砂漠
「お疲れ様です」
事務局は今日もコールが鳴りっぱなしだ。
「あ、マシロ!」
「先輩、おはようございます」
私は猫耳のついた青白い頭を、忙しそうに走り回っている先輩に向けて下げる。
「おはよう。出勤して早速で悪いんだけど、フォローの依頼がてんてこ舞いでさ。キャストがたりてないんだ。ちょっと行ってきてもらっていい? ごめんね」
先輩はウサギの耳を片方だけ折り曲げて、両手を合わせる。
「わかりました。大丈夫ですよ」
「ありがとう! 助かる! じゃあ座標送るね」
「了解です」
私は来た道を戻り、エレベーターで屋上に上がる。気持ちのいい青空のもとで、ドローンが待機している。
「よろしくね」
独り言のように呟き、ドローンの底面についている持ち手をしっかりと握る。
ドローンはランプの色を赤から緑に変え、上昇を始めた。
「あそこかな」
私の目線の先には、砂漠のど真ん中でAI兵に囲まれている三人組のプレイヤーがいた。私はドローンから飛び降り、受け身で着地する。それと同時に拡散型スタングレネードを頭上に放り投げる。AI兵たちの動きは、放電と共に止まる。
「フォローアップキャストのマシロです。現状を伺ってもよろしいでしょうか」
「ああ、助かった……」
中学生くらいだろうか。同世代の女の子三人組のようだ。
一人はほっとしたのか地面にへたり込み、もう一人が彼女を支える。私は残りの一人に話を聞くことにした。
「最後に通ったバックアップポイントはどちらでしょうか?」
「西南にある井戸です。休憩したのもそこが最後で、体力も限界で……」
「わかりました。確認しますね」
私は自分のウィンドウを眼下に開き、地図を眺める。
「かなり距離がありますね。大体何時間くらい前ですか?」
「三時間くらいだと思います……」
三時間だと相当のアイテムを収集したことだろう。おそらくバックパックを何度も確認しては、厳選したに違いない。
「プレイヤープロフィールを確認してもよろしいですか? このパーティーのリーダーはどなたでしょう?」
「あ、はい。私です。えっと、相手に表示するのは……」
「アイコンを選択してプロフィール欄から共有を押してください」
「わ、わかりました……」
プロフィールの共有もわからないくらいの初心者なのか。それなら砂漠にくれば、AI兵に囲まれるわけだ。
「拝見しますね」
ポップアップされた彼女たちのプロフィールを見ると、まだゲームを始めてたったの三日だった。確かにこのゲームでは、全てのプレイヤーがマップ全域にアクセスできるけれど、AI兵のランクは一定ではない。ここから自力でセントラルまで帰るのは無理だろう。本人たちのランクが全然足りていない。
「一応、無料でキャストがプレイヤーに干渉できるのは、一時的な安全地帯を作るまでということになっていまして。この先は有料クリスタルが必要になるのですが……」
「そうなんですね。でも私たち無課金なので……それはちょっと厳しいです……」
このまま私が離脱すれば、三人のアバターはすぐに破壊され、アカウントは初期化されるだろう。かといって流石に自分より年下のプレイヤーにいますぐ課金させるような真似はできない。プレイして三日なら他のプレイヤーに極端に有利になることもないだろうし、ゲームを嫌いになられるのもキャストとしては悲しい。仕方ないな、と心の中でため息をつくと私はウィンドウを閉じた。
「今回は特別にサービスでフォローアップをさせていただきます。これからはバックアップをこまめに行ってくださいね」
「ほんとですか!」
「ええ」
「い、いいんですか?」
「他のプレイヤーやキャストには秘密ですよ?」
私は人差し指を手に当て、やれやれとはにかむ。こんなに喜んでくれるなら、それだけアカウントを大切にしたいということ。ゲームを気に入ってくれたのかなと想像する。
「もちろんです! ありがとうございます!」
私は三人に回復用クリスタルを手渡し、小銃をポップアップさせて構える。
「それでは三名様、セントラルまで。私、マシロがゲームプレイをサポートさせていただきます」
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