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ドバスコエングブュラッホ星のフォヨヨ姫が俺を旦那さんにしたがっている

「ゆうと……。父さんな、会社でやらかしちゃって借金……背負っちゃった」


 突然、話があると両親に呼び出され、一体何があるのかと思えばまさかの絶望宣告。

 普段から冗談しか吐かない父さんだが、今回ばかりは着ているスーツが泥まみれで汚れているのを見て、本当のことだと思うしかなかった。


「さいですか……。ちなみに、一体何をしでかしたんだ?」

「……社長の奥さんに手を出して、横領した会社の金をどぶに落としてふごぁ!?」


 まだ他にもありそうだったが、全部を言う前に隣にいた母さんの右ストレートが父さんの顔面にクリティカルヒットした。


「ウガァァァァァァァァァァァァ!」


 倒れた父さんにマウントポジションをとると、そのまま顔面殴打の連打が炸裂する。

 俺はそれを横目に、父さんの鞄から通帳を取り出して今返せる金額を確認しようとする。

 だが、通帳を確認する前に鞄の中から気になるものを発見する。


「なぁ、父さん。これ……」

「え? ブフォ!?」


 はぁ、もうそろそろいいだろう。


「母さん、そこまでにしてあげなよ。じゃないと死んじゃうよ」

「ンゴオオオオオオ……オオ……ォ……」


 そういうと、怒りに我を忘れた凶暴なゴリラから、いつも優しい我が家のお母さんに戻っていく。

 この光景も、もう見慣れたもんだ。父さんが悪いことをする度に、決まってこういうことが起きる。我が家ではこれをお説教と呼んでいる。


「ゆうくん……」


 お説教が終わった母さんは、罪悪感からか俺に抱きついてくる。

 いつもならこれですぐ元気になるのだが、今日の母さんからは不安そうな声色が聞き取れた。


「それだ悠斗。今日はお前に頼みたいことがあって呼んだんだ」


 顔がパンパンに腫れた父さんは、生まれたての小鹿のように震えながら俺の手に持っている写真台紙に指を差す。


「そこには、社長の更に上の上司である会長の御友人のお孫さんの写真が入っている。お前には、その御方とお見合いをしてもらいたいぐへぇ!?」

「ンガァァァァァァァァァァァ!」


 またも母さんの拳が父さんの顔面に入った。もう、止めるのもめんどくさいや。

 とりあえず色々考える前に中に写る写真の人物の顔でも拝見するとしよう。


「……」


 ……美しかった。

 艶やかな腰まで伸びる黒髪に、男をダメにする優しい笑顔。

 一言で言うなら黒髪清楚系。過剰に言うなら平成の卑弥呼。

 そんな人とのお見合い。写真を見て、断る理由が一切見つからなかった。


「父さん、俺行くよ」


 声が聞こえてるのか聞こえてないのか、倒れたままの父さんに決意を告げ、俺の脳内は逆玉と美人妻の未来予想図で埋め尽くされていた。



 お見合い当日。

 俺と父さんは、とある山中にある和風高級店の一室で先に席についていた。


「ねぇ父さん。母さんは?」

「あいつは家においてきた。連れてくると、このお見合いが破滅するのが目に見えているからな」

「確かに……。ちなみにどうやって説得したの? 俺のお見合いなら父さんを殺してでも来そうなのに……」

「駄々をこねたゴリラに、睡眠薬とバナナを与えたら大人しく留守番してくれたよ」

「……一応、あなたの奥さんですよね?」

「断じて違う。顔だけ見れば確かに可愛らしいが、あれは四十過ぎた制御不能のバーサーカーだ。俺がマスターであいつが――」


 ドスン、ドスン。

 俺たちが座る向かいの扉の向こうから、足音と言うにはでかすぎる何かの音が聞こえてくる。


「……母さんかな?」

「いやいやまさか……」


 次第に大きな音は扉の前でピタッと止み……。


「すみません、お待たせしましたー」


 扉が開かれ、二人の人物が俺たちの前に姿を現した。

 一人は見た目六十代の白ヒゲが似合うお爺さんだ。きっとあれが、父さんが言っていた会長の御友人さんだろう。

 そして隣にいるもう一人が……かなりやばい。


「ハジメマシテ……ワタシガ、フォヨヨデス……」


 無駄に可愛らしい声でフォヨヨと名乗る人物。いや、人物ってのは誤りだ。

 何故なら、人間という形をしている部位が一つもないからだ。

 タコに似た頭部にイカのような触腕を無数に生やした顔。巨大な鉤爪のある手足に大きな身体。背中には気味が悪いコウモリのような翼を持った姿をしていた。

 人間じゃない。化物がいた。


「初めまして。フォヨヨ嬢。わたくしはこの悠斗の父親である奥田悠一でございます」


 待て、なに普通に会話してんだ。なんで普通に目を見て会話してんだ!

 SAN値チェックの過程はどこいったんだ!


「ほら、お前も挨拶しなさい」

「え、あ、ど、どどど、どうもはじめまして。奥田悠斗と申します。いきなりで申し訳ありませんが、少しお手洗いの方を行かせてもらってもよろしいでしょうか?」

「カマイマセン」

「ありがとうございます」


 俺は礼を言い、父親を無理やり引っ張りここから一時退室する。



「おい、あれはどういうことだ! 人間じゃねえじゃん! グレートオールドワンじゃん!」

「知らねえよ! おれだって美人のお孫さんが来るとしか聞いてねえんだよ!」

「あれのどこが孫なんだよ! 本当に人間の尻から生まれたのか?」

「しっかりしろ! そんなわけ無いだろ!」

「分かってるわ! ただの悠斗ジョークだよ!」


 とりあえずこれからの事を考えよう。

 まず、あの化物と一生を添い遂げたいか……。


「うん、嫌だな」


 じゃあ、このお見合いをどうするか。


「ぜってえ、成功はさせたくない」


 そうと決まれば、どんな化物でも正々堂々正直に言うだけだ。

 たとえ、俺の人生が終わるとしても――。


「なぁ、悠斗……」

「あ?」

「……このお見合い、絶対に成功させような」

「……正気か?」

「あぁ、おれは至って正気だ。このお見合いが決まれば借金返済どころか逆玉じゃないか。頼むよ、父さんを楽にさせてくれ」

「今楽にしてやろうか? 俺はぜってえあれとは添い遂げたくはねえ」

「頼むよー。写真とは少し違ったかもしれないけどさ、よく見れば可愛いじゃねえか」

「正気じゃねえだろあんた!」


 少し違うってレベルじゃねえんだよ。

 あれが巷で噂の化粧ってか? 確か、メイクで女は化けるって聞いたことあるぞ俺!

 まぁ、写真はもうこの際どうでもいい。父さんが自分の借金のことしか考えてないのなら、俺も、自分のことだけを考えて……行動するだけだ。


「よし、戻るか……」

「お、やっと身を固めてくれる気に――」

「ならねえよ。俺はこのお見合いを綺麗に終わらせる。化物が相手だろうとな……」

「あのお方なら大丈夫だって、母さんに比べれば全然怖くないからさ。な?」


 あんたは、一体母さんがどんなふうに見えているんだ……。



 あの一室に戻ると御友人さんと父さんが、あとは若い者同士だけでと言って俺とフォヨヨの二人っきりにしやがった。

 最悪だ。いや、災厄だ。

 しかしここでビビっていたら何も出来ない。とりあえず、軽いジャブから。


「……あの、フォヨヨさんはどこの出身なのでしょうか? 失礼ですが、見たところ日本の方ではなさそうなので」

「ソウデスネ。ワタシハ、ニホンジンデハ、アリマセン。ワタシハ、ドバスコエングブュラッホ、ノ、ウマレ、デス」

「……すいません。あの、もう一度言ってもらっても?」

「ドバスコエングブュラッホ、デス」

「……タバスコエホンゴッコ?」

「イエ、ドバスコエングブュラッホ、デス」


 いや、聞いたことないんだけど。

 え、それって国なの? 


「え、それって国なの?」

「……」


 ……やっべ、声に出しちまってた。

 どうやって言い訳しようかなぁ。


「……ヤハリ、アナタニハ、ワカッテ、シマウンデスネ」


 そう言うと、フォヨヨは下を俯き酷く落ち込んだ様子を見せる。


「……どういう意味ですか?」

「ドバスコエングブュラッホ、ハ、クニ、デハ、アリマセン。トオイトオイ、ツキノムコウニアル、ホシ、デス」

「星、だと?」

「ハイ、ワタシハ、トダエテシマウ、ドバスコジンヲ、イデンシヲ、ノコスタメ、チキュウニ、キマシタ」


 ここから先の話はなんともまぁ複雑怪奇だった。

 要約するとドバスコエングブュラッホ星は今メスしかいないという状況らしい。オスがいなければ、ドバスコ人は絶滅してしまう。

 そんな危機に、ドバスコエングブュラッホ星の王女であるドバスコエングブュラッホ=フォヨヨは、知的生命体の数が星一番の地球に、自らオスを持ち帰るためにやって来たと言う。


 うん、わけがわからないと思うが一旦落ち着いて欲しい。

 でもね、多分これ本当だと思うの。何故だか俺には分かっちゃうの。

 触腕が、向かい側から俺の下半身にまとわりついてきてるんだこれ。

 完全に、俺を攫う気満々なんだよこの化物。


「ダイジョウブ、ワルイヨウニハ、シナイ。ボッ(テレテレ)」

「ちょ、ちょっと待って!  待て! なに照れてっ!?」


 そう言うと、触腕が思いっきり下半身を引っ張り出し、俺の体を宙吊りにする。


「ワタシ、アナタヲ、ヒトメミタトキ、キメマシタ。アナタヲ、ツレテカエル。ソシテ、ワタシノ、ダンナサンニ、スル!」


 そう言うと、フォヨヨは立ち上がり無駄に照れた顔で俺を引きずりながらこの一室を出て行く。

 扉を開けた先に、御友人さんと父さんが仲良く談笑しあっていた。


「ゴユウジン、ハナシハオワッタ。コノカタヲ、ホシヘツレテカエル」


 フォヨヨの決意を聞くと、御友人さんの楽しげな雰囲気からガラッと生真面目な執事ふうに変わった。


「承知しました。外に宇宙船をご用意しております」

「タスカル」


 俺が助からねえ。


「と、父さん助けてくれ! このままだと俺よく分かんねえ星に連れて行かれるんだ!」

「ははっ、何を言っているんだ。ドバスコエングブュラッホっていう国に行くんだろ? 確かに遠いかもしれないが、俺たち家族の絆は遠くに行ってもその強さは変わらねえ。だからよ、行って来い」

「このクソ野郎が!」


 俺はこの恨みを忘れねえからな!

 と、怨念を内に溜めながらもついに玄関口まで引きずられて来てしまった。

 ここから外に見えるのは、美しい山の風景とそれを台無しにする近未来感満載のでけえ宇宙船が立っていた。

 俺はこれから、これで旅立つのか……。ぜってえ嫌だけどな!


「フォヨヨさん、やっぱり無理やり人間を連れて行くのって良くないと思うんですよね」

「フフ、ワタシノコトハ、キガルニ、フォヨヨ、ト、ヨンデクダサイ。ダンナサマ(デレ)」

「さっきから気持ちわりいんだよ化物が! さっさと俺を離せって!」

「フフフッ、テレヤサンネ。デモ、ソンナトコロガ、ワタシ、スキヨ」

「会話にならねえ!」


 ダメだ。こいつとんでもねえポジティブモンスターだ。

 いやぁ、いるんだよなぁ。悪口と気付かず全部前向きに捉えちゃうやつって。


「カエッタラ、イッパイ、キモチイコト、シヨ(テレテレ)」


 ……気持ちいこと。いっぱい?

 それって、どの気持ちいこと?

 このタイミングだと、エッチなほうに聞こえてしまうんだけど?

 え、エッチ?

 この化け物と?

 ……。


「ぎ、ぎゃああああああああああああ! 誰か助けてくれえええええええええええええええええ! 犯されるうううううううううううううううううう!」


 山の中で、俺の声はただ木霊するだけ。

 あまりの恐怖に俺の精神は耐えることを、やめた。

 ただ純粋に、恐怖に怯えた。


「オカスナンテ、トンデモナイ。ワタシタチハ、コレカラ、アイスルモノ、ナノダカラ」


 そして玄関口を出て、化物フォヨヨは待機してある宇宙船に足を進めた。

 が、その時だった。


 ドカーン!


 宇宙船が、目の前で爆発したのだ。

 爆風で吹っ飛ばされそうになるも、フォヨヨは俺を絶対に離しはしなかった。


「……ダレダ」


 フォヨヨは真っ直ぐ宇宙船の方を見ている。俺もそれに釣られ、前を見てみる。

 そこには、燃える宇宙船の中に一人の人影がこちらに向かって歩いていた。

 距離は近づき次第に姿があらわになってく。

 ……俺のよく知る姿がそこにはあった。


「か、母さん!?」

「ゆうくん……」


 母さんも俺を見つけると、駆け足で俺の方へ寄ってくる。

 だが、フォヨヨがそれを邪魔する。

 母さんの前に立ち、薄暗い目つきで睨みつける。


「ナニモノ……」

「その子の、お母さんよ」

「……ハハウエ、デアッタカ。シカシ、ウチュウセン、ヲ、コワシタ、ナゼ」

「何故って、単純に邪魔だったからよ」

「……サスガニ、ハハウエデアッテモ、ウチュウセンコワス、ユルサレナイ」

「その母上っての、やめてくれない? 息子を私の許可なく連れ去ろうって人に呼ばれたくないわ」

「……」

「……」


 お互いが睨み合う。俺には視線の間で火花が散っているように見える。

 まさか、母さんがこんなにも頼もしいなんて。いつも父親を殴ってた人とは思えないかっこよさがそこにはあった。


「……イキマス」


 先に仕掛けたのはフォヨヨだ。残りの触腕全て使って脅威のスピードで母さんを捉えようとする。


「遅いわ」


 しかし、無数の触腕が母さんに迫るも、全て避けられてしまう。


「あなたと戯れてるほど暇じゃないの」


 全て避けながら、確実にフォヨヨに迫る母さん。

 そして、ついにフォヨヨの目の前まで母さんが近づいた。

 もう、この間合いは母さんのものだ。


「グ、ググ、ドウシテ––」

「じゃあね」


 言葉と共に、母さんの右ストレートがフォヨヨの顔面にめり込むようにはいった。

 宇宙船を壊したパンチだ。フォヨヨには重かったのか遠くの方に飛ばされてしまった。

 その際、フォヨヨは俺から触腕を離してしまい、俺も一緒に遠くへ飛ばされる。

 だが、空中に上がった俺の体を母さんは優しくキャッチしてくれた。


「母さん、どうしてここに……」

「ふふふ、それはね……。ゆうくんが、助けてーって言ったからだよ」

「なっ!?」


 俺のあの情けない声が聞こえていたと……。恥ずか死ぬんだが……。

 ……ということは、あの時すでに母さんはこの山の中にいたのか。一体何故。

 ……いや、考えるのはやめよう。今は救われたことに感謝をしないと。


「じゃあ、帰ろっか」

「あ、う、うん」


 母さんから差し出された手を、迷うことなく握る。

 俺たち二人で、この山の中を……。え、山の中を?

 ……。


「私、久しぶりにゆうくんと手を繋いで帰ってる……。えへへ〜」


 ……まぁ、いっか。こういうのもたまには悪くないな。

 さて、誰か忘れてるような気がするが、きっと忘れるほど大したものでもないだろう。

 母さんと今日あったことを話しながら帰って親睦でも深めましょうかね。



 後日談というかなんというか。


「ゆうく〜ん、朝ごはんよ〜」


 未だに眠気が拭えないまま、朝食がある我が家のダイニングへ足を運ぶ。

 今日は休日なのでまだ寝ていたいが、母さんが早起き早ご飯の人なので仕方ない。

 我が家のカーストランク一位は母さんなのだから。


「おはよう母さ――」

「ふふふっ、フォヨヨちゃん上手ね。これならきっとゆうくんも喜んでくれるわ」

「……ソレハ、ウレシイデス(テ、テレ)」


 眠気が一気に冷めました。

 え〜、なんでいるの〜。


「あ、おはようゆうくん。ねぇ、見て見て! これ、フォヨヨちゃんが作ったんだよー!」


 母さんが指差す方に視線を向けてみると、テーブルの上に目玉焼きとベーコンと程よく焼けた食パンがあった。

 いつもと変わらない朝食だが?


「これね、全部フォヨヨちゃんが作ってくれたんだよ」

「……え?」

「……(テレテレ)」


 ……あ、これ絶対本当のことだ。母さんは嘘はつかないからな。

 一体その触腕でどうやってこんな綺麗な朝食を作れたんだ……。


「さぁ、いただきましょう。ゆうくんも席について」


 俺は促されるまま、先に座っていた父さんの隣に……え、父さん?


「悠斗、おはよう」

「……どちら様でしょうか?」

「お父さんだよ。分かれよ、親子だろ!」


 いや、俺の父さんは顔を包帯でグルグル巻きにするような性癖は持ちあわせていなかったはずなのですが……。


「あいつにまたやられたんだよ。はぁ、借金はチャラにしてもらったからいいけど、おれを置いて帰った挙句この仕打ちはひでぇよ……」

「いや、自業自得だと思うぞ」


 そんなことより、俺は何故家にフォヨヨがいるのか気になって仕方ないんだが?


「フォヨヨちゃんはね、今日から暫くうちの家族として過ごしてもらうの」


 何てことのない様子で、母さんはポンっと爆弾発言を投下する。


「「えぇぇぇぇぇ!?」」


 俺と父さんが初めて意気投合した瞬間だった。


「な、なぜだ悠子! 借金を返済した今、こんなばけも――」

「どりゃあ!」


 父さんが言い終わる前に、母さんの右ストレートが炸裂した。

 この前、フォヨヨにやったのと同じ威力だ。父さんは吹き飛び、壁に埋まる形となった。


「ゆうくんはなんかある〜?」


 笑顔だ。とびっきりの笑顔が俺に向いている。


「そ、その〜、何て言いますか? な、なぜにフォヨヨさんがウチにいらっしゃるのかなーって……思ったり?」

「それはね、私がこの前フォヨヨちゃんの宇宙船を壊してしまったばっかりに、フォヨヨちゃんは今帰る場所がないのです」

「な、なるほどー……」


 やべえ、こちらに非があるため何も反論出来ないや。


「ユウトサン、アノトキハ、スミマセン。ワタシ、ジブンノコトバカリ、カンガエテイマシタ……」

「あ、あぁ……」


 なんだなんだ。これから謝罪タイムか?

 まぁ、俺も鬼じゃねえし反省してくれてるんなら怒ったりはしねえが……。


「デスノデ、キョウカラハ、ユウトサンノ、いえ、あなたの妻として精一杯ご奉仕させていただきます!」


 そう言うと、フォヨヨの体が急激に光り出し始める。

 光は一瞬で、徐々に眩しさが収まっていくと、そこには……一人の人間が正座していた。

 俺はその姿を、見たことがあった。


「そ、その姿は……お見合い写真の姿じゃないか!」


 そう、あの平成の卑弥呼と勝手に俺が呼んだあの美しい外見。APPは低めに見ても、ざっと十七はある。


「……この姿なら、あなたはワタシを化物と呼ばないでしょ?」

「ほんっとすんませんでしたあああああああああああああああああ!」


 目に涙を浮かばせながら上目遣いでみる美少女フォヨヨに、俺は反射的に土下座を繰り出していた。


「か、顔をあげてください! もうワタシは別に気にしていませんから! 気持ち悪いって言われたことも気にしていませんから!」

「気にしてんじゃねえか! ハッ!?」


 俺は再び土下座をした。

 自分のツッコミ癖が、今は酷く憎い。


「まぁまぁ、フォヨヨちゃん。その辺にしてあげて。ゆうくんもこれだけ反省してるみたいだし」

「そうですね。それに、早く食べないと私の作った朝食が冷めてしまいます」

「ほら、ゆうくん。席について一緒に食べよ」

「あ、あぁ……」


 俺は彼女たちに促され、席に戻る。


「さぁ、食べてみてください。ア・ナ・タ?」

「……いただきます」


 まずはトーストに手をつける。うん、おいしい。

 次に目玉焼きとベーコンに手をつける。うん、おいしい。

 次に牛乳を飲む。うん、おいしい。

 新鮮味が全くないが、まぁおいしいって感じだ。もしかして、俺って薄情?


「……ど、どう?」

「あー、うん。おいしいよ」

「や、やった!」


 たった俺の一言で、眩しいぐらいにフォヨヨに笑顔が浮かんでいた。

 美少女の笑顔になれていない俺には、母さんのパンチより心臓が痛いやい。


「悠斗さん。今日からこのワタシ、ドバスコエングブュラッホ=フォヨヨをどうか宜しくお願いします」

「お、おう。よろしく……な?」


 あの笑顔で言われ、またも心が揺れたが、俺としてはあっちの姿を知っているからどうにも受け入れがたいんだよな。

 素直でいい子なんだと思うんだけどさ……。まぁ、そこらへんは俺が徐々に慣れていくしかないのかね……。

 やれやれだよ。


「ところで、子供は何人欲しいですか?」


 ……2人かな?


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