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FAIRY HEROINES  作者: 神ヶ月雨音
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Chapter 1 : tutorial

どうも皆さん、お久しぶりです。神ヶ月雨音です。

このたび受験が終わり、ついに執筆活動を再開することができるようになりました。

ということで、今連載中の『インスタントレインボー』よりも先にこの『FAIRY HEROINES』の連載を開始し、毎日投稿で先に完結作品を作ってモチベをあげようという魂胆です。

約一週間で終わりますので、『インスタントレインボー』の再開までこちらをお楽しみください。

それでは、AI達の戦いが始まります。

 目を覚ませばそこは、見知らぬ場所だった――

 そんなありきたりな文章(テキスト)を脳内に展開しながら、赤いフードを被った少女は辺りを見渡した。

「本当にどこだろう……」

 視界に映るのは、廃墟と呼ぶのがふさわしい倒壊した建物群。少女の記憶のデータベースに一致する風景はないどころか、そのデータベース自体に記憶が保存されていなかった。いわゆる記憶喪失。もしくは産まれて間もない状態。少女がどちらに当てはまるのかは、少女自身もまだわからない。

 突然、唸り声が上がった。

「なに?!」

 少女が振り向くと、そこには四足歩行の見るからに肉食な化け物――例えるならば巨大な蜥蜴のような――が少女を睨んでいた。少女は理解が追いつかず、ただ化け物を凝視することしかできなかった。

 わざとなのか、お決まりのように一歩ずつ化け物が歩み寄ってくる。少女も、それに合わせて一歩ずつ後ずさる。足元の段差に気づかず、少女は派手に転んだ。その隙を逃さぬように化け物が少女目掛けて跳躍する。

 次の瞬間、何者かが少女の前に現れ、化け物を剣で切り裂いた。

「え……?」

「あなた、何をしているの?」

「何をって……」

「チュートリアルでしょう? ちゃんと闘わないと」

「チュートリアル? どういうこと?」

 現れたのは黒いマントを羽織った女性。フードを深く被っており、顔はよく見えない。

「あなた、チュートリアルの指示は? されていないの?」

「何のことかわかりませんが、何も……」

「自分が誰で何故ここにいるのかは?」

「わかりません、名前だけは覚えていますが……」

「何かのバグかしら……。仕方ないわ、私がシステムの代わりにチュートリアルの指示をしてあげる。あなた、名前は?」

「私の名前は……」

 何も覚えていない少女が、唯一頭の中に残っていた文字列。何故か少女は、其れが自分の名前だと確信していた。

「AI program , system ; fairiel{code/013.red cap/}。固体名、赤ずきん」

「OK、赤ずきんちゃんね。私の言うとおりに動いてちょうだい」

 女性が剣を持って赤ずきんの隣に立つ。化け物は先の女性の斬撃でダメージを負ったのか、地面に倒れたまま動かない。死んではいないようだが。

「じゃあ赤ずきんちゃん、私の言うとおりに復唱して」

「は、はい」

「program execute : weapon cloud」

「program execute : weapon cloud」

 教えられたとおりに口にした途端、赤ずきんの前にゲームのメニュー画面のようなものが表示された。ナイフのアイコンがふわふわと漂っている。

「これがウェポンクラウド。持っている武器の一覧を出すコマンドよ。赤ずきんちゃんに配給されたのはそのナイフみたいね。アイコンをタッチすればその武器をクラウドから取り出すことができる」

「こ、こうですか?」

 言われるがままナイフのアイコンをタッチすると、表示されていた画面が閉じると共に赤ずきんの手中にナイフが現れた。

「そうよ。後はまあ、ご察しのとおりあのモンスターを倒すの。チュートリアルだから倒せるようになっているわ」

「わ、わかりました!」

 赤ずきんはナイフをぐっと握ると、化け物――モンスターをじっと見つめた。それを見計らったかのようにモンスターが体を起こし、赤ずきんを睨みつける。この典型的な動きはチュートリアルだからだと、赤ずきんはようやく理解した。

「来るわ。構えて」

 女性がそう言うと同時に、モンスターが赤ずきん目掛けてとびかかってきた。赤ずきんは体を横に逸らしてそれを回避しながら、モンスターの背面をナイフで斬りつけた。

「そう、それでいいわ。よかったわね、基礎能力までバグが起きていなくて」

「よ、よくわかりませんが、これを続けていればいいんですか?」

「そうね、それじゃあ時間がかかりすぎるわ。次の一手で決めましょう」

 女性はそう言うと、剣を構えてなにやら呟いた。

「program execute : skill<sword slash ; type-buster>」

唱え終わると、女性の体の前に「sword slash ; type-buster」の文字が浮かび上がり、そして0と1の文字列になって女性の持つ剣の刀身に吸い込まれていった。刀身が淡く緑色に輝く。

「はぁっ!」

 女性が剣を振り下ろすと、その太刀筋が空間に形を成し、モンスター目掛けて飛来した。斬撃がモンスターを切り裂くと同時に、刀身の輝きが消える。

「これがスキル。技ね。自分の持っているスキルしか使うことができないから注意して」

「だ、だったら私まだ持って……」

「大丈夫、チュートリアルでちゃんと配給されているわ。アイテムクラウドを確認してみて。開き方はウェポンクラウドと同じよ」

「わ、わかりました。ええと、program execute : item cloud」

 唱えると、先ほどとは違う画面が表示された。本来所持しているアイテムの名前が羅列しているであろうそのテキストボックスの中には、一つだけ英語の文字列が入っている。

「それがあなたの持っているスキルね。使う方法はさっきまで同じ要領よ。skillを指定したあとにスキル名を唱えれば発動するわ」

 赤ずきんは右上に表示されている×マークをタッチして表示を消すと、もう一度ナイフを握りなおした。

「program execute : skill<smash dagger ; type-sonic>」

 赤ずきんの前にsmash dagger ; type-sonicの文字が表示され、0と1になってナイフの刀身に吸い込まれていく。

 赤ずきんは思いっきり地面を蹴り、モンスター目掛けて飛び込んだ。type-sonicの名のとおり、このスキルは一気に間合いを詰めて敵にナイフを突き刺すスキルである。

「やあっ!」

 モンスターの目前に迫り、掛け声と共にモンスターの体にナイフを突き刺す。血は吹き出なかったが、代わりにモンスターがうなり声を上げて倒れ、その場で消滅した。



「おめでとう、チュートリアルクリアよ」

「お、終わった……」

 女性が拍手をしながら歩み寄ってくる。赤ずきんは女性に深々と頭を下げた。

「さて、チュートリアルは終わったけれど、赤ずきんちゃんは何もわかっていないのよね? ここが何処で何を目的としてあなたがここにいるのか」

「……はい」

「本当は基礎知識が最初からインプットされているはずなんだけど、やっぱりバグみたいね。ルール違反かもしれないけど、私が色々と教えてあげるわ」

「あ、ありがとうございます」

 女性の説明を要約するとこうだ。

・この世界は「フェアリエル」と呼ばれる空間で、先ほどのようなモンスターと何人ものAIが存在している。

・AIたちの目的は、ここに存在する他のAIたちに勝利し、より強いAIとなること。最後の一人が決まったときに、このプログラムは終了する。

・フェアリエル内での特殊な行動については「program execute」というコマンドを唱えたあとに対応するコマンドを唱えることで実行ができる。コマンドは以下のとおり。

  skill…使用するスキルを後に唱えることでそのスキルを使用する。

  weapon cloud…所持武器一覧の表示、取出し。

  item cloud…所持アイテム一覧の表示、使用。

  system fairiel…AI同士の戦闘の開始。

・モンスターとの戦闘で武器やスキルが得られる。また、他者がスキルを使用しているところを見た場合も同じく取得できる。

・一部スキルには特定の武器でしか発動できないものもある。また、取得者本人しか使えない特殊な固有スキルもある。

・モンスターとの戦闘は常時行われるが、AI同士の戦闘は「system fairiel」という特殊なコマンドを行使しないと不可能である。また、両者合意の上で両方がコマンドを使用しないと始まらない。

・戦闘で敗北した際、相手がモンスターAI問わずその瞬間に消滅する。

 すべての説明を聞き終えた赤ずきんは一つ疑問に思い、女性に尋ねる。

「あの、あなたも私と同じAIなんですよね?」

「ええ、そうよ。事情があって名前までは明かせないけど」

「じゃあ、どうして私と戦わなかったんですか? 何もわかっていない私なら、「system fairiel」のコマンドを使わせて倒すこともできたのに……」

「確かにそうね。でも、そういうことしたくないの」

「お優しいんですね」

「私が卑怯なのが嫌いなだけよ」

 女性はそう言うと、赤ずきんに背を向けた。

「私はそろそろ行くわ。もしも、また出会うことがあれば、そのときは私の名前を教えてあげる」

「でも、そのときは敵同士、ですよね」

「ええ。それじゃあね。頑張ってね、赤ずきんちゃん」

「はい。ありがとうございました」

 赤ずきんが頭を下げ、再び上げるともう女性の姿はなかった。

「頑張らなくちゃ」

 普通に考えれば意味不明の状況だ。それでも自然と順応しているのは、自分がそのために作られたAIだからだと考えれば、自然とすんなり受け入れられた。

 赤ずきんはナイフをウェポンクラウドに仕舞うと、アテもなく歩き始めた。当面はモンスターを狩って、スキルと武器を揃えなければならない。そして、必ず最後の一人になってみせる。そう、自分に誓った。


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