思惑
「くそッ逃げられた!」
勉は頭を抱えていた。
「だけど兄貴、奴らは老人と女……足は速くない。そこら辺の店に隠れてるはずだ。それに、俺らには例のトリックがあったじゃないか」
「ウスバカ!」
勉は輝の服を掴み、輝の頭蓋骨を握りヘッドロックをした。
(なぜ俺の演技がわからん!)
「はぁ?」
頭蓋骨を締めながら勉は小声で言った。
(そうだ。確かに奴らはこの付近に隠れてる。なら、俺たちの動きもわかるだろうが! 俺たちがこうして仲間割れみたいな演技をすれば、親父達は絶対騙される! その油断を突くんだよ)
(そ……そうか……)
「だいたいお前が大を監視役にしようなんて言うからだろ!」
勉の拳が輝の頬を直撃した。もちろん実際は拳は寸止めさせた。しかし、勉の意図を理解した輝は派手に倒れる。
「だけど、それは兄貴も決めたことじゃねぇか」
「なんだと!」
輝の裾を掴み、力強く握りしめた。輝はむせて咳をしている。
見ているか? 親父……。俺たちは今や仲間割れしている兄弟だ。攻めるなら今だぞ?
恵梨香と剛は大から逃げると、すぐに追っ手の二人がやってきて仕方なくレストランに隠れた。そして、恵梨香はそっと顔をのぞかせ、二人の動向を伺っていた。その時、二人は言い争いをしていて長男が次男を掴みかかっていたところだった。
(仲間割れですかね? チャンスなんじゃないですか?)
恵梨香は剛に聞いた。
「妙じゃな––––」
「妙?」
「なぜこんなところであんなことをする必要がある?」
「それは、私たちが逃げたからイラついていて」
「ワシは仮にも奴らの親じゃ。奴らの性格はワシが一番知っておる。次男はまあ、出来は悪いのじゃが、長男の勉は頭がいい。ワシは年寄り、君は女性だ。自慢じゃないが二人とも足は速くない。この辺りの建物に隠れる事くらい勉なら想像がつくはずなんじゃ。ワシらがそこにいるのに、あえてああいうことをしている。そう見えるんじゃ」
恵梨香は剛の言い分も納得できたが、本当に仲間割れたとしたら攻めるチャンスは今なのではないだろうか? こちらも武器を所持している。仲間割れを起こし連携が狂っている今こそ……。
「わかるよ。宮沢君。君は今攻めるチャンスだと考えておる。しかし、それはあの二人の罠じゃと思うんじゃ」
「罠?」
「仲間割れをしているように見せこちらが何かアクションをするのを伺っている気がする」
「そんな……考えすぎです」
「今は考えすぎるくらい考えた方が良い。それに、目的地の倉庫まではまだある。その時に捕まったら今度こそ終わりじゃ」
勉と輝は仲間割れの演技を更に濃く見せるため、それぞれ別行動を取った。勉は右の通路を、輝はこのまま前を進んだ。攻める時はここだろうと予測し、勉は壁越しから様子を伺っていたが二人は特に何もしてくる気配はなかった。
さすがにあざとすぎたか……。
演技力は二人にはない。もしかしたら、何か癖や仕草のようなものが現れ親父にバレたのかもしれないと勉は後悔していた。しかし、ターゲットはあの二人の他にもう一人いる。三人全員を捕まえ、親父は自殺に見せかけて殺すしかない。そのシナリオももう出来上がっている。あとは残りの邪魔者二人を抹殺するだけだ。先ほどは親父を殺してその捜査で警察が介入した際、もし万が一縄の跡などが見つかりそこを指摘されたりしたら厄介になると甘い心を持ち縄で縛っておくのはしなかったが、今度はそんなことはしない。布で身体を巻いた後縄をかける。こうすれば跡は残らない。勉は腰に下げているグロックを抜き、弾切れを起こしその隙を突かれターゲットに逆に倒されてしまうのを防ぐため、弾倉を取り弾の数を数える。十七発だ。無駄弾はあまり撃ちたくない。ボディーガードからは拳銃は受け取ったが、予備の弾倉はもらっていなかったからだった。最悪なのは、この三人の誰かがやられて拳銃が敵の手に入ってしまうことだった。そうなれば立場は一瞬のうちに五分と五分になる。それだけは避けなければならなかった。
西本は居酒屋に身を潜め十分以上が経過するも、長男達が探しにくる気配はなかった。逃げるチャンスは今だろうか? しかし、それが罠かもしれない。そんな二つの気持ちが交互に出て西本の決意をぐらつかせる。ウロウロしているところを見つかり射殺される。そんな最期はごめんだった。この脱出計画がうまくいくかはわからない。途中でバレたら終わりだ。それに、捕まった二人を助けださなければならない。西本は二人が既に逃げ出していることを知らなかった。
さすがに全員捕まえるまで殺されることはしないだろう。もし誰かが逃げてこのことを言われるとその人が生き証人だ。一瞬で逮捕されるだろう。まだ時間はあるはずだった。




