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その時リリは

 ~サキュバスと女盗賊~

 第二章、宿にて。リリ視点です。

 夕方。適当に男を引っ掛けて宿に泊まろうと思っていた私は、件の男を見つけ昼間の感情が蘇ってきた。


 ーー見つけたわよ、オーガキラー! 今度は絶対にオトしてやる。昼間恥をかかされた分、倍にして返してやるんだから!


 肩に乗ってるのは、スライム? よく分からないのを連れているわね。それと隣りにいる青い髪の女。同年代っぽい。仲間かしら? お互いに、仲良く出来るのも今のうちよ。せいぜい噛み締めておきなさい。


 アイツらが入っていく宿を確認する。今夜は雨が降ると、昼に一緒にいた男が言っていたわね。そこからが本番よ。私は敢えて、雨が降るのを待つ。その間、声を掛けてくる男達は全部無視した。


 ーー私にとって、初めて本気を出して獲物を狙う。全力でオトすと決めた以上、万が一にも失敗はしたくない。出来ることは全てする。決意を固めている私に、好機の雨が降り注いできた。私は口角を上げ、全身に雨を浴びていった。



「……こんなもんかしらね」


 着ていたワンピースはびしょ濡れ、肌にへばりついて気持ち悪い。でも男ってこういうのが好きなんでしょ? 私は髪を一度かきあげ、そのままオーガキラーのいる宿へ入る。店内の男共から一斉に視線を浴びるが関係ない。私は受付へ向かい、店主へこう告げた。


「私、カイルさんの知り合いなんですが、お部屋を教えて頂いても大丈夫でしょうか?」


 店主は男、その時点で警備はあってないようなもん。部屋を教えてもらい、私は会釈をしてオーガキラーがいる部屋へと向かう。店主が胸元をチラチラ見てきて気色悪かったけど、やっぱり効果は抜群ね。


 部屋の前まで来て、珍しく手が震えていた。これは、何? もしかして、心の何処かで失敗するとか思ってる訳? そんな事あるはずない。これは単に身体が冷えただけ。私は笑顔で部屋をノックした。


「アメルか? どうぞ、鍵は開いてるよ」


 あの女がアメルっていうのかしら。随分と信用されてるじゃない、ムカつく。私はそう思いながらドアを開ける。


「こんばんは、失礼しても大丈夫ですか?」


 こっちを見たオーガキラーは、驚いた様子だった。そして私を見るなり顔を赤くして慌てて眼を背ける。


「だ、大丈夫ですけど! どうしたんですか? ずぶ濡れじゃないですか!」


 アンタをオトす為よ、服がへばり付いて気持ち悪いんだから。


「あぁ、これですか。丁度雨に降られてしまって……傘も持ってなかったものですから」


 オーガキラーは慌てている。魅了はやっぱり効いていないようだけど、どうやら心配してくれている様だ。


「一階に、湯浴みが出来る所があります。オーガキラーの名前でツケにして大丈夫なので、とりあえず温まってきてください」


 ……自分が視姦するより、私の身体を優先するのね。思ったより紳士な所あるじゃない。私はありがとうございますと告げて、一度部屋を後にした。とりあえず、初手の動きは成功と見ていいわね。さて、ここからよ。


 私は湯浴みをしてから、スキルを発動する。サキュバス特有のスキル、変化は、容姿はおろか、服装も自在に変えれる。女の子の夢じゃない? お金も掛からないしマジ最高。私が変化したのは主に服装。ワンピースから大きめのシャツ、それと柔らかい素材のハーフパンツ。清楚から一変。ラフな格好へのシフトは、男ならギャップ萌えに苦しむこと請け合いよ!


 私は改めてオーガキラーの部屋をノックする。今度は本人がドアを開けてくれた。そうそう、こういうのよ!


 どうぞと進められて、私は椅子へ腰掛けた。固い椅子ね、どうせならベッドに座らせなさいよ。オーガキラーは、近くの椅子へ座り話し掛けてきた。


「知っているかもですが、俺はカイルっていいます。えっと、お名前を聞いても?」


「はい、リリと申します」


「リリさん、昼間はすみませんでした。急に笑ったりして気分を損ねてしまうような事を」


 そう言って、コイツは頭を下げてきた。ホントよ、どんだけ苛ついたかアンタ分かってんの?


「いえ……昼間の事は勉強になりましたし、気になさらないでください」


「そう言ってくれるとありがたいです。それで……どうしたんですか? もう遅い時間ですけど、こんな時間まで外にいたのは、何か事情が?」


「実は……今は訳があって、家に帰れないんです」


 私がそう言うと、オーガキラーは何かを悟った様にハッとした顔になり、うんうんと頷き始めた。アンタまた、変な事言い出し始めないでしょうね? ここで変なことを言われ始めると、またコイツのペースにされてしまうと思い、勝負に出ることにした。



 ーー魅了、それも自身で出せる全力まで出力を上げる。上げながら、オーガキラーへ提案する。


「なので今晩、よければここに……泊めてくれませんか?」


 オーガキラーは、それを聞いてゆっくりと口を開く。ーー分かりました、と言った。……勝った! コイツも全力の魅了には抗えなかった様ね。恥をかかされた分、今度は私が飽きるまで存分に遊んでやるわ!


 続けてオーガキラーが言った言葉に、勝ちを確信した私は大いに動揺した。


「そしたら、この部屋を使ってもらって構いません。一週間は、大丈夫かな? それ以上になると、流石にちょっと厳しいかもしれませんが」


 ーーな、にを、言っているの? この、男は……?


 私が動揺してる事なんかお構い無しに、オーガキラーは店主に話をつけてくると、部屋を後にしようとしている。自分は、改めて部屋を取るとかとんでもないことを言い出している。私が全力で魅了しているのに、なんなのコイツ……効いてない? 嘘でしょ……先輩達が嫌がる位の力よ?


 私は慌ててオーガキラーに声を掛ける。


「そんな! お金が勿体無いじゃないですか。私は大丈夫ですし、一緒に」


「貴女が大丈夫でも……子供に見えるかも知れませんが、俺だって男なんです。こんな綺麗な人を前に一晩一緒なんて、理性を保てる自信がありません。自分を大切にして下さい」


 何なのコイツ……やっぱり魅了は効いてない。私とまともに対話出来てる時点でそれは間違いない。そのくせ、ちゃんと私を女扱いして……。


 感情がグチャグチャになる。コイツをオトす、という点だけみれば私の負け。オトすどころか、諭されている様にも思える。でも、ちゃんと女として扱ってもくれている。魅了も効いていないはず、なのに。もしかしてコイツと……カイルとなら。



 ーーーー私は普通の恋愛が、恋を楽しむことが、出来る?


 私がそう思っていると、カイルが唐突にこんな事を言った。


「従魔契約、可能? リリさん……貴女、魔物だったのか?」


 ーー頭がカッとなる。何でこのタイミングで正体がバレるの!? マジで意味分かんない! 折角清楚でいこうと髪を黒く変化させていたのに、制御が利かなくなって元の色に戻ってしまった。勢いで翼も出しちゃったし。変化で作り出した服だからいいけどっ!


「……なんなのよアンタ! どうして私の魅了が効かないのよっ!」


 そんな事言われても、とカイルは不思議そうにしている。その顔にますます苛立ちを覚える。


「あぁもうっ! イラつく!」


 私は翼を広げ、窓を割りながら外へ飛び出た。まだ雨が勢い良く降っていたがそんな事気にせず、とりあえずアイツから距離を置こうと飛び続けた。


 おまけを書き始めた時、一番最初に書いたエピソードがこれでした。大分下書きのまま眠っていましが、百鬼夜行も終わったので、ようやく貴方の眼に止まることが出来ました。

 他にもストックしてる話が、いくつかあればいいなぁ……と思いながら予約投稿をしました。お休みを頂いている間の、箸休め的なものになれば幸いです。

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