ベストカップル
8月は紫雨校でも休みの時期である。
8月は哲磨や瑠美子も長期休暇だった。
月州では8月は主にバカンスの月で、一か月丸々取得できる。
裕馬、沙希、信太、伊織の四人はプールに行くことにした。
発案者は信太だった。
裕馬と沙希は水着を買うため二人でデパートにやって来た。
デパートには電車で15分かかった。
二人はデパートに来たついでに、本屋に寄ることにした。
本屋では裕馬は歴史書のコーナーを見て回った。
「特に、新しい本は追加されていない、か」
裕馬は軽い失望感を持った。
裕馬は古代ローマのコーナーから第二次世界大戦のコーナーに移った。
そこでは独ソ戦の新しい本を見つけた。
「あっ、これはいいな。中身は……ふむふむ……おもしろそうだな。よし、これを買おう」
裕馬は買い物を済ませると、沙希の姿を探した。
沙希は小説のコーナーにいた。
「沙希?」
「ああ、裕馬君? もう買い物は終わったの?」
「ああ、俺はね」
「じゃあ、私もそろそろ買ってくるね」
「わかった」
プール当日、裕馬と信太は着替えを済ませるとプールサイドで二人を待っていた。
「かー! 二人はどんな水着を着てくるんだろうな。マジで楽しみだぜー!」
「やれやれ……」
「なんだよ、裕馬、ノリが悪いな? おまえは二人の水着に興味はないのか?」
「ない、と言えばウソになるな……」
「なんだよ、このむっつりスケベ! ああ、そう、俺さ」
「? どうかしたのか?」
「俺は綾野さんに告白しようと思うんだ」
「は?」
「だから、告白だって。俺は綾野さんが好きになったんだ。だから、今度告白する」
「そう、か……」
裕馬は胸の内に黒い感情、というよりわだかまりができるように感じた。
「否定はしないんだな?」
「否定はしないが、応援はしない」
「おまえは綾野さんをどう思っているんだよ?」
「俺は……好きだ」
「そっか……俺たちはライバルだな」
「ライバル? おまえが告白したいなら好きにしろ。邪魔はしない」
「お待たせ―!」
「待ったー?」
そこに沙希と伊織がやって来た。
沙希は青いワンピースの水着を、伊織は赤いビキニを着ていた。
二人の青と赤のコントラストが強烈だった。
四人はプールで泳ぐことにした。
裕馬は信太が告白すると言っていたことでずっと悩んでいた。
どうでもいいじゃないか。
友人が沙希に告白したって。
裕馬は胸にもやもやしたものを感じた。
「? 裕馬君、どうかした?」
「え?」
「さっきからなんか思いつめているから……」
裕馬は沙希が心配していることがすごくわかった。
裕馬が胸に黒いものをかかえていることなど、お見通しなのだろう。
「ありがとう、沙希。俺は自分が小さいと改めて思っただけさ」
「何か、胸に抱えているの? 私でよければ相談に乗るよ?」
「ああ……信太がな、告白するそうだ……」
「西川君が? 誰に?」
「それは言えない」
「それでどうして裕馬君がもやもやするの?」
「ごめん……話せないことなんだ」
「そう……じゃあ、私はもうひと泳ぎしてくるから!」
9月。
9月は文化祭の月であった。
紫雨高校の生徒たちも、それぞれイベントにかかわっていた。
裕馬のクラスが行うのは喫茶店である。
100円喫茶店で、いずれもドリンクが100円で飲めるサービスを提供していた。
裕馬は後ろで厨房係をしていた。
沙希は接客だ。
店は繁盛していた。
屋上にて。
「何か用、西川君?」
「ああ、少しだけ時間をいただいたくてね。なあ、綾野さん、俺と付き合ってくれないか?」
「え?」
沙希はこういうことが多いため、直感的に告白されると思っていた。
だが、その相手が西川だとは思わなかった。
「ごめん、なさい。私には好きな人が、初恋の人がいるんです……」
「少しは考えてくれないかな?」
「それはどういう?」
「俺という人間を好きになってくれるかもしれないだろ? だから俺の彼女になってくれないか?」
沙希は困惑した。
と同時に裕馬が悩んでいたこともわかった。
「それとも、その初恋の人ってそんなに大事なの?」
「……私にはとても大切な思い出です。彼は私のことを気にかけてくれなかったけど、私は彼のことが気になっているの……」
「裕馬のことは?」
「え?」
「裕馬のことは何とも思ってないのかい?」
「ごめんなさい。答えられません」
「わかった……この話はここまでだ。悪かったね、無理を言って。それじゃあ……」
屋上には沙希一人残された。
「ちょっといい、裕馬君?」
「沙希か? 俺はもう上がりだ」
「話があるの」
沙希は廊下に出た。
「私、西川君から告白された」
「……うん、それで?」
「私は断った。裕馬君は西川君が私に告白するって知っていたんでしょ?」
「まあ、ね。あれでも友人だからさ」
「でも、裕馬君がどうして悩んでいるかもわかったの」
「なあ、いっしょにイベントを見て回らないか?」
「……うん」
裕馬と沙希はイベントを回ることにした。
二人は手をつないだ。
こうして手をつないだのは祭りの時以来だった。
二人は3年生の出し物、ロックバンドフェスティバルを見た。
バンド名は「ミューズ」というらしい。
アメリカのポップの影響を受けていた。
歌詞には英単語が見られた。
とてもビートが熱い演奏で、聞いていて耳に心地よかった。
「井草くーん! 沙希ー!」
「? 村山さん?」
「伊織?」
そこに伊織がやって来た。
「ベストカップル賞が催されるの! 二人とも、エントリーは私がしといたから、舞台に上がって!」
「「えーー!?」」
かくして伊織の策略により、二人はベストカップル賞に臨むことに。
二人は衆人の目のもと告白させられるのだ。
順々に告白とプロポーズしていくイベントで、最後に裕馬と沙希ペアに順番が回ってきた。
「さあ、最後はあなたがたの番ですよ! それではどうぞ!」
裕馬は沙希の手を取って口づけをした。
「沙希、俺は君を愛してる。俺と結婚してほしい」
「は、はい! 喜んで!」
「「きゃーーー!!」」
歓声が集まった人々から発せられた。
審査が行われた。
その結果、裕馬と沙希がベストカップルに選ばれた。




