最終章 俺が世界のツッコミ役
戦場はカオスだった。
魔王軍の祝賀式典に、勇者の雷魔法が割り込む。
爆裂花火に風魔法が合わさり、炎の渦。
水芸に土魔法をぶつけて、巨大な盆栽。
「こっちだって負けねえぞ!!最高の雷魔法を受けてみろ!!」
そう叫ぶ勇者カイは――青白い雷がほとばしる……のだが。
その雷、どこかおかしい。
空に浮かぶ電気の球が、なんと……
ハゲ頭と口ヒゲを持った、お堅そうな中年男性の形に変化していく。
「な、なんだあれは……?」
「……まさか……っ、伝説の召喚スキル《父なる雷霊・ナ●ヘイ=サンダー》……!」
空に浮かぶ“それ”は、雷鳴と共に口を開いた。
\\ バッカモーーーーーン!!!! //
ズガアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!
だが、その瞬間。
「――いいかげんにせぇやァァァァァァァアアア!!!!」
「そのネタはアウトだボケェェェェェ!!!!!!」
――バシィィィィィン!!!!!!
雷より鋭いハリセンの一撃が、勇者カイの頭をぶっ叩く!
「なに召喚しとんじゃボケ! サ●エさん家の父ちゃんを雷魔法で呼ぶなァ!!
放送事故かと思ったわッ!!!!」
――バシィィィン!!!
「お前らもお前らだァ!! なんで進撃じゃなくて新劇祝いしに来てんだよ!!」
――バシィィィィィィン!!!
「勇者と魔王軍、どっちもすれ違っとるわ!!!!!!」
――バシィィィン!!!
「なにをどうやったら雷魔法が“父の怒号”に進化するんじゃボケェ!!」
――バシィィィィィン!!!
「説教されんのは、こっちの世界やぞ!!」
カイ「だ、だって自然に……!」
アルト「自然に他の父出すな!!」
魔王軍も王国軍も、もはや誰も戦う気などなかった。
ツッコミだけが鳴り響く。雷よりも強く、父よりも厳しく。
「……だから言ったろ。お前一人じゃ、止まらねえって」
アルトはそう言って、ハリセンを杖のように地面に突き立てた。
「いいか、カイ。お前なァ……! 真面目に戦ってるつもりでもな、
ボケはボケなんだよ!!!!!」
「魔王軍も、お祝い気分で最前線来るんじゃねぇ!! お前らバカしかいねぇのか!!」
皆が黙り込む中、アルトはふと、思い出す。
そして、アルトは一歩前に出て――天を仰ぐ。
「……ああもう、なんで俺がいねぇとこうなるかなぁ」
さっきまで自分がいた――酒場。
「……っていうかさ!!!」
「なんで酒場で、麦茶しか出てこねぇんだよ!!!!!!」
アルトのツッコミが戦場にこだまする。
勇者は呟く。「やっぱアイツがいないとダメだわ……」
魔王軍も頷く。「ツッコミ担当、国家公認にするか……」
「で? これは麦酒か?」
数日後。再び酒場にて。
アルトがカウンターに座ると、出てきたのは――
「麦……水ですね」
(なんでグレードダウンしてんねん!!)
――バシィン!!
世界はまた、今日も回っていく。