顔合わせ
3月、裕馬は4月から高校二年生になる。
その裕馬の父が、このたび再婚することになった。
裕馬の父は「井草 哲磨」。
実直なサラリーマンである。
お相手は「綾野 瑠美子」さん。
教師をしている。
裕馬は瑠美子とは面識があった。
瑠美子も再婚だ。
裕馬たちはファミレスで初めての顔合わせをするつもりだった。
瑠美子には娘が一人いた。
娘の名前は「沙希」。
綾野 沙希。年齢は16歳。
裕馬と同じ、紫雨高等学校に通っている。
裕馬はこの沙希とは初めて会うはずだった。
裕馬は自転車でファミレスまでやって来た。
ファミレスの中に入る。
「井草です」
「井草様、ですね? かしこまりました」
店員に自分の名前を告げる。
裕馬は店の中を店員の後についていく。
「おーい! 裕馬! こっちだ!」
哲磨が声を出す。
「裕馬くーん! こっちよー!」
瑠美子も声を出した。
「時間は合っているか?」
「ああ、ちょうどいま仕方だな」
「さあ、裕馬君、座って、座って」
瑠美子の隣に一人の若い女性がいた。
黒のロングヘアに、セーター、デニムのミニスカートをはいている。
「君が沙希さん?」
「はい、私が沙希です。初めまして」
「初めまして」
沙希はにこっと笑った。
裕馬は内心緊張していた。
沙希とは初対面のはずだが、初対面の印象はそののちまで尾を引く。
裕馬は沙希との出会いが成功だと思った。
内心や細かいところはどうであれ、うまく一致で来たことに裕馬は満足だった。
「あれ?」
「? どうかしましたか?」
「あ、いや、何でもないよ」
裕馬はどこかデジャビュを覚えた。
裕馬と沙希は初対面のはずだ。
しかし、裕馬には沙希とどこかで会ったことがあるように思えた。
「? 私の顔に何かついていますか?」
「あっ、ごめん」
「裕馬、そろそろ座ったらどうだ?」
「わかってるって、オヤジ」
裕馬は哲磨の隣に座った。
ちょうどそこが空いていたのだ。
ファミレスでは音楽が流れていた。
主に、ポップを流しているようだった。
「裕馬さん……裕馬君って呼んでいいでしょうか?」
沙希が提案してくる。
「これから家族になるのに、どう呼び合うかは重要だと思って」
「そうだな。俺も沙希って呼んでいいかな?」
「ええ、いいですよ。私は裕馬とは呼べそうもないですが、いつかそう呼べるよう努力しますね」
「それから沙希も敬語は使わなくていいぞ」
「そう? 私もその方が話しやすいから、そうさせてもらうわ。じゃあ、改めて、よろしく、裕馬君」
「よろしく、沙希」
二人は互いに握手した。
その後四人はファミレスでたわいもない話をした。
哲磨と瑠美子は裕馬と沙希がうまく出会い、生活していけるのか心配だった。
二人はうまくやっていけると思った。
「それにしても、沙希も紫雨に通っているんだって?」
「ええ、そうよ。もしかしたら今度のクラスでいっしょになるかもしれないわね。もし、そうなったらよろしくね」
「ああ、こちらこそ、よろしく。ところで沙希の誕生日はいつなんだ?」
「私の誕生日は12月10日よ」
「へえ……俺も12月なんだよ。12月5日だ」
「そうなの。ふふっ、なら、兄さんって呼んだ方がいい?」
「それは好きに任せるさ」
「裕馬君も沙希も12月が誕生日なのね。それじゃあ、二人いっしょに今度の誕生日は祝ってあげるわね」
「はっはっは! 今から待ち遠しいな」
哲磨と瑠美子も笑顔を見せた。
裕馬は新しい幸せを手に入れた二人を心から祝福した。