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4話 タルローの森2





「間違いねえ、繰り返してやがる。」


 あれから森をずっと前に歩き続け、レオが反応すること3回目。



「一番最初にレオが気づいた地点から、私のマナで定期的に印をつけておいたの。

ガイの言う通り、景色は違うようだけれど、私たちが同じところをループしているのは間違いなさそうねえ。」


「ループと幻影、敵は両方を使ってるってことでしょうか……。」



 マナの気配が漂うこと以外、何の変哲のない森。足元を吹き抜ける、冷たい風も幻影なのだろうか。



「それにしてもいつのことだ?俺たちずっと一本道を歩いてたよなあ。特に何の変哲もなかったし……。」



「魔物との遭遇もなかった筈だ。ループの範囲は400mくらい、そこそこ大がかりだ……、協会に被害届はなかったし、比較的新しいトラップだろう。」



 となれば、早いとこ解決しなければ。この森はタルローへ続く一本道だ。





「とりあえず道を歩いているだけじゃわからないわね。一度逸れてみましょう。」



 リリスが幻影と思われる、あたりの木々を見つめる。



「だめよ、リリスちゃん。もう少し慎重になりましょう。幻影は幻影。一本道を繰り返して私たちの身には何もなかった。となると敵のねらいは私たちがそこに行くこと、幻影の向こうには恐らく何かあるわ。」



「俺も同意だ。敵のねらいはおそらく俺たちの疲労と、そうせざる負えない判断。ここまで大がかりな魔法ならかなりの勝算があるってことだ。」



 戦闘経験が一番豊富な二人だ。おそらく間違いではないのだろう。


 

 幻影の森をふと見れば、どこか招くように怪しく木々が揺れる。赤い木の実が落ちたのが見えた。


――冬の森には、あんな果実が実っただろうか。



「あ、あの、幻影魔法、リリスちゃんの鑑定スキルで見破れないでしょうか?せめて向こう側に何があるかとか……。」



「お、そうだ、リリスの鑑定があったな。とりあえず見てみろよ、なんかわかるかもしんないぜ。」



 途方に暮れていれば、セイラから声が上がる。確かにやってみる価値はありそうだ。



「……幻影魔法の向こう側にあるものね……。鑑定は万能じゃない。幻影魔法がかかっている場合、視力が悪くなるようなもので、私のよく知るものしか分からないわよ。」



 スキルに制限はつきもの。リリスの鑑定も確か、彼女の対象への理解が結果に影響を及ぼすとかつて聞いたことがある。



「それでとりあえず十分だ。今は手掛かりが優先。なんもなくても、なんもないって手掛かりが得られるだろ。」



「……それもそうね。分かったわ。」



 マナ特有の光が、彼女の緑色の瞳を淡く照らしていく。マナが揺らめく怪しい森を、彼女は険しい目で見つめていた。


 見えたものを、彼女が順にぽつぽつと口にし始める。緊張した空気があたりをつつみ、誰かの唾を飲む音が聞こえた。



「……マナコアがいくつかと、なにか、動物の骨ね。



あとは……いくつかの魔物、あれは……あ、サラマンドラ……?


……全部、生体反応が、ないわ……。」




 瞬間、戦慄が走る。




「はは、そりゃあこれは完全に罠だな。向こうに行ったら俺らは完全にお陀仏だ。」



 能天気に笑うガイの手は、その磨かれた剣と縦にしっかり添えられていた。

 あたりに嫌な緊張感が漂う。セイラからは小さな悲鳴が漏れていた。



――まずい。どうにかしなければ。



一同がそう思うが、それは焦燥感を増させるばかりだった。






 


 



「――おいテン。向こうに行きゃ仏、一本道ならループ。可能性が二つあんならお前のスキル、使えるだろ。」



 沈黙を遮る、レオの言葉が静かに響いた。



 顔を上げれば、金色の瞳と目が合い緩く頷かれる。



 確かにそうだ、可能性が二つあるなら――。





「――いかん、雰囲気にのまれてたな。」




 ある一つのテンプレートが「確定」した瞬間の発動。――それが俺のスキルの制限の一つだ。




 俺たちは一つを繰り返しているんじゃない、道は、二つあるんだ――。





「おら、ループの切れ目に行くぞ。」





 ――突破口が、見えた。









「ちょっと、なにも分からずに一番奥に来たけど、どういうことよ。」



 俺たちは、一本道の一番奥に来ていた。


 

 視線の先に道は続いている。しかし、俺たちがあと一歩を踏み出せば最初の場所に戻るだろう。







「時間がないかもしれないから、手身近に説明するな。




 まず、俺のスキルは『輪』の中にいるときは、テンプレート『進行中』の扱いだから使えねえ。」






 ひとり、先に一歩踏み出す。マナを自身の剣に集中させ、するのは、線を断ち切るイメージ。






「――でも、『輪』の途中に分岐があり、『輪』の始まりが存在するのならば――」




 


 またも「繰り返そう」とする剣を、マナで防御し、それでおもいっきり空間を切り裂く。






「――これは、まだ始まってないテンプレートだ。」








 





 

 ふと、あたりのマナが散漫になる。あたりを見渡せば、木々の葉はことごとく落ちており、木の実は見当たらなかった。



「成功したみたいだな。」


 緊張が解けたのが分かり、剣をしまえば、レオに小突かれた。


「……これは、糸か?」


 いち早く道の外へ出て状況を確認していたガイが声を上げる。


 リリアが見た通り、ぽつぽつとあたりに散らばる死骸。その一つ一つには、透明な糸が引っかかっていた。




「――あ、蜘蛛。」


 ふと、自身の口から出てきた言葉。そういえばそうだ、蜘蛛だ、蜘蛛がいた。



「あ。」


 どうやらリリスもピンと来たようだ。



 確かあの時思ったんだ、『なんか見たことある気がする』。



「――もしかして、夢幻の巣か?」



「そうよ、そう、あの紫色は、あれよっ、夢隠しの蜘蛛っ。」



 ――夢隠しの蜘蛛。マナを織り込んだ糸で、森の道を囲うように巣をつくり、幻影を見せることで獲物を捕獲する蜘蛛。危険度B。

糸を切り続けて進めば幻影から出られるが、それを知らずに命を落とす冒険者も多い。



「――あらあ、でも夢隠しの蜘蛛は確か体長80センチほどの中型魔物じゃなかったかしら。」



「確かそうだな。理由はわからんが、しかし、偶然とも思えねえなあ。」



 謎は深まるばかり。どうやらまだまだ油断は禁物みたいだ。



「とりあえず捕まえんぞ。話はそれからだ。」




 死臭がほのかに漂う、先ほどまでとは違う気味の悪さのある森に、一歩踏み出した。


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