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カルミアと黒猫の奇跡  作者: このしろ
3/10

諏訪渚沙

「その子の名前とか聞かなかったのか?」

「カルミアとか言ってた」

「名前からして、ハーフか?」

「さあ。その可能性もあるが、どうだろうな。」

「ふーん」

「随分興味なさそうだな。昨日あれだけ盛り上がってたのに」

「貧乳だって言われたらなぁ」


 そう言って、お上品に昼食をとっている諏訪の方を見る一樹。


 諏訪の胸は―――……確かに大きかった。


 机に乗っかるほどではないが、女子高生としては十分な大きさだ。


「お前もしかして胸を見て諏訪を彼女にしたとか……」

「バカ言え、俺がそんなクソ野郎に見えるか?」

「一樹だからなぁ」

「否定しろや」


 無論本気でそう思っているわけじゃない。


 茶髪で無駄な肉は一切付いておらず、身長も俺より数センチ高くイケメンの部類に入る一樹はサッカー部の部長でもある。二年生で部長をやっているあたり、諏訪と似たようなものがあるがそういったところをお互いに認めて付き合っているんだろうなと思わず認めてしまう。


 諏訪に比べ一樹は勉強面で少し難があるが、それ以外は完璧超人なのではないかと思うくらいしっかりしている。


 中学生のころからクラスが一緒だったこともあり、こうやって一緒に飯を食っているが、どこか俺とは住んでいる世界が違うような気がしてしょうがない。


 それどころか、クラスメイトからの「なんで一樹が、雨宮みたいな根暗野郎と一緒にいるんだ。金玉もぎ取るぞ」みたいな視線が痛い。


 が、気にしてもしょうがない。


 それこそ、才色兼備の諏訪と一樹が付き合っているのは当然の帰結に思えるが、俺を構う理由なんて一つも見当たらないし、その理由を聞くのも憚られる。


「諏訪とお前って、頑張り屋というか、似た所あるよな」


 ハンバーグを口に入れながら言うと、一樹は何言ってるんだこいつみたいな感じで首を傾げた。


「そうか? どっちかというと真白と渚沙の方が似た者同士だと思うが」

「は?」


 訳が分からずむせる。


 諏訪と俺が似ているだと?


 どう考えたらそんな結論になるのだろうか。


 俺はあんな狂暴じゃない。


「まあ、そのうち分かるだろ。どっちにしろ渚沙は渡さないが」

「勝手に恋的にするな。俺に限ってあんな鬼軍曹を好きなることはないから安心しろ」

「たしかにそうだな」


 諏訪はいまだに男子から人気がある。それも学年問わず。


 それは周知の事実なのだが、俺に限ってあいつを好きなることはない。


 俺の脛のためにも、俺はあいつから普通の学校生活を守らなければならない。


 普通に過ごし、普通を愛す。


 それが俺の心情であり、守らなければならない掟だ。


 俺が仏のように平和を願っていると、一樹は中身の空になった弁当箱をしまって教室を出て行った。

ふと、諏訪の方を見る。


 決してお嬢様、というわけではないのだが、見てくれだけは良い。


 それは素直に認める。


 内面はクソだが……。


 すると教室の扉が開き、見たことのない女子生徒が二人ほど、彼女に何やら書類を渡しにきた。


 女子二人―――制服のリボンが赤色のあたり、後輩だろうか―――は、申し訳なさそうに諏訪に頭を下げていた。


 諏訪に提出するはずの書類の機嫌を過ぎてしまったとかだろうか。


「……」


 俺は黙って事の成り行きを見守りながら玄米を頬張る。


 頭を下げている二人の―――具体的には脛の―――安否を願いながら見ていると、諏訪は笑いながら「大丈夫大丈夫」みたいな感じで自分もぺこぺこと頭を下げていた。


 誤魔化しとかではなく、本気で気にするなみたいな笑顔で。


 おい、俺の脛を蹴った時の鬼畜さはどこへ行った……。


 後輩が教室を出ていくと、ふと、振り返った諏訪と目が合う。


 瞬間、蛇のように目を細めて睨まれた。


 生命の危機を覚えた俺は目を逸らし、すぐに残りの弁当の中身を胃に放り込んだ。


「次私の事見たら脛燃やすぞ」と目が訴えていたので、冷や汗が止まらなかった。


 おわかりいただけただろうか。


 彼女にツンデレという概念は存在しない。


 諏訪渚沙という女は本気で俺のことが嫌いだった。


 そんな俺も、諏訪―――いや、クラスメイト全員から脛を守るのに必死だった。


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