友達
一人の男子が裕馬の前に現れた。
「おい、おい、裕馬! あの綾野さんと会話なんて、なんてふてぶてしいやろーだ!」
「信太……」
こいつは西村 信太。
裕馬の友人である。
この信太も同じクラスだった。
「おまえには言っていなかったっけ? 俺と沙希は家族になったんだ」
「家族!? もうそんなに進んでいるのかよ!?」
「おまえ、誤解してるだろ? 俺と沙希の親が再婚したんだよ。それで俺たちは義理の家族になったんだ」
「ああ、そういうことか……じゃあ、ひとつ屋根の下で暮らしているってことか!?」
「まあ、そういうことになるな……」
「何だって!? あの綾野さんとおまえが同棲生活ねえ……やっぱ少しは期待しちゃうか?」
「別に……沙希には初恋の人がいるそうだ。その人が今でも好きなんだってよ」
「初恋の人? へえ……綾野さんが告白を断るっていううわさはあったけど、それが原因か……それにしても家族ねえ……もう『沙希』って呼んでるのか?」
「ああ、初対面の時からな」
「家族はいいねえ。おっ、先生が入ってきた。じゃあな、裕馬!」
「ああ」
一方、沙希と伊織は……
「ねえ、伊織、私って裕馬君から変な女って思われてないよね?」
「はい? どうして?」
「最近マンションでもいっしょだし。毎日ドキドキしてる」
沙希と伊織はランチを出していた。
屋上のベンチで二人は昼食を食べる。
「沙希は裕馬君のことが好きなんだねえ……」
「今日なんかいっしょに登校しちゃったし……はあ……裕馬君って私のことをどう思っているのかな?」
「どうって、少なからず、想っていると思うけどな」
「はあ……普段は動じないようにしてるけど、どうしよう……仮面がはがれないかな……」
「恋愛って難しいよね。一方が好きでも、もう一方が好きとは限らないからね」
「しかも、裕馬君と同じクラスになっちゃうし……どうしよう……今年一年でどうなっちゃうのかな、私たちは?
「そうだねえ……どう攻めたらいいのかな? 沙希の方から体まで行っちゃう?」
「えーー!? 私は軽い女って思われたくない!」
「ははは、冗談だよ。でもすごい偶然だよね。なんたって沙希のあこがれの人と同じ家族になっちゃうんだもんね」
「うん、そうだね。私は覚えてるけど、裕馬君は私のことを覚えていないみたいなの……」
「そっか……うーん、困ったねえ……」
「このあいだなんて、気が付いたら裕馬君を抱きしめていて……」
「え? 何それ? もうそこまで?」
「まだ、手もつないでいないのに……でも、裕馬君は辛そうだったから……」
かくして二人はガールズトークに花を咲かせた。