表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺産相続   作者: たか
復讐編
15/24

過去

「さて……」

と、充は小さく言った。念のため奴を電気室に待たせておいて正解だった。お陰で剛と勉を捉えることができた。今日の自分は運がいい。神までも味方してくれているような気さえする。一歩、また一歩と呻き声がする方へと近づいてゆく。しかし、充が捕まえた輝と大は震えながら早足で歩く。

「おいおい、そんなに早く歩くなよ。ゆっくりでいいんだ。転んだら危ないだろ?」

「み……充––––」

輝の声は震えていた。喉が枯れ、かすれ声になる。

「おやおや、輝お兄様ともあろうお方が……」

「ククク」と笑いながら充は楽しげに言う。そして、三人は剛と勉を発見した。

「お久しぶりですね、父上……!」

充は丁寧に恭しく剛に接するが、それが返ってドスが効いていて迫力があった。二人の顔を見ていると昔を思い出し、ついショットガンの引き金を引いてしまいそうだった。その気持ちをグッと堪える。殺すのは一瞬だ。しかし、それでは面白くない。こいつらは全員苦しめてから殺す。しかし、この二人を見て過去の出来事がフラッシュバックする。

あれは二十五年前の事だった––––。

当時小学二年生だった充は小学校の頃から優秀だった三人に比べ、充は何もない。平凡な一般市民だった。しかし、実力主義の剛はそれを許さなかった。毎日毎日厳しい体罰を強いられ、時には意味のわからない理不尽な私刑リンチを受けていた。その剛に触発され、兄三人にも同じく虐められた。物理的な暴力、精神的な虐め。数えればキリがない。食事も兄三人とは別だ。三人は温かい豪勢な食事。充は冷え切った味噌汁、シャケの切り身、簡単な漬物、たくあんといったものだった。日に日に虐めが加速し、中でも理不尽なのは、小学生の時の夏休みが始まる前の公開実力テストの結果発表があった日だ。その時は剛も事業に失敗し、イラついていた。そうとは知らず、充は結果発表を見せると腹いせに充を一頻り暴行した後、充の顔面にツバを吐き捨てこう言った。

「お前––––今日からメシ抜きじゃ」

「は?」

「父親に口答えするなっ! お前がクズなのは、ワシらが甘い気持ちを与えていたからだ! テストで一位になるまでメシは与えん!」

意味がわからなかった。それから、充は本当に食事という食事を与えられなかった。剛は言った事は本当に行動に移す男だ。必死で勉強をした。しかし、充だけ他の生徒とは違うテスト問題を出すように剛から言われていた事に気付いたのは卒業する時で、それはまだ知らなかった。食事を抜かれ四日目、とうとう充は我慢ができなくなり、深夜全員が寝たのを見計らい、厨房に赴き食材を探した。炊飯器にご飯が残っており、手に塩をつけて揉んだ後おにぎりを結んだ。そしてキッチンにそうめんの束を見つけ、お湯を沸騰させ作った。

食事が出来上がり、充は満面の笑みを浮かべた。四日ぶりの食事に舌鼓をうちよだれを垂らす。箸を持ち、ネギとミョウガを切って中に入れ、そうめんを啜る。限界まで腹が空いていたというのもあるだろうが、これが充にとっては最高のご馳走のように思えた。

その時だった––––。

ガタッと後ろから音が聞こえ、充は慌ててその方向を見ると、トイレに起きた長男がドアから顔を覗かしていた。終わった……と思った時だ。勉は両手を上下に振り、「そのまま、そのまま」とジェスチャーをする。助かったと思った充は自分はなんて甘い考えをしていたのだろうと思った。その五分後、廊下が騒がしくなり激しい音を立ててドアが開かれる。そこには剛を連れた勉がニヤニヤと含み笑いをしながら立っていた。そうめんに入れていたお湯を身体にぶちまけられ、何回も何回も剛に踏み潰される。全身に火傷を負った。その三日後、火傷が化膿して膿が出て39度の高熱を出した。流石の剛も病院に連れて行き、そこの医者が虐待の可能性を指摘し相談所に通報するが、剛が口止めし事件にはならなかった。その一週間後、充は退院するが剛の暴行は一向に激しくなった。そして、充は剛が別の女と隠し子をもうけ、その子供のところへ強制的に連れていかれそのあとは音信不通だった。養育費も何ももらえなかった新しい母親は加圧に堪え兼ね、保険金をかけて自殺。その後の人生は最悪だった。しかし、その二人が、今は自分に両手を挙げている。この上ない至福だった。

「す……すまない……充……許してくれ……」

と、剛は土下座をする。その態度が充の脳を刺激する。

「そんな気もないくせにやめろ! 衝動的に引き金を引いちまう……」

実際、充の引き金にかけている人差し指はプルプルと震えていた。

「た……確かに俺たちや親父はお前に酷い事をした。時には耐え難い苦痛を覚えさせるような事もしただろう––––。だからお前の気持ちもわからんでもない。だが、俺たちを殺した後はどうする? お前は警察に捕まるだけだ」

勉はゆっくりと充に近づいてゆく。しかし、充は輝がコッソリ勉に拳銃を渡していた事を知っていた。

「兄さん……」

「充……」

さも感動的なシーンを装う。そして充は左手を勉に差し出した。

「拳銃」

「あっ––––ああ」

腰に手を入れ、勉は充に拳銃を渡す。その拳銃を見て充は「ククク」と笑う。

「なるほどな。やっぱ似てるよ。あんたら親子は……! 卑怯でズル賢い大悪党––––。今夜、俺は十六人の人間を殺したけどそれでも多分お前らの半分も悪党になりきれてないだろうな」

「グッ––––」

「どっちにしろお前らは殺すんだ。俺を説得しようとしても無駄だよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ