孤独
剛が奴らに捕まり、西本と宮沢の二人はラーメン屋から離れ、洋食レストランの施設に身を隠していた。
「会長……捕まっちゃったね……」
「ああ」
「相手は、全員拳銃持ってるね……」
「ああ」
宮沢は現在置かれている状況を指摘していく。
「こっちは丸腰だね」
「ああ」
宮沢は恐怖から目に涙がたまっている。ハンカチを渡し、無言で宮沢の顔を見つめる。この状況は最悪にやばい。
「そういえば、まだ下の名前をきいてなかったな」
気分を変えるために西本は宮沢に話しかける。
「恵梨香……宮沢恵梨香だよ」
「そっか。看護師になって何年なの?」
「え……そんな話ししてていいの?」
「いまはな。連中も恐らく爺さんをふん縛って誰が行くかとか話し合いをしてる頃だ。現に奴らまだこっちに来てない。それに、今だからそんな話しをするべきだと思う」
「私は五年目なんです。二十二で看護師になったから……。西本君はどうして何でも屋をしようと思ったの?」
逆に話題を振られ、西本は一瞬ドキッとする。
「え? 俺? うーん……改めてそう聞かれると、少し困るな……。なんていうか、最初は何でも屋じゃなくても良かったんだ。探偵をしようと思ってたんだ。でも、勉強とか色々めんどくてね。昔からなんか人助けよくやっててさ」
西本は話していると、宮沢はぷっと声に出して笑う。
「うそ……意外」
「おい、心外ですな」
「でも、確かに西本君私のことも、会長のことも助けてたし、そう思うな」
「武……」
「え?」
「武でいいよ」
「私も恵梨香でいいよ」
ようやく恵梨香が元気を取り戻した。その時、二つの光がキラッと輝いた。
「きたか……」
西本は恵梨香を連れて更に奥に身体を縮める。
「ねぇ……」
ボソッと恵梨香は呟いた。
「さっきの話し、なんだったの?」
「話し?」
「会長に言ってたじゃない。戦う以外に道があるかもみたいな」
恵梨香の話を聞き、西本は思い出した。確かにそういうような会話をしていた記憶がある。
「ああ……あの話か。あれは爺さんがいたから説得力があったんだ。今となってはもう……」
恵梨香は「そうなんだ」と肩を落とす。施設のドアを開けていく音がだんだんと大きくなる。彼らが近づいている証拠だった。
(息を殺して)
小声で西本は恵梨香に言う。恵梨香は口を手で覆っている。入ってきたのは長男だった。長男は一人ゆっくりと歩を進め、西本達がいないかを確認する。しかし、長男は少し確認するとドアを閉め、次の施設の捜索をした。長男をやり過ごし、二人はフー……と息を吐いた。もう少しここに潜むか、ここから離れるか、どうするかを悩んでいた。西本は出口を指差した。しかし、恵梨香は首を横に振っている。恐らくこのままここにいるという意味なのだろう。彼女の意向に従い、西本はこのまましゃがんでいることにした。しかし、いつまでもというわけにはいかない。いつかは見つかるだろう。その前に逃げ出して、警察かどこかに連絡しなければならない。だが、問題のエレベーターは奴らに制圧。監視下に置かれている。他にないだろうか? この階を降りる方法が。
あっ––––。
西本の脳に、稲妻が走った。その稲妻はするすると身体を貫通し、心臓に走る。ついにこのホテルからの脱出方法が見えた気がした。
(恵梨香、お前さ、このホテルのこと詳しいか?)
(う……ん、会長から聞かされてたから、ある程度は)
(なら、この階に倉庫はあるか? 食料を保管しておく倉庫だ)
(それなら、奥に––––)
その時だった。洋食レストランのドアが勢いよく開き、長男と次男が現れる。気づかれたか?
「本当か? 話し声が聞こえたって」
「ああ。ヒソヒソ声だけどな。兄貴、奴らは恐らくここにいる」
「よし、気を引き締めていくぞ」
(恵梨香……)
恵梨香の肩をトントンと叩く。
(逃げるぞ)
(でも、道は奴らがいるあそこしかないのよ?)
(ああ。だから、正規のルートとは別の道を通る。さっき俺が通った道……机の上だ)
長男と次男を際まで引きつけ、そして西本が持っている腕時計を投げて注意をそらし、その瞬間に机に登り出入り口へ向かう。後少し……少し……少し……。今だ。
西本は外した腕時計を奥へ投げる。カラカラと腕時計が転がる音が聞こえ、二人はそっちへ向いた。
「行け!」
西本と恵梨香の二人は机の上を登り、出入り口に急いだ。しかし––––。
「待てっ!」
「キャァッ」
次男に手を掴まれた恵梨香はそのまま奥に連れられた。助けに行こうとしたが、長男がその道を固めていて助けに行くことができなかった。そして長男は地を蹴り、西本に向かう。
「くそっ!」
西本はドアを閉め、別の隠れ場所を探した。