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百鬼夜行.7

 ちょっと長いです。

 北の領地、その古城にて。


「……なーんか面白いことになってんなぁ」


 周りを魔物に囲まれている男は、その中央にある玉座に気だるそうに腰をおろしていた。いや、こりゃ……厄介事か? 男は眼を閉じながら言葉を漏らす。魔物達はその間、付き従っているが如く一匹たりとも微動だにしなかった。


 男は純白の髪に、これまた純白のコートを羽織っており、服には汚れ一つ無い。腰には一丁の銃を携えており、何故かその男の周辺だけ神々しい輝きが発せられていた。輝きに照らされ、白一色の様相が益々映える形になっている。


「レックス様、いかがなさいましたか?」


「いや、ちょっとな。面倒だが中央まで行ってくるわ」


「分かりました、お気をつけて」


 従者の様な少女の問いかけに軽く返事をし、古城の主は玉座から立つ。そして何の前触れもなく飛翔を始め、そのまま飛び去っていった。その場を後にした主に行ってらっしゃいませと告げ、姿が見えなくなるまで頭を下げていた少女は、辺りにいる魔物に眼もくれずいつも通りといった様子で、淡々と城の雑事をこなしていった。



 レックスが居た北の領域、その古城から中央都市まで歩いて数日掛かる所を、レックスは僅か数分で辿り着いていた。上空で静止し、そこから中央都市の様子を観察する。


 辺りは血の臭いが充満し、事切れている住民も散見した。魔物と応戦しているパーティーも点在している。それを見たレックスは、盛大な溜息を吐いた。


「んだよ……こうでもならないと動こうとしねぇのか? ここの連中は」


 後手後手だ、いよいよ平和ボケしてやがる。レックスはそう思いながらも、周囲の観察を続けていく。


 逃げ惑うもの、抗おうとして成す術なく倒されていくもの。


(……チッ。こんな事なら、日頃から俺がハッパかけてやってた方がまだマシに……ん?)


 そこでレックスは、面白い光景を見つける。今暴れている魔物、オーガ。それに大半の者が抗えていない様子だったが、嬉々として。なんならちょっと飽きてきた、そんな表情を見せながら次々とオーガを倒している男がいた。レックスは興味を惹かれ、その者の元へと近づいていく。


 上空から、音もなく近づいたのにも関わらず、その男は対峙していたオーガを倒すなり、視線をぐるりと上空にいるレックスへ向けてきた。


「お前……中々やるじゃねぇか」


 レックスは率直に感想を述べる。あくまでも中央都市で、という枠組みになるが、この男の実力を認めた様子だった。


「……アンタ、誰ッスか? やたら強そうですけど、自分に用事です?」


 そう答えた男は警戒をし、槍を静かにレックスへと向けた。レックスは苦笑しながら手を上げる。


「いやいや? 中央都市ここが騒がしいと思ったから見に来ただけだ、暴れる気分じゃねぇ。お前が他と違って目立ってたから声を掛けたんだよ」


「じゃあ……敵じゃない、で良いッスかね。自分ゾマって言います、アンタは?」


 警戒を解き笑顔を見せるゾマ。槍を肩に担ぎ直し、上空に居るレックスへ尋ねた。レックスは地上へ降りる事はせず、話を続けていく。


「レックスだ」


「レックスさんですね、覚えました。ちょっとお願いがあるんですけど、良いッスかね?」


「なんだ?」


「この騒ぎが落ち着いたらでいいんですけどーーーー自分と戦ってくれません? こいつら弱すぎてつまらないんスよ」


 少しは楽しめると思ったのになぁ、そう言ってふてくされたように槍で倒れているオーガを小突くゾマ。それを見たレックスは盛大に笑い出した。


「ハハハ! 他が苦戦してるコイツを弱えってか! お前、面白ぇな! ……お前みたいのが大勢いれば、ここもちょっとはマシになるんだろうけどよ」


「? 大半は弱いッスけど……自分の知る限り、何人か居ますよ?」


「ほう?」


 で、戦ってくれるんです? とゾマが再度聞いてきて、レックスは頷いた。


「まぁ、お前ならいいだろ。ーーーー事が済んだら北の古城に来い、遊んでやるよ」


 それを聞いたゾマは、子どもの様にはしゃぎだした。


「北の古城ッスね! 約束ですよ!?」


「あぁ、俺と会う前に喰われなきゃあな」


 じゃあなと告げて、レックスはゾマとの会話を打ち切りその場から移動を開始した。


「なんか……お星さまみたいな人ッスね。飛んでたし、周りも光ってたなぁ」


 ーーあの人となら、全力で戦えそうッスね。ゾマは高揚した気分を隠せず、鼻歌を歌いながら次の獲物へ颯爽と向かっていった。



 ゾマと話し終えたレックスは移動中、高速で動く人影を見つけ進行を妨げる様に間へ入った。


「よう、面白い技使ってんな」


 なんかの恩恵か? レックスが尋ねるがその人物は何も答えなかった。空中で急停止をし、その場でトントンと跳躍しながらレックスを見つめている。


「見ない顔ですね」


「……俺の顔を知らない奴が多すぎるぞ、いよいよ隠居しすぎてたなこりゃ。これからは、ちゃんと世話してやらねぇと」


 進行を止められた男、リョウは腰の武器に手を当て眼の前に現れた存在を観察する。レックスは、あちゃーと言いながら額に手を当てていた。


(……その場で静止してるね。飛翔に魔法やスキルを使っている様子も無さそうだ。周りだけ、やたら輝いている様に見えるけど……光属性、だね。常時発動させてるのか?)


 自分より格上と判断したリョウは、警戒を保ったまま話し掛けた。


「一つ尋ねたいんだけど……貴方が今回の黒幕か?」


「ハッ! これはお前らが怠慢なせいで招いた結果だろうがよ。何でもかんでも俺のせいにするな」


「怠慢?」


「今暴れまわってるオーガ。コイツらがダンジョン中層域の魔物なのは、流石に把握してるよな?」


「えぇ」


「お前がギルドの奴かは知らねぇが、ちゃんと間引きはしてんのかよ?」


「……間引き?」


 やれやれ、と頭を振るレックス。


「その返答がそもそも怠慢の証だ、いいか?」


 レックスは以前にも別のダンジョンであった。そう前置きしてリョウに説明を始めた。


「ダンジョンでは魔物が生まれる。どう生まれてんのかその辺は知らねぇ。だが、その生まれた魔物を放置しておくとどうなると思う?」


 リョウは少し考えてから、自分の答えを告げる。


「……更に数を増やす?」


「そうだ、だが問題はそこじゃねぇ。増えすぎた魔物が更に増えていくと、時折交じるんだよ……変異種が」


「変異種……!?」


「おかしいと思わねぇのか? オーガは知能が低い。それなのに、ここ目掛けて一斉に来てやがる。ーーまるで誰かに命令されてるみてぇにな。扇動してる奴がいんだろうさ、どこに居るかは知らねぇが」


 レックスにそこまで告げられたリョウは、思案した後にゆっくりと口を開いた。


「じゃあ、今回はその変異種が……!? そこまで分かっているなら、僕達に協力してもらえませんか? 貴方は僕なんかより数段強いはずだ」


 敵対してるなら、僕は今頃とうに死んでいる。そう告げたリョウに、レックスは少なからず感心した。


「へぇ……さっきのと比べると強さはどっこいどっこいだが、お前はちゃんと考えてそうだな」


「何の話です?」


「こっちの話だ。で、協力の話だがーーーー答えはノーだ。自分達で撒いた種くらい、なんとかしてみせろ。俺は協力も邪魔もしない、様子を見に来ただけだからな」


 そう言って、話は終わりという風に踵を返すレックス。そして去り際に、リョウへこう告げた。


「俺の名前はレックス。北の領域、エニアス城の主だ。ちゃんと覚えとけよ? 若ぇの!」


 間引きもちゃんとやっとけ! そう言った直後、レックスの姿は始めから居なかったかの様に消え失せた。リョウは一度地上に降り、溜息を吐く。


「北の領域って…………魔王じゃん」


 ーー自分から戦闘を仕掛けなくて本当に良かった……。


 リョウは心の底から安堵し……ちょっと休憩しよ、とその場にへたり込んだ。



 セバンタート、城下入口。商店街の方から城下まで来たフルーラ。道中にオーガはおらず、相変わらず千里眼の正確さに感心する。


「入口の警備を増員しよう。リョウの話だとオーガは門から侵入して、そこから散開しているらしい。ここへ来るにしても正面から来るはずだ」


「分かりました!」


 フルーラの指示のもと、騎士団員達は連携して動いていく。その動きには無駄がなかった。フルーラもオーガの来襲に警戒をしつつ、周りへ指示を出していく。


「おー、お前アイツと同じ格好しているな」


「!? ……貴方は?」


 突然上空から声がしフルーラは驚きを見せたが、すぐに毅然とした態度で話し掛けてきた声の主、レックスへと対応する。周りの騎士団員も驚愕し交戦の構えを見せるが、フルーラは制止した。


「まさか……お前らも俺を知らないのか?」


 ーー光属性、あれは回復系統か? 常時発動させている? フルーラは本来あり得ない光景に驚愕していた。それでも、レックスの言葉に慌てて頭を働かせていく。


「知らない……? いや、確かどこかで眼にした覚えが……その風貌、もしかして……魔王レックス?」


「お! ようやく知ってる奴が居たぜ!」


 指をパチンと鳴らし、上機嫌で地上へ降りてくるレックス。ーー随分前に見たギルド資料。魔王はどんな色をしていると思う? そう聞けば、大体のものが黒という。だが、今世界にいる魔王は、白き髪と白い服装をしている。そう記されていた。眼の前の人物と合致する。どんな力があるのかは、一切書かれていなかった。


(現状、敵対する様子は見られないが……)


 何故魔王が? 何故このタイミングで? フルーラは最悪の事態を警戒しながらも、話を続けることを選択した。


「これから会う奴、全員が俺のことを知らないってなったら少しばかりヘコむ所だったぜ」


「それならば良かったです。一つお尋ねしても?」


「なんだ」


「今回の騒動、貴方が扇動ーー」


「してねぇよ、ったく。どいつもこいつも……」


 苛立ちを隠さず、騎士団とギルドは情報共有しねぇのか? そう頭をかきながら面倒くさそうに答えるレックス。それを見たフルーラは僅かに安堵した様子を見せた。


「……ありがとうございます。貴方が今回の件に絡むようなら、我々ではまずどうにもならないので」


「弱気だな?」


「事実ですから」


 それを聞いたレックスは感心を見せた。


「ほう……正しく自分の実力を見定めれているのは評価してやる。だがな、時には無鉄砲さも必要なのは覚えとけ。同じ格好をしてた奴がいい例だ」


「……ゾマに、会ったのですか?」


「そんな名前だったな、今度俺と戦いたいってよ」


「そう、ですか……」


 レックスが不快感を示していないのを見て、それでも魔王へ騎士団が公に喧嘩を売った。この事実に頭を抱えるフルーラ。


(何をやっているんだ、ゾマ……)


 この時点で、フルーラの心労は計り知れない程になっていた。その様子を見て、レックスは少し申し訳無さそうに話す。


「あー、なんだ。苦労してるんだな」


「いえ……気になさらないでください」


「まぁ、来た時はきっちり相手してやる。俺が殺すことはねぇから安心しろ。お前に話し掛けたのはな、アイツらより少し劣るが……それでも中央都市では頭一つ抜けた強さを持ってる。そんな奴の考えを聞きたかったからだ」


「考え?」


「そうだ。お前はこれからも過ごしていくであろうここでーーどうしたいと思ってる?」


「どうしたい……ですか」


 フルーラは思案する。騎士団員として、やるべきことはこなしてきた。それでも、自分自身がどうしたいかと言われると……すぐに明確な答えが出せないでいた。その様子を見ていたレックスが提言する。


「ーー自分の中に、しっかりとした軸を持ってるやつは強い。お前も、この騒ぎが終わるまでに何か定めておけ」


 そう言って、そのまま何もせず飛翔しこの場を後にしたレックス。フルーラは、偽りではなかったんだなと改めて安堵し、同時にレックスに言われた事を噛み締めていた。


「自分の軸、か」


 改めて考えても、フルーラに明確な答えは出なかった。そこに、飛翔してきたもう一人の人物、リョウの姿が。リョウはフルーラの前に綺麗に着地した。フルーラは思考を切り替えて、現状の事にあたる。


「お待たせ、ちょっと野暮用でね」


「大丈夫、こちらもようやく配置が落ち着きそうだよ」


 そしてフルーラは入口の騎士団員に引き継ぎをし、リョウと共にダンジョンへ赴いた。

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