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百鬼夜行.5

 ちょっと長いです。

「大体何なのだ! あの騎士団員は!? あれは本当に団員なのか!?」


 ギルド本部から散開し、ビーティンが率いる一行はリョウによる指示の元、索敵範囲をギルドから徐々ではあるが拡げていっていた。


 が、オーガは見当たらず、また暗がりを歩いている住民も居ないことで緊張が緩み、パーティーの会話は自然とゾマの話になっていた。


「まぁまぁビーティンさん。応援に来てくれる位だ、実力は確かなんだと思いますよ。実際騎士団からは二人だけでしたし」


 騎士団は、主に城下の領域を守護している。城下にはセバンタート領主、それに貴族が住まう。


 それに荒事は、ギルドの職員である我々の方が対応に慣れている。そう思っているビーティンは、応援がなくても文句を言うつもりはなかった。


 ーー別に威嚇しなくても、自分弱いものイジメなんかしませんって。


 応援という立場でありながら、自分の方が強いと。ゾマから暗に馬鹿にされている、そう受け取ったビーティンの心情は穏やかではなかった。


「まだ会議を進行していたリョウ、という男の方が幾分かマシだ。あのゾマという小僧め……覚えておれよ」


 あいつはスキルでセバンタート内を俯瞰して見ることが出来る、と言っていたな。それも果たして本当なのやら。


 ビーティンは、ギルマスが連れてきた男だから一定の支持は示していたが、未だ半信半疑であった。その疑心は、悪い意味で裏切られる事になる。



 リョウがいるかも知れない、と目星を付けていた商店街へ出た所で、ビーティンはいつもと違うことに違和感を覚えた。


 余りに静か過ぎる。この辺りは近くに酒場や宿もあり、普段この時間であれば、それこそ住民が歩いていないとおかしいほどだ。


 なのに、今日は誰も居なかった。


「ビーティンさん! 暗がりの中で誰か横たわっています!」


 仲間の一人が告げる。と同時にパーティー全体に緊張が走る。


「周囲の警戒を怠るな! 目標までゆっくりと前進!」


 ビーティンは即席パーティーではあるが、正確に指示を出し横たわる人影らしき側まで近付く。


 それを見たある者は眼を背け、またある者はどんどんと顔が青褪めていく。ビーティンはリーダーという責任感からか、嫌な汗をかきながらもしっかりと現状を確認していく。


 地面にヒビが入った中心にいた人物はーーーー既に事切れており、胴体は形状を留めていなかった。周辺には、肉片と思わしきものが四散し、血も飛び散っていた。


 【戦士】である男の一人が呟く。


「こいつは……酷ぇな。これをオーガがやったって事か?」


「うっ……! ビ、ビーティンさん。周囲にも、ど、同様に何人かやられている様子です……」


「何だと……!?」


 横たわっているのは一人だけでは無かった。普段なら人がいるであろうこの時間。ここにいたであろう住民達。その全てが、逃げる間もなく殺されていた。


 ビーティンが眼を凝らすと、告げられた通り横たわっている人影が。見なくても分かる。恐らく、これと同じ状態だろう。辺りには血の臭いが漂っていた。


 ビーティンは思案した。セバンタートの住民は貴族を除けば、比較的荒事へ臨機応変に対応できるはず。その住民達が逃げることも出来ず、無惨に殺されてしまっている。対峙したことはないが、オーガという鬼。その魔物がアルミラージの様に俊敏性に優れているのが、あるいはーー


 悲鳴と共に、ビーティンは現実へ引き戻される。


「悲鳴は酒場の方からです!」


「急ぐぞ!」


 ーーーーすまない! 事を終えたら必ず戻ってくる!


 ビーティンは、転がっている死体に謝罪をし、悲鳴の上がった酒場方面へ急いで駆けていく。



 ーーそこには、鬼がいた。


 ある鬼は、冒険者であろう男の頭を鷲掴みにして、そのまま握り潰していく。

 ある鬼は、逃げ惑う住民を上から大鎚を振り下ろすが如き動作で、地面とサンドイッチに。

 ある鬼は、その光景を突っ立ったまま眺めていた。計三体の、鬼。


「コイツらが!」


「「オーガ!!」」


 たった三体。だが、その僅か三体である鬼により、酒場の惨状は惨憺たるものになっていた。


「先ずは住民から引き剥がす! お前達、少し下がっていろ!」


 ビーティンは、自身の大盾を鳴らす。【重戦士】のスキル、挑発である。


 それまで、光景を眺めていただけのオーガが、眉間に皺を寄せビーティン達の方へ視線を向ける。そして、ゆっくりと歩みを進めてきた。


「こっちだ! 赤鬼!」


 パーティーは、鬼を住民達から引き剥がすべく後退する。オーガもゆっくりではあるが、ビーティンをめがけて確実に付いてきた。


(くそっ! 一体だけか! コイツを速やかに倒して、早く戻らねば!)


「総員! 戦闘準備!!」


 酒場から少し離れた位置で、ビーティン達はオーガと対峙する。


 ビーティン達をゆうに超える身長、筋骨隆々とした肉体。そして赤色の皮膚と二本の角。


 ビーティンも訓練がてら、ダンジョンの上層へはよく赴いていた。だがビーティンは、そこに現れる魔物、ゴブリンやキラーバットとは段違いな強さである、と肌で感じ取っていた。


「私が攻撃を引き付ける! その間に仕留めろ!」


「「了解!」」


 ビーティンは挑発を繰り出す。オーガはその音を止めようと、ビーティンへ歩きながら拳を繰り出した。


(ふんっ! 緩慢な動きだ。そんな攻撃でこの私をーーーー)


 そう思っていたビーティンに瞬間、とんでもない圧力が襲いかかる。


「ぐうっ!?」


 ビーティンは大盾でしっかりと防御した。にもかかわらず、オーガの力が想像以上だった事に驚きを隠せない。


 吹き飛ばされそうになるのを、片膝をつきながら耐えていく。


 二人の【戦士】がその隙に同時攻撃を仕掛ける。【魔法使い】は後方で詠唱を開始した。


 同時に斬りつけたその刃はなんと、弾かれてしまう。【戦士】達は動揺を隠せない。


「なっ! 嘘だろ!?」


「どれだけ硬いんだコイツ!」


「用意出来ました、皆さん離れて下さい! ーーーー我が名をもって、敵を滅さん! ファイヤーボール!」


 【魔法使い】から放たれたのは、大きな火球。三人はその場から離れ、火球は避けようともしないオーガへ容易に命中する。


「や、やった!」


「警戒を解くな! それにまだ酒場にも二体残っている! 被害が拡大する前にそちらへ向かうぞ!」


「は、はいっ!!」


 ビーティン達が移動を開始しようとした時ーーありえない光景が、そこにはあった。


 魔法が直撃し未だ燃えたままのオーガは、見るからに皮膚は焼け爛れ、焦げた肉の臭いがした。だがしかし、崩れ倒れる訳でもなく、その場に悠然と立ったままでいた。眼には光が宿っており、その眼は【魔法使い】を捉え、睨みつけている。


 そして、【魔法使い】へと向かいゆっくりと歩み出した。


(なっ!? あの状態でまだ生きているのか!?)


 ビーティンは動揺しながらも、急いで【魔法使い】の前へ。大盾を構える。


「ビ、ビーティンさん!」


「ボサッとするな! 体勢を整え再度詠唱だ! まだ余力はあるだろう!?」


「……っ! はいっ!!」


【魔法使い】はその場から後方へ距離を取り、詠唱を開始する。



 【重戦士】であるビーティンが攻撃を受け、その間に【魔法使い】が詠唱を開始。【戦士】達が遊撃し、もし誰かが負傷しても、こちらには回復が出来る【治癒師】がいる。


 一見盤石に見える布陣。仲間ももう少しで倒せるぞ! と士気を上げていた。だが、ビーティンだけは違うことを考えていた。


(一体を相手に時間が掛かり過ぎだ……! 酒場だけで既に三体……これでは、いくら時間があっても足りない!)


 こちらが油断なく戦闘すれば、一体と対峙するだけなら問題ない。ただ、その一体を倒すのに時間が掛かり過ぎる。【戦士】達の攻撃が通用するなら話は変わってくるが、赤鬼の皮膚は剣を通さない程、硬い。


 魔法は通る様だが、それだけでは【魔法使い】に負担が大きすぎる。それに、常に一体だけと戦える訳では無い。複数のオーガとの戦闘も視野に入れておかなければならない。


 ビーティンは片膝をつきながらも、オーガからの拳を大盾でしっかりと防ぐ。余りの衝撃に思考が吹き飛ばされる。


(ぐっ! 何にせよ、コイツを何とかしないと始まらん! 何故動けるのだ!?)


 未だ燃えたままの身体で、それでもまるで衰えない拳。


 更に飛んでくる拳をしっかり受けようと、身を固めた時ーーーー突如のんびりとした声が掛かる。


「なーんか大変そうッスね。手伝いましょうか?」


 何者かがそう告げた直後、オーガから放たれた拳はーー腕ごと、宙に舞っていた。


「ガッ!?」


 オーガは今まで一言も発していなかったが、初めて痛みによる声を上げていた。


 痛みに声を上げた一瞬の内に、その男は武器である槍を胴へ貫き通していた。


 オーガはその攻撃で事切れた様で、男はつまんないッスね全くと告げた。槍を抜き取るとオーガであったモノは、大きな音を立てて地面へと倒れた。


「き、貴様っ!」


「どうもッス、ベンテンさん」


 --現れたゾマは何事も無かったかの様に、会議へ来た時と同じ様な挨拶をした。



「何故貴様がここに居る!?」


「思ったよりコイツらが多くて。まだ商店から動けてないんスよ」


 ゾマが武器である槍をオーガへ向ける。


「それで? 尻尾を巻いて我々の元へ来たと? ふん、どうしてもと言うなら、我々と共に行動することを許可してやってもいいぞ?」


 それを聞いたゾマは、盛大に笑った。


「なっ、何を笑っている!!」


「いやぁ、ベンテンさん面白いなと思って。つい」


「ビーティンだ!!」


 すいませんと言いながらも、尚も笑うゾマ。ビーティンは苛つきながらも、努めて冷静に話を続ける。


「……貴様が腹ただしい奴でも目的は同じだ。酒場にまだ二体居る、一緒に来い!」


 ゾマはあぁ、といい何事も無かったかの様に告げる。


「あそこにいた奴ならやっときましたよ?」


 それを聞いたビーティンは驚きを隠せない。


「なっ!?」


 確かにコイツの一撃は、オーガを腕ごと切断出来る力を持っている。だが、酒場には万全な状態のオーガが二体も居たんだぞ!?


「嘘つけ! 俺達の斬撃で傷一つつかなかったんだぞ!? お前の一撃だって【魔法使い】が皮膚を焼いてくれたから通りやすくなっただけだろう!?」


 そう言うと、ゾマは【戦士】を一目見てはぁ、と溜息を吐く。


「なんだかなぁ。弱い奴らって何でこう、群れは作るし自分達の常識を当てはめたがるんスかね? 確認すれば済む話じゃないですか。まぁ、自分は行きますね。この辺りはベンテンさんがいれば大丈夫っぽいですし」


「ビーティンだ!!」


「アハハ。じゃ、また」


 そう言いながら、ゾマは去っていった。ビーティン達は急ぎ酒場へと赴く。


 静まり返った酒場には、住民達の無惨な姿と、両腕を綺麗に切断されているオーガの死体があった。


「そんな……本当に、一人でやったってのか……?」


 【戦士】の一人が声を上げる。信じられないといった様子だ、他の仲間も同じ様な反応を見せる。実際に対峙した者なら、二体のオーガを一人で倒す、これがどれほど難しい事か容易に想像がつくからだ。


 ビーティンは意を決して、今後の方針を仲間へ話し始めた。


「……今後の方針を話す。以降、我々は住民の保護、避難を優先。対峙した場合、掃討ではなく足止めに徹し周囲の安全を第一とする」


 【戦士】がそんなっ! と声を上げたが、ビーティンが睨みつけると悔しそうに口を結んだ。


 自身でも分かったのだろう。この鬼と対峙するには、現時点では実力不足だと。


「言いたいことがあるのは分かる、その気持ちは私も同じだ。……だが、我々はギルドの職員でもあるのだ。先ず、責務を全うしなければならない。索敵範囲は変わらずだ、ここから更に拡大していくぞ!」



 ビーティン達は、範囲を広げながら、住民へ避難を呼びかけて回る。


 索敵中、息絶えているオーガは発見したが、生きているオーガは一体も居なかった。


 事切れたオーガは全て、両腕を切断されていた。

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