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FAIRY HEROINES  作者: 神ヶ月雨音
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Chapter 5 : magic glass

 次に赤ずきんが目を覚ました時、最初に視界に映ったのは黒いマントの裾だった。

「誰……?」

 上体を起こしながら問いかけると、その人物は赤ずきんの方を振り返った。深く被ったフードのせいで、顔はわからない。

「目が覚めたのね、赤ずきんちゃん。体力はもう回復したのかしら?」

 その声は、赤ずきんの記憶の中にある一つの声と一致した。

「もしかして……あの時の?」

「ええ。久しぶり」

 赤ずきんは跳ね起き、深々と頭を下げた。

「改めて、あの時はありがとうございました。今考えると、どれだけあなたのリスクになり得る行動だったかが、よくわかります」

「いいのよ。言ったでしょう? 私が卑怯なのが嫌いなだけ」

 そう言って女性はにっこりと笑った。フードの陰から、口元だけが見える。

「……だから、こうして恩を仇で返さなくちゃいけないことが、とても申し訳ないです」

「気にしないで。そういう風にできているんだから。それに……」

「それに?」

「仇で返されるつもりはないわ。恩も仇も売りつける」

 そう言う女性からは、今までとは違う、殺意のような雰囲気が漂った。

「私だって負けるつもりはありません。勝ちます」

「いい目をしてる。恩も仇も関係なく、戦いましょう」

 そう言うと、女性は追っていたマントを脱ぎ、放り投げた。現れたのは、長い銀髪の綺麗な女性。薄い水色のドレスを身に纏っている。

「私はAI program , system ; fairiel{code/005.glass shoes/}、固体名シンデレラ」

「AI program , system ; fairiel{code/013.red cap/}、固体名赤ずきん」

「「program execute : system fairiel」」

 フィールドが形成され、二人は同時に数歩下がった。

「「program execute : weapon cloud」」

 赤ずきんはナイフを、シンデレラは片手剣を取り出す。

「そういえば赤ずきんちゃん。あなた、あの林檎ちゃんを倒したのね」

「林檎……もしかして白雪姫のことですか?」

「ええ。あの子の戦法、とても面倒だったでしょう? よく勝てたわね」

「固有スキルのおかげです」

「そう。簡単に対処できるような戦い方じゃないから、よほど特殊なスキルなのね。私は相性が悪いから、助かったと言えば助かったのかしら」

「その口ぶり、白雪姫のことをよく知っているんですか」

「ええ。よく知っているわ。私たちは互いに不可侵の約束を結んでいるから、私たち以外のAIがいなくなるまで戦うことはしなかったけれど、それでも彼女と私の相性が悪いのはわかっていたから、極力戦いたくは無かったの」

「私たち……? まさか……」

「そうね。戦いたくない相手だったけれど、同じ括り呼ばれた同属である以上、彼女の敵討ちという名目も背負わせてもらうわ。四天王の一人として」

「四天王……!」

 シンデレラは地を蹴り、一気に間合いを詰めた。赤ずきんは繰り出された斬撃を受け止め、鍔迫り合いに持ち込む。

「まさか、あなたも四天王だったなんて」

「私も、あなたがここまで来るなんて想像していなかったわ」

 赤ずきんを押し返し、シンデレラは剣を横に薙いだ。赤ずきんは上に跳躍してそれをかわし、踵で剣を蹴り落とすと、ナイフをシンデレラの左肩に突き立てた。そのままナイフを上に引き上げ、肩を裂く。

 しかし、シンデレラは何事も無いかのように赤ずきんを蹴り飛ばし、引き剥がした。

「program execute : skill<sword slash ; type-buster>」

 横一文字の斬撃スキル。赤ずきんはスライディングで斬撃の下を潜り抜け、地面を蹴った。

「program execute : skill<smash dagger ; type-sonic>」

 一瞬のうちに間合いを詰め、ナイフを突き出す赤ずきん。シンデレラは剣でそれを弾くと、回し蹴りで赤ずきんを横方向へ蹴り飛ばす。体のバネを使い、赤ずきんは地を蹴って再びシンデレラに飛び掛る。

「program execute : skill<smash dagger ; type-rush>」

 ナイフによる高速の斬撃を繰り出すが、シンデレラはスキルも使わず一つ一つ剣で捌いていく。最終打を弾き、赤ずきんの体勢が崩れたところで、シンデレラは切っ先を赤ずきんに向けた。

「program execute : skill<sword slash ; type-pierce>」

 シンデレラは剣を前に突き出し、強力な突きを放った。スキルによる威力強化を纏った切っ先が赤ずきんの右肩を貫いた。その衝撃で赤ずきんは後方へ吹き飛び、地に倒れた。

「まさか、こんなものじゃないでしょう?」

「当たり前ですよ」

 赤ずきんはシンデレラ目掛けてナイフを投げつけた。シンデレラは易々とそれを剣で弾いた。その一瞬の隙に、赤ずきんが懐に潜り込んで来る。

「program execute : weapon cloud」

 赤ずきんは篭手を装着し、シンデレラの鳩尾に狙いを定めた。

「program execute : skill<impact fist ; type-explosion>」

 赤ずきんの左拳がシンデレラの鳩尾に直撃した瞬間大爆発が起き、二人は後方へ吹き飛ばされた。休む間もなく赤ずきんは再びシンデレラに向かっていく。

「program execute weapon cloud」

 次に取り出したのは棍。水平方向になぎ払うが、シンデレラは剣でそれを受け止めた。弾き返され、シンデレラの斬撃が襲い掛かる。赤ずきんもすぐそれに対応し、受け止めた。剣をすくい上げ、突きを繰り出す。棍の先端がシンデレラの胸部に直撃する。赤ずきんはそのまま跳躍し、棍を軸に体を空中で旋回させ、シンデレラの顔面を蹴り飛ばした。着地し、後方に飛ばされたシンデレラ目掛けて棍を投げる。

「program execute : skill<penetrate spear ; type-thunder>」

 シンデレラはそれを剣で受け止めたが、ほとばしる電流がシンデレラの体中を駆け巡った。シンデレラは地に膝をつけ、うなだれた。

「program execute : weapon cloud」

 赤ずきんは再びナイフを取り出し、シンデレラに斬りかかった。しかし、シンデレラは剣で受け止める。口元に浮かんだ笑みから、誘い込むための演技だったことが伺える。

「program execute : skill<sword slash ; type-rush>」

 そのまま連撃スキルを放ち、赤ずきんにダメージを与える。防御が追いつかずもろにくらってしまった赤ずきんに続いて突きを繰り出す。

「program execute : skill<sword slash ; type-pierce>」

 赤ずきんの左肩を貫いた突きが、そのまま赤ずきんを吹き飛ばす。片膝をついてシンデレラを睨む赤ずきん。その双眸を、シンデレラも見据える。

「これくらいダメージ受けてれば、意識も保てるかな……」

 そう呟きながら、ふらふらと立ち上がる赤ずきん。その様子を、シンデレラはじっと見つめていた。

「program execute : skill<overload ; type-wolf>」

 赤ずきんの右目が赤く染まり、雄たけびとともに脱げたフードの下から狼の耳が露になる。

「……ふぅ。なんとか、保てた」

「それがあなたの固有スキルなのね。いいわ、思いっきりかかって来なさい」

 シンデレラがそう言うのとほぼ同時に、赤ずきんはシンデレラに飛び掛った。振り下ろされたナイフをかわすシンデレラ。一瞬前まで自分がいた場所にできた黒いバグの孔を見て、赤ずきんの固有スキルの概要を把握する。

「プログラムを飲み込むバグ……いや、きっとそれだけじゃないはず」

 シンデレラはバックステップで距離をとった。しかし、とった先から赤ずきんはものすごいスピードで距離を詰めてくる。

(林檎ちゃんより速い。ってことは理論値超え……チート、いや、これもバグか)

 飛び掛ってきた赤ずきんの攻撃をもう一度避け、横腹に蹴りを入れる。赤ずきんは吹き飛んだが、すぐに体勢を立て直し、即座に飛び掛ってくる。

「program execute : skill<smash dagger ; type-wolf>」

 ナイフが振り下ろされる。固有スキルの名を冠したtypeである以上、このスキルにもバグの力が及んでいる可能性が高い。そう感じたシンデレラは剣で防ぐのではなく、自分の左腕でナイフを受け止めた。バグが腕を侵食し、消え始めていく。

「肉を切らせて骨を絶つ!」

 シンデレラは赤ずきんの顎を下から蹴り上げて体勢を崩すと、剣を大きく振り上げた。

「program execute : skill<sword slash ; type-explosion>」

 切っ先が赤ずきんの体を裂くと同時に爆発が起こる。シンデレラはその場に踏ん張り耐えたが、宙に浮いていたシンデレラは後方に吹き飛ばされた。

 赤ずきんがまだ立ち上がってこないのを確認すると、シンデレラは自ら左腕を切り落とした。バグが体に伝ってこないようにするためだ。

「program execute : skill<magical slash ; type-glass>」

 シンデレラは剣を大きく横に薙いだ。巨大な斬撃が赤ずきん目掛けて飛来する。赤ずきんは上体を起こし、ナイフで空間を切りつけた。バグの孔を生成し、スキルを阻害しようとしたのだ。

 しかし、それでも斬撃は何も変わらず襲い掛かってくる。まるでバグをすり抜けるかのように。

「program execute : skill<protect barrier ; type-wolf>」

 固有スキル式の防御スキルを発動する赤ずきん。淡く赤に輝くバリアが現れ、斬撃を食い止める。はずが、斬撃はそこにバリアなどないかのようにすり抜け、赤ずきんの体を斬り裂いた。

「なん……でっ……」

「これが私の固有スキル、magical slash ; type-glass。いかなるプログラムよりも優先される斬撃を放つスキル。バリアのスキルも、防御バフも、バグすらも関係ない」

 シンデレラは剣を下ろしたまま、一歩ずつ赤ずきんに歩み寄っていく。

「その代わり当たらなければ意味が無いから、林檎ちゃんとは相性が悪かったの。でも、その分私はリィちゃんと相性が良い。あなたが林檎ちゃんを倒してくれたおかげで、私は最後の一人に近づくことができた。お礼を言うわ」

 シンデレラは赤ずきんの目の前で立ち止まると、剣を振り上げた。

「program execute : skill<magical slash ; type-glass>」

 シンデレラは剣を一気に振り下ろした。斬撃が赤ずきんの体を一刀両断する。

「program execute : skill<enhance ; type-wolf>」

 その直前、赤ずきんが呟いた。間一髪のところで、赤ずきんが斬撃を避けてシンデレラの背後に回った。

「program execute skill<powered attack ; type-wolf>」

 赤ずきんはシンデレラを背中から蹴り飛ばした。前方に吹き飛んだシンデレラは地に倒れる。

「っ……。そうよね、林檎ちゃんより速く動けるあなたが避けられないはずないわよね」

「ええ。でも、そろそろ私の体力も少ない。シンデレラさんもそうでしょう?」

「あら、バレてた? 自分でも驚くくらい消耗してるの。赤ずきんちゃんほど強い相手は初めてだからかな」

「……次で、終わりにしましょう」

 赤ずきんはナイフを構えた。

「そうね」

 シンデレラも剣を構える。

「やっぱり、優しいじゃないですか」

「そんなことない。気まぐれなだけよ」

 互いに睨み合う。

「program execute : skill<smash dagger ; type-wolf>」

「program execute : skill<magical slash ; type-glass>」

 二人同時に地面を蹴り、斬りかかる。シンデレラは縦一文字に。赤ずきんは横一文字に剣筋を描いた。

 空中ですれ違い、二人同時に着地する。数秒の後、先に膝をついたのはシンデレラだった。右わき腹をバグが侵食している。

「負けちゃったわね」

「……ありがとうございました。また一つ、強くなれたと思います」

「お礼を言うのは私のほうよ。私ね、本当はこんな戦いしたくなかったの。何のためにやらされているのかもわからない、こんな戦い」

「目的は、より強いAIを作ることじゃ……」

「その先よ。より強いAIを作って何になるのか。もし碌なことに使われないのなら、私が最後の一人になって抗ってやろうって考えてた。でも、それももう終わり」

 シンデレラはゆっくりと立ち上がり、赤ずきんに歩み寄った。背を向けたままだった赤ずきんも振り返る。

「ここから先はあなたに任せるわ。赤ずきんちゃん。私の代わりに、最後の一人になって」

 そう言って、シンデレラは赤ずきんに自分の剣を握らせた。

「……はい、必ず。そうしたら、そのときこそ……」

 シンデレラがバグに呑まれて消失する。何も無くなった虚空に、赤ずきんは語りかけた。

「恩を、返せますね」

 赤ずきんの手にはシンデレラの剣が残っていた。ドロップ品の扱いになっているのだろうが、本来同じ種類の武器は一つしか持つことができない。赤ずきんは少し不思議に思ったが、自分と接した故のバグだろうと考え、ナイフと共にウェポンクラウドに仕舞った。

「さぁ、あと二人」


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