一同、一斉に相手への集中を高めた。




「レオ!わかってんな。」




幼馴染に合図を送れば、静かなうなずきが返ってくる。その間も、敵から目が離れることはない。




「っ、親和力が強い、引っ張られるっ。」




張られた水膜が揺らめくと同時に、スライムの周りの空気が明確に変わったことが分かった。




「火球が遅れてるっ、今だ!!」




誰よりも早く動いたのは、やはりレオだ。




――たった一閃。星屑が刃を追うように瞬くのを見るたび、こいつが勇者なのだと思わざるを得ない。




完全に炎スライムの動きが停止する。


木々が焼け落ちる音と、粗い呼吸音だけが空気を満たしている。




「...おい、テン。」




とどめを刺した張本人を見れば、なんとも形容しがたい微妙な顔。俺の幼馴染は美丈夫であったはずだが、薄い半目はどことなく滑稽だ。


はっと自身の手の内を見れば淡い光。




「あ...悪い、ついな。」




「ふっ出たよ。テンの悪癖。あれやられると、勝った爽快感がちょっと減るんだよなあ。」




「そうなんですか?私は基本後方支援なので、されたことがないんですよね。」




みんなが一気に戦闘モードから、抜け出たのが分かった。




「...あんた何で毎回...よくやるわよね。」




「いや、すまん...。何でって...何でだろうな?」





撃破からの爽快感のある表情、いわゆるドヤ顔という「テンプレート」が本当に実在することに気づいて以来、なんとなく手が動いてしまうのだ。


――『ドヤ顔キャンセル』俺はひそかにこう名付けている。





しかしまあ、今回も実行できたということは「敵を撃破した」ということで何よりだ。











「――なんだこれ。」




スライムの中を切り開けば、1、2、3、4、5...6...7つのオレンジ色の石。




「マナコア...にみえますけど...。」




「ええ、私の鑑定でもそう見えてるわ...。」




「こりゃあ驚いたな。俺がこれまで出会った中で一番多い固体でも。3つだったぜ。」




あまりの奇妙さにコアを一つ一つ透かして見れば、中で炎が揺らめいている。




「純度もかなり高いわね。一流の素材店でも見ない代物よ。あれだけマナ親和性が高かったのも納得だわ。」




「こんだけありゃああれだけ打っても問題ないわな。」




レオがあの猛攻を思い出したように、うんざり顔をする。俺たちは、それに満場一致でうなずいた。




「マナコアって何十年と生きてやっとできる物でしたよね?」




「ああ、普通はそうだ。マナ親和性によっては下手したら百年単位かかるはずだ。」




だから基本マナコアは竜やらの長命種や、精霊族などのマナ親和性が極めて高い種に多い。




「スライムは長く生きても3年、マナ親和性は高いけれど、3年でできるほどではないわねえ。」




「またスキルでしょうか?」




「そんなスキル今まで聞いたこともねえが、可能性としては一番あり得るよな。」




ガイが手に腰を当て考える。ベラもやはりそのようなスキルには心当たりがなさそうだった。




「死んでしまった生物を鑑定しても、素材判定になってスキルはもうわからないわ。」




――いくら考えても、結局真偽は分からぬまま。



任務は完了したが、なんともいえぬもやもやを抱きながら俺たちは街へと向かった。













「――面白いものを見たな。」



――灰のにおいで満ちる森、星々を見上げる人影がひとつ。足元には、燃ゆる橙色の花。


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