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第2話 至高神ゼノ

「馬鹿な男だ」


 俺は姿見に写る自分に言い聞かせた。普段ならわざとプラスの事しか言わないが、今日はとても惨めに感じた。


 「くそっ!」


 ものに当たらない事が、唯一の取り柄であった俺だが。今日は虫の居所が悪かった。思いっきり拳を握って、鏡を砕き割った。破片でうっすらと拳に血付いたが、痛みは気にならなかった。


 涙がこぼれてきた。神童と称えられて5年、無能のレッテルを貼られた。だったら、最初から神託など受けるのではなかった。神の気まぐれで、俺は惨めな目にあっているのだ。俺は、ゼノが憎かったが、それ以上に、ゼノに頼った俺自身が憎かった。


 涙が枯れ果てるくらい同じ姿勢でいた。痛みも感じ始めたので、拳を鏡からどけると、ヒビが広がり、ガシャリと音を立てて、崩れ落ちた。


 「こ、こんなところに、ドアってあったのか?」


 鏡が崩れ落ちた先の壁には、ノブが一つあった。奧に隠された状態になっているが、自然と目についた。そのドアノブをゆっくりと引いてドアを開く。


 ドアの中には、人一人が通れる程度の階段があった。その階段を下りていく。地下牢の様な石だたみのそれは、湿気がこもっており、気分のいいものでは無かった。


 手に持ったランタンがゆらゆらと、階段を照らす。影が伸びて非常に気味がわるかった。アンデッド系やスライム系の魔物が好む環境であり、いかにもそういった類の魔物が出そうである。


 階段を降りきると、少しだけ広い空間にでた。中央には、何やら祭壇のようなものがある。


 「何なんだよここは?」


 そうしているうちに、いきなり祭壇の魔導灯が輝き部屋全体を照らす。恐怖と同時に神秘的なそれは、人を引き付けるには十分だった。


 『汝人の子よ。供物をもて』


 祭壇の奥、神の声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。


 「お前は誰だ?」


 神嫌いの俺は、神だからとて、敬語は使わない。


 『我は、至高神ゼノ』


 俺は全身が怒りで総毛立つのが分かった。


 「無能の神め!」


 『ははは、是非も無し。汝の言の通りよ。我は能を失った』


 「なっ!」

 『我は、数千年前に力を失った。信仰はかろうじて続いておるようじゃ。何とか声のみは汝にも届く』


 「は?何を言っている!俺はお前の声を5年前に聞いたぞ!」


 俺は熱くなる自分を抑えられない。


 『ほう、授与者であったか。しかし、それは我を偽った他の神に相違ない。我はすでに長き眠りについていた。よくある事よ。神の名を偽ることなど』


 俺は驚愕で全身の力が抜け落ちた。


 「そんな……。俺の5年間は一体何だったんだ……」


 神に(たばか)られていたのだ。


 『偽りの神とて、信仰心を欲する。何らかの力は与えられたのであろう?』


 「いや。まさか。それとも気づいていないのか?」


 『気が付かない事はない。それでは、その神に対しての信仰心は芽生えぬ。汝の様に、怒りだけが生まれる。もう一つ考えうるのは、その怒りこそ彼奴の糧なのやも知れぬ。』


 「そういう事か」


 俺は両膝をついて、天を仰いだ。涙は枯れてもうでない。


 『ただ、汝の心持が、魂の咀嚼(そしゃく)を防いでおる。汝常に自らを鼓舞し、生きてきたことにより、その悪魔の入る余地を与えておらず。すべてを彼奴(きゃつ)に差し出したわけではない』


 「ははは、それはただの強がりだ」


 俺は乾いた笑い声しかでなかった。


 『それでも、汝はここにいる。その強き心持ち、このゼノに分けてはくれぬか?』


 俺は自分の耳を疑った。そして、その言葉さえどこが本物か分からなかった。


 「また嘘か?」


 『否。嘘なら更なる甘言を呈する』


 「だったらもってけ、少しと言わず、全部持っていけ!」


 『言葉に甘えよう。その魂いただく。そして新たな信託者として、この世に示そうではないか。我と汝の力を!』


 この際悪魔に身をやつしてもいいかと諦めた。何が強い心持だ。ははは、残念だったな、神と名乗るものよ……。


 俺は、意識を手放した。

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