第7話 代償
この能力は、研究すればするほど、幅が広がるのだろう。現に無属性で固有能力に近い紋様の作成もできる。今後は、それらの紋様を組み合わせる事によって、オリジナルの紋章を作成したい。
まだ、理解が足りないので、できないがいずれ、できるような気がしてきた。
――供物を持て
頭の中に声が響き渡る。声の正体は朧げではっきりはしなかったが、ゼノの残留思念だろうか。
なんだ?
そのメッセージの後に、急に頭が割れるような、頭痛に襲われる。
「がああああぁぁぁあぁぁああああああぁぁぁぁぁぁ!」
俺は、頭を押さえて転げまわった。
「おい!大丈夫か?」
リゼは、今まで見た事も無いほどの焦り顔をしていた。
「ぐ、ぐあぁぁ。ま、魔石を……。魔石をくれ」
「待て!今取ってくる」
そんな簡単なものでは無い。かなり高価だ。家や奴隷を買えるものもある。この供物がどの程度なのかは不明だが、それなりの量が必要だろう。魔石は、マナの塊、高位の魔物や稀にただの魔物からもとる事ができる。マナの塊であり、自然に作られる事もあるが、魔導具の燃料となる事から、かなり重宝されている。
供物か……。能力を振るうには、それなりの代償が必要なのだろう。
俺は、頭痛にうずくまり、グラングランする視界の中、タダで何かを得ようとした己の考えの浅さを恨んだ。
暫くして、血相を変えたリゼが、戻ってくる。
「おい!大丈夫か!持ってきたぞ!」
リゼの手から、俺はそれを奪い取る。大きさは、こぶし大であり、濃度もかなり濃い。通常考えると、数百万CPはかかるだろう品である。緊急時に、備えとして持っている人は多い。
マナの枯渇は、先ほどの俺の様に、死活問題となる。人の生命機能の一部をマナが担っているのである。
リゼのそれは、おそらく、今まで溜めていたお金の大部分を使って購入したものなのだろう。それをためらうことなく、俺に渡してくれた。通常は、魔石の消費により、サイズが小さくなる。そして、この濃度の魔石では、通常一回で使い切る事はない。
しかし、俺が触った瞬間に、溶けるように俺の体に入っていった。そして、それでもなお、俺は苦痛に悶絶し、暴れまわった。リゼは、そんな俺を必死に止めようとした。
「落ち着け!ロト!足りなかったら新しく買ってくるから、落ち着け!」
それでも、俺はリゼを突き飛ばした。そして、俺は感じたのだ。この女から魔核を奪えばこの苦しさから解放されると。魔核とは、魔術の使える生命体が所有しており、魔核の周りに余剰のマナが付着したときに、魔石となる。
俺は、リゼに殴りかかった。リゼは本来俺に比べ数段強い。しかし、躊躇してしまったのだ。俺は数発、リゼのしかも顔面に拳をいれた。
「かはっ!落ち着け!殴っていいから、落ち着け」
流血しながらもリゼは、俺をなだめた。
「がは……はぁ。はぁ」
俺は、自我を少し取り戻した。リゼの顔を見て、自分がやらかした事への罪悪感から、俺はその場で、崩れ落ちた。