この山に来た理由
男が1人山の麓近くの森の中の一本道を、よろめきながら麓にある駐車場に向けて歩いていた。
男は何やらブツブツと独り言を呟いている。
「なんで俺はこんなところを歩いているんだ?」
「何か目的があってこの山に来てその帰りだと思うんだが、来た目的は何だったんだろう?」
「目的は果たしたんだっけか?」
「思い出せない、何だったけか? 何だったけか?」
駐車場にたどり着き車の鍵を出そうとポケットに手を入れる。
アレ? 無い。
ポケットの中にある筈の鍵が無い、落としたか?
男は今歩いて来た道を振り返ったあと、落としたらしい鍵を探しながら道を戻って行く。
キョロキョロと道とその周辺を見渡しながら歩く。
鍵を探しながら1時間程歩き、道の脇にある巨木を見上げたとき男はこの山に来た理由を思いだした。
巨木から伸びる太い枝に一本の紐でぶら下がっている、自身の身体を見つけた事によって。