百鬼夜行.10
ちょっと長いです。
「粉々にしてくれるわ!」
紫色の鬼はリョウ達へ向かい猛進し、振り下ろしの一撃を放つ。二人はそれを躱すが、振り下ろした岩が地面に突き刺さりその部分が大きく抉られていた。
「フルーラ! 受けれそうかい!?」
「あぁ! 恐らくいけるはーーーー」
突如、フルーラが返事をする前に吹き飛ばされた。吹き飛ばしたのは、どこからか現れた赤い鬼だった。
「フルーラ!!」
フルーラの元へ駆けようとしたリョウは、変異種のオーガ、そして青色のオーガ二体に進路を塞がれてしまう。
「おっと、合流はさせん。貴様の相手は我らだ」
「……熱烈な歓迎だね。嬉しくて泣いちゃいそうだよ」
「強がりおって。貴様達と話している内に同胞を呼んだのよ。時間稼ぎにまんまと引っかかりおったな、馬鹿共め」
ーー知恵も回る。同種族に、遠隔で命令を送れる能力とみてよさそう。やっぱり、厄介な能力だね。ここで倒しておかなきゃか。リョウは遠くで二体の猛攻を受け、それでも盾を使い綺麗に捌いているフルーラを見る。先程の奇襲も盾で受けれた様だった、動きに陰りはない。
「くっ……! ーー光の精よ、我が盾に宿りてその力を見せ給え!」
瞬間、フルーラの盾が光り輝く。ただでさえ周囲を覆う光が、更に輝きを強くしていく。うっとおしく思ったのか、オーガが盾に向かって拳を放つが、フルーラは捌くことはせずその場でしっかりと衝撃を受け止めていた。
ーー守ることに関して、僕が今まで見た中じゃフルーラの右に出る人は居なかった。それは、師匠も例外じゃない。付与魔法を使ったならしばらくは大丈夫だね。
(にしても……大分引き剥がされたな)
リョウとフルーラの距離は、オーガの奇襲も相まってこの荒野でかなり離されていた。それを把握できたのは、フルーラ自身が光源の役割を担っていることで視認できていたからである。かくいうリョウの周囲は暗く、眼を凝らしても先が僅かに見える程度だった。
「足掻いているようだが、それも今だけだ。いずれ限界が来る、貴様等は我が止めを刺してやるから有難く思え。……まずは貴様からだ」
リョウは、眼を凝らせばぼんやりと見える相手に溜息を吐く。そして、眼を瞑り【侍】のスキル、構えを取った。その所作を見たことがない変異種は、面白いものを見る目でリョウへ話しかける。
「どうした? いまさら命乞いか?」
「出来れば使いたく無かったんだけどね……御託はいいからさっさと来なよ」
リョウはその場で構えたまま微動だにせず、淡々と告げる。変異種は呆れた様子を見せた。
「……フン、負け惜しみを。暗闇では満足に動くことも出来ない劣等種が……殺せ」
指示を受けた、二体の青いオーガがリョウへ迫る。挟み込む様に近付き、どちらも手に持った棒状の岩で、リョウに振り下ろしと薙ぎ払いを放っていく。リョウは眼を瞑ったままーー二体が攻撃を放った腕だけを、綺麗に切断してみせた。
「グオッ!?」
腕を斬られたオーガは腕を見つめ、どうして無いんだとばかりに声を上げる。その光景を、一部始終目撃した変異種も驚きを隠せない。
「貴様! 何をした!?」
ーーどうして眼を瞑ったまま同胞の腕を斬れる!? いや、そもそも奴はその場から動いていないではないか!
変異種は動揺しながらも、現状分析に努めた。リョウは、構えを崩さずに答える。
「あぁ、僕は個人のスキルで千里眼を持っていてね」
「千里眼……だと? なんだ、それは」
「言ったことがある場所や、会ったことのある人をスキルを介して視ることが出来るんだ。そうそう、南にある砂漠の景色がこれまた凄くてさ」
「そんな事は聞いておらん! どこまでも舐めおって! 千里眼だかなんだか知らぬが、眼を閉じたまま同胞の攻撃をどう捌いたのか聞いている!」
「はいはい、脱線しちゃったね。僕が今、同時に視れるのは七つまで。要は七つの眼があると思ってくれればいい。別に分からなくても良いけど。あと、千里眼で視れる対象にはーーーー僕も含まれているよ」
どうせ暗すぎて、眼を開いててもフルーラしか見えないし。そうリョウは告げたが、変異種は腑に落ちないままだった。リョウは千里眼で自分を俯瞰する視点をもって、攻撃を自身に当たるギリギリで特定し反撃していた。それでも、いつもの視点とは見え方がまるで違うこと。その上、反応が遅れれば大怪我を負ってしまってもおかしくなかったこと。当たり前の様な顔で、淡々としているリョウ。その実、かなり危険な橋を渡っていた。
痛みで声を上げているオーガへ近付き、一閃を放つ。一体ずつ確実に仕留め、肉体は崩れ落ち、そこには魔石だけが残った。
「合点がいった……地上で同胞を倒していたのは、貴様だったのだな」
「いや、それに関しては僕じゃなくてゾマがね?」
「減らず口をッ!」
変異種はリョウに向かって、岩を薙ぎ払う様に振るった。
「一閃」
キンッという甲高い音が荒野に鳴り、変異種が持っていた岩を粉々にした。
「グッ!?」
「……やっぱり変異種というだけあって、硬いね」
近距離で放った一閃。青いオーガを一刀両断する技も、変異種の腕を切断することは出来ず、浅い傷を付けるに留まった。
「き、貴様ッ! 鬼の頂点に君臨するであろう我に傷を付けるなど……許さぬぞ!!」
「君が頂点なの? だとしたらーー鬼ってのは、大したことないんだね」
眼を瞑ったまま、声のする方へ笑みを向けるリョウに、変異種は怒気を強めていく。
「……塵一つ残さぬ!!」
変異種は左手を前に出し、掌を上へ向け受け皿の様に構えた。そこから、人の頭大の火が生み出される。リョウは片目だけ開き、その光景を睨むように見つめていた。
「鬼の頂点たる我にしか扱えぬ、鬼火だ。冥土の土産にするといい!」
変異種が手を前方へかざすと、鬼火と呼ばれた火はリョウへ向かって迫っていく。リョウは横へ避けるが、リョウの動きを追うように鬼火も方向を変えた。
「……っ!?」
「貴様のその面妖な技は、動かぬのが条件なのであろう? 動かねば焼かれるまで! だが、その鬼火から逃げることは叶わぬと知れ! どこまでも焼き尽くすまで、貴様を追い詰める!」
「……厄介だね」
リョウは、【侍】の特性を魔物が見抜いた事に少なからず感心しながらも、追従してくる鬼火を華麗に避け続けていた。が、千里眼の視点。その一つに、避けた所へ変異種が待ち構えており、拳を振るう動作をかろうじて確認した。
(……鬼火に気を取られすぎた!)
リョウに体勢を立て直す暇はなく、鞘ごと刀を取り出し衝撃を受けようとする。変異種の拳は、鞘の防御をやすやすと突破し、刀ごと粉々にしながらリョウの脇腹へ深くめり込んた。
「ぐっ!!」
そのまま、その場から凄まじい勢いで吹き飛ばされ地面を転がっていく。
「リョウ!?」
フルーラも変異種が鬼火を出したこと、そして今リョウが吹き飛ばされたのは視認できていた。ただ、赤鬼の攻撃で思うように動けず、助けに入れないでいた。
変異種がゆっくりとリョウへ近付いていく。リョウは、口から血を吐き出しながらもゆっくりと立ち上がった。地面に粉々にされ、砕け散っている刀であった武器へ眼を向けて呟く。
「う、げほっ……あーあ。これ、結構高かったんだよ?」
「劣等種のくせに、ここまで戦えたのは素直に褒めてやろう。だが、貴様に武器はもう無い……終わりだ。このまま燃やし尽くしてくれる」
その後は、向こうにいる奴だ。変異種はそう告げ、掌を上へ向けてその両方から鬼火を出現させた。リョウは、腰からもう一本の武器を取り出す。それは、本武器である刀の半分にも満たない長さの小太刀であった。それを片手に持ち、変異種に対し半身になりながら腰の後ろに構えていく。それを見た変異種は、苛立ちを隠さずに舌打ちをする。
「チッ、諦めが悪いのが人間の本質か? その程度の刃で、我をどうにか出来ると思っているのが腹立たしいわ」
リョウは表情を変えず、再び眼を瞑り、告げた。
「やってみなきゃ分からないじゃん。ほら、おいでよ」
空いている手で、変異種を挑発するようにクイクイと指を曲げる。死ねっ! と言いながら、変異種は鬼火をリョウに向けて放った。
眼前に鬼火が差し迫ろうとした時、リョウは空踏、と呟いた。その瞬間リョウの姿がその場から消える。鬼火も対象を失い、その周辺を漂っている。
「まだ動けたのか、どこへ行きおった!?」
変異種も周囲を見渡すが、リョウの姿はどこにも居ない。
ーーまさか、あれだけデカい口を叩いておきながら……逃げたのか? ……まぁ、劣等種としては我が同胞を倒しているだけの事はあったか。次に対峙する時、無策という訳にはいかぬな。あちらの方から片付けて、少し策を練るか。同胞を無闇に倒されては、我が望みは叶わぬ。
変異種が、意識をフルーラへ向け始めた時ーーーー背後で、言葉を紡ぐ声が聞こえた。
「風の精よ、我が剣に宿りてその力を見せ給え」
「ッ!? ……貴様ッ!!」
変異種が鬼火を声のした背後へ操作し、自身も後方へ向き直ろうとする。振り向いた変異種の眼にはーーーー小太刀の刀身が揺らいでいる様に見えていた。それは揺らいでいる部分も相まって、先程の刀身よりも遥かに大きい刀に感じる程に。
そう思ったのも束の間、変異種の視線はどんどん地面へ向かい落下していく。自身の首が、綺麗に両断されている事に気付く暇もなく、事切れた変異種の身体は崩れ、魔石へと姿を変えていった。操縦士を失った鬼火は、明後日の方向へ飛んでいく。
その様子を見ていたリョウは残心を解き、刃を鞘に収めた。
「一閃・鎌鼬、っと。今の僕じゃ隙だらけだから、あんまり使いたくないんだよね。……さて、早く合流しなくちゃね」
リョウが放った技、一閃・鎌鼬は、風の付与魔法により切れ味を格段に押し上げる。リョウの用いる技で一番の切れ味を誇っており、変異種の首を綺麗に切断できたのも説明がつく。だが、風を武器の刀身に付与する手前抜き身でなくてはならず、そのまま構える事は可能だが、居合の恩恵は受けることが出来なくなる。リョウが【侍】の数ある技で、実戦級まで昇華出来ているのはこの技一つだけだった。
リョウは脇腹を押さえ、少しムセながらもゆっくりと空踏の詠唱を紡いでいく。そして、フルーラとの合流を目指し光り輝く場所へ歩き出した。




