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百鬼夜行.6

「あれがオーガ、か。このままだと……」


 物量で押し切られちゃうな。オーガ達はセバンタートへ次々と侵入してきている。ギルド本部会議室で、そこに居るのは僕と師匠だけ。千里眼を使い戦況を見ていた僕は、状況が芳しくない事に思わず呟いてしまった。その呟きを聞いてか、隣にいる師匠から話し掛けてきた。


「リョウ、状況は?」


「……酒場周辺のオーガは討伐出来たみたいです、それでも被害は甚大だ」


「……そうか」


 師匠も難しい顔をする。


「酒場の周辺は、ビーティン達が向かっていたな」


「えぇ、被害は無さそうです……けど、一体を倒すのが何とかって感じでした」


「赤いオーガは特に皮膚が硬く、半端な攻撃では傷を付けるのも一苦労だろう。パーティー内の【魔法使い】を軸に攻め立てた、といった所か。それでも、その【魔法使い】の力量次第で討伐の時間は変わりそうだ。何より一人に負担が掛かりすぎるね」


「……やっぱり僕、帰ってもいい?」


「駄目」


 まるで見たように告げる師匠。それがピタリと合ってるんだから、僕のスキル必要? なんて思ってしまう。状況を教えてくれるこそだよ、と師匠は苦笑しながら告げてくる。


 それにしても、ビーティンさんの助けに入った騎士団員のゾマ。彼の言い分から、戦闘は得意な方だと思ってはいたけど……あまりに強すぎる。彼が武器にしている槍で、いとも簡単にオーガの腕を切断していくのを見た時は驚きを隠せなかった。そもそもの話、槍は突くことに関しては優秀だが剣の様に斬り裂いたりすることは難しいはずなんだけど。


「師匠、ゾマってどういう経緯で騎士団に入ったんです?」


 本来、騎士団は主に貴族が住まう場所、城下を中心に活動している。貴族と接する機会も多くある為、入団したら身だしなみや礼節は厳しく指導されているはず。


 それなのにゾマは、会議室に入りすぐ欠伸はするわ自分勝手に物申すわで、とても騎士団と思えない行動をとっていた。


 師匠は何、興味あるの? と少し笑いながら言ってきた。


「彼は君と一緒。最近僕が見つけて騎士団に入団させたんだ」


「でも、なんで騎士団に? 彼の性格からしてギルドの方が合ってそうだけど」


「……騎士団の人達は礼節がしっかりしてるから、ゾマも習ってくれたらと思ってね。それに、ギルドだと色々とさ。ビーティンが良い例だったし」


「あぁ……そういう感じね」


 ギルドでも通用するであろうゾマの力。だけど彼の性格から問題事が発生するだろうと思った師匠は、ギルドではなく騎士団へ入団させたという流れだった。


「それに、ギルドには君が居るしね」


「……褒めても何も出ませんよ」


 苦笑する師匠。そして師匠はよし、と言ってこう告げてきた。


「リョウ、状況は思ったより良くない。君も対応に回ってくれ」


「……やっぱりそうなりますよね」


 僕は立ち上がり、これが一段落したらゆっくりさせて下さいよ? と師匠に念を押して会議室を後にした。



「改めて見ると、酷いな……」


 現在地は商店街。そこから城下へ向かって一度フルーラと合流。その後ダンジョンへ行こうと決めて外へ出た僕は、千里眼で視ていて状況は分かっていたが辺りの惨状に顔をしかめてしまう。


 建物が分かりやすく壊れている所もあるし、地面も抉れている。一番酷いのが、臭い。この一帯が血の臭いに包まれている。住民だったり、倒されたオーガの血が混ざり合って独特な臭いを放っている。


 城下へ向かう道中、発見した事切れているオーガは両腕を綺麗に切断されていた。


(これはゾマが倒したオーガだね。槍でどうやったらこんな芸当が出来るんだか……)


 ーーアンタは強そうですけどね? 不意にゾマに言われた一言を思い出し、思わず身震いしてしまう。下手に絡まれないよう可能な限り関わらないでおこう、そう決めた。


【なんだなんだぁ? 珍しく真剣な顔してよ】


「あれ、フーさん」


 そこで僕の頭に直接語りかけてくる声が。この声には覚えがある。


【こりゃあ……鬼が入り込んだってか。お前が居なくても何とかなってる様だし、ほっときゃいいんじゃねぇか?】


「……僕もそうしたいところなんだけどね」


 出来ればそうしたいし、早く家に帰りたいと思ってる。だけど、この惨状を目の当たりにしてそのまま放っておけるほど、僕は薄情になれないみたいだ。


【まぁ、今こうやって動いてるのがお前の意思だろう。こんな面倒事さっさと終わらせてのんびりしようぜ? 力を貸してやるからよ】


「え、いいの?」


【貸し、一つな?】


「出世払いで」


 舐めんな、と無邪気に笑いながら声の主が言葉を紡ぐ。みるみる内に、自分に力が漲っていくのを感じた。


 ーーフーさん、僕がこう呼んでいるだけで、正式名称は風伯。人や精霊ではなく、神らしい。本人談だから確証は無いけど、この力を貸し与えてもらった者なら信じるしかないだろう。


 彼が司る属性は、風。風神と称されているらしい彼が、何故僕に? と思って一度聞いてみたが、なんか気が合いそうだから、というなんとも軽い返答をされて呆気にとられたのを覚えている。


 フーさんの力を貸して貰う間、僕は出来ることがかなり増える。


「ありがとう、フーさん」


【おう、勝手に死ぬなよ? 話し相手が居なくなるのは、存外つまらないもんだからな】


 そう告げて、声の主は何も言わなくなった。こっちが話し掛けても、たまにしか返事しないくせに。思わず苦言を言いそうになったが、グッとこらえた。姿は見えないが、いつも近くにいる。そんな何とも言えない感覚を味わいつつ、僕は言葉を紡いでいく。


「我は疾風の如き。大地を駆け空をも翔ける。風の精よ、力を貸し与えたまえーーーー空踏」


 僕は風の魔法に適正がある。この魔法は自身の俊敏性を跳ね上げ、読んで字の如く空を踏み跳躍が出来るようになる。それでも、通常は一回か二回程度だ。だが、フーさんから力を貸してもらっている間、その回数は()()()になる。


 僕は眼前の建物等を無視して、上空へ跳躍しながら翔け上がる。そのまま城下へ向かおうとしたが、建物を越えた所で眼下に赤と青色が点在しているのを発見する。オーガだ。周囲に人影はなく、ビーティンさん達が避難誘導をしてくれているおかげで、現状以上の被害は出ていない様だった。僕は構えをしたまま急降下していく。


「一閃」


 そう言って放った斬撃を飛ばす技、一閃は赤いオーガへ被弾した。が、ガキッという硬いものに当たった音がし、腕を切断することはなく僅かにかすり傷を付けた程度に留まった。


「グッ!?」


「硬いね」


 いきなりの痛みに驚いたオーガが、こちらへ向き直る。が、そこに僕は居ない。空踏を使い、向き直ったオーガの背後へ回り込んだ。そして、傷が付いた腕へ改めて一閃を放つ。距離が近いほど一閃の威力は上がる。ボトり、と地面に腕が落ちた。


「ガアァァアッ!!」


 オーガが腕を押さえながら僕を睨みつける。僕は構えを取ったまま、切断面に向かって一閃を放った。傷口を抉るように斬撃が進んでいき、肩から盛大に血を噴き出していく。オーガはそのまま地面へ倒れ込み動かなくなった。


 すると声を聞きつけたのか、今度は青いオーガがゆっくりとこちらへ向かってきた。そのオーガは棒状の岩を手に持っており、威嚇の様にそれを振り回していた。


「赤よりは知性がありそう、かな?」


 僕は構えを取り、技を放つ。


「飛燕」


 これは、一閃と対になる技。一閃が斬撃を飛ばすのに対し、飛燕は()()属性を飛ばす。僕もなんでそうなるのか分からない。そういう技として把握している。その飛燕はオーガの持つ岩へ被弾した。衝撃と共に、岩が手から後方へ弾き飛ばされた事にオーガも驚いている様だ。


 空踏でオーガの死角に入り、再び構えを取る。


「一閃」


 放った技は、綺麗にオーガの胴体を真っ二つにした。どうやら、青い方が赤よりも肉質が柔らかい様だった。


 青いオーガが事切れたのを確認し、僕は周囲を見渡す。そして、千里眼で生き残りのオーガが居ない様にくまなく調べていく。この周辺にオーガが居ないことを確認し、僕は再び空へと跳躍した。

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