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バーベキュー

4月が終わり5月になった。

5月にはゴールデンウィークがある。

裕馬たちは家族で首都「月都げつと」に滞在することにした。

月都は月州の政治、経済の中心地で、月州共和国の首都である。

月州共和国は日本からの独立戦争をえて分離独立した。

月州はシベリウス教を国教と定め、そのアイデンティティー、統治の基礎とした。

つまり、シベリウス教のような「好戦的な」宗教は時の月州政府に都合がよかった。

もっとも、月州の父たちや母たちにシベリウス教の信徒がいたのは事実であったが……

月州を建国した人々は建国の父たち、母たちと呼ばれている。

この月州では一般国民でも武器の扱いを訓練する。

月州は最初からシベリウス教の国として出発した。

月州はシベリウス教の国である。

月州はシベリウス教の精神を、「月州共和国憲法」に定めた。

憲法には共和国の主権は国民にあること、大統領が国の行政権のトップであること、大統領は国民による直接選挙で選ばれること、さらに一度の投票で過半数を執ることができなければ、決選投票を上位二名で行うこと、二院制を執ること、上院と下院を設けること。上院議員は各県から二名、下院議員は各県の人口に対応して選出される。また労働について、「何人も奴隷的労働をさせてはならない」、「労働は尊厳を伴うべきである」などである。

特に労働についての条項で月州は日本での悪しき慣習である、残業や休日出勤のことを「奴隷的労働」と見なしている。


6月が訪れた。

裕馬、沙希、信太、伊織の四人はバーベキューに行くことにした。

裕馬が鉄板の上で焼き肉を焼く。

「おおーー! いい匂いがしてきたぜーー! 今からよだれが止まらねえ!」

信太が嬉しそうに言う。

「おい、信太、おまえも見ていないで肉を焼くのを手伝え!」

裕馬が不満をぶちまけた。

「わかってるぜ。肉を並べればいいんだろう?」

沙希と伊織は野菜を切っていた。

さて、どうしてこういう展開になったのか、時間をさかのぼる。


「ねえ、裕馬君!」

「どうした、沙希?」

裕馬の席に沙希がやって来た。

「今度新しくバーベキュー場ができるって知ってる?」

「ああ、赤が丘のあたりにできるやつだろう?」

「私たちもバーベキューに行ってみない?」

「俺たちがか?」

聞き耳を立てていた生徒たちがざわついた。

裕馬はそれに気づいた。

「私は伊織を誘うから、裕馬君も誰か誘ってよ。何人かでなら遊びに行けるでしょ?」

「ああ、そういうことか」

裕馬は納得した。

と同時にがっかりした。

二人だけで遊びに行くのかと思っていたからだ。

「俺は信太を誘ってみるよ。それで四人でバーベキューに行こう」

話はまとまった。

裕馬と沙希は食材を買いに、スーパーに出かけた。

バーベキューの具材をカートに入れていく。

「ねえ、裕馬君?」

「何だ、沙希?」

「私たちって夫婦みたいだね?」

「なあ!?」

裕馬は不意を突かれてドキマギした。

恋人を通り越して、夫婦だなんて……

「うふふ……今日のご飯は何にする? あ・な・た?」

沙希が挑発してくる。

「恥ずかしいからそれはやめてくれ」

「えー? 別によくない?」

「だって、手を握ったことも、キスをしたこともないのに夫婦なんて早すぎる」

「へえ……裕馬君ってそういう、欲求はあるんだ?」

「うぐっ!?」

沙希が鋭いことを指摘した。

裕馬は口ごもる。

「俺だって男だ。そういう欲求はあるさ」

「そうなんだ……いいこと聞いたな」

「何だって?」

「ううん、何でもない」

「本当に何でもないのか?」

「裕馬君、気になる?」

「それは気になるさ」

「そうだね……裕馬君が私の初恋の人と再会したら教えてあげる」

「また、それか……」

裕馬はげんなりさせられる。

裕馬は沙希の言う初恋の人が嫌いだった。

恋のライバルのような気がしたからだ。

裕馬ははっきりと、自分が沙希に恋していると自覚していた。

俺は沙希が好きだ。

だが、その気持ちを出すことを裕馬は恐れていた。

行動をしなければならないと、裕馬は思った。

裕馬は考えた後思った。

沙希はさっきなんて言った?

再会したらと言った?

それはつまり、自分と初恋の人は会ったことがあるということだ。

「なあ、沙希?」

「何?」

「その人って、俺と会ったことがあるのか?」

「うん、あるよ」

「俺はそれが誰だかわからないんだが?」

「うーん……私の口からは言えないなあ」

「そっか……なあ、沙希?」

「なあに?」

「バーべキューの前に、今度ウォーキングに行かないか?」

裕馬は一歩踏み出してみることにした。

「うん、いいよ」

裕馬はほっとした。

内心、拒絶されるのかと怖かったからだ。

沙希の肯定の返事を裕馬はうれしく思った。

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