序章
「ハァッハァッハァッ––––」
西本の息は切れ切れになっており、喉がカラカラに乾燥している。喉を潤さなければうまく話すことができないほどだった。背を低めながら走り、普段慣れないことをしていて背骨が痛かった。前転をしてレストランに入る。
––––コツッコツッコツッ
遠くから足音が反響する。
––––気づかれたっ。
そう思い、西本は壁から少し顔を出しコッソリと確認する。遠くにはペンライトを照らしている光が二つ。ゆらゆらと照らし、西本を追い詰めるのを楽しんでいるようだった。しかし、二人は通り過ごす部屋を確認してはいない。あの早さはとりあえず異常がないか確認しているだけだ。勝負は二周目だ。しかし––––。
「ここか」
長男と三男はなんの躊躇いもなく西本が忍び込んでいるレストランに入った。
「さて、そろそろ決着をつけよう。奴だってバカじゃないだろう。あのトリックにも気づく。気づかれたらあのトリックは御しやすい。そうされると厄介だからな」
「ああ––––」
くっ……。
光がだんだん西本に近づいてゆく。西本は死角に入り、奴らが背中を向けるときを待っている。しかし、二人は互いに互いを守るように歩き、なかなか隙を見せない。しかし、その光はついに西本を捉えた。
「クックック……やはりここだったかネズミ!」
長男は拳銃を構える。拳銃は光に反射して黒光りした。
チャンスは一度……。
西本は長男が構えている拳銃の引き金に注意を最大まで向けた。長男はゆっくりと引き金にかけている人差し指に力を入れてゆく。そして、人差し指に一気に力が入った!
今だ!
西本は瞬間、しゃがんだ。その時に拳銃の引き金が引かれ、その弾丸は窓ガラスに直撃する。
「しまった!」
そのチャンスを逃さず、西本はジャンプして穴が空いたガラスを超え、廊下に飛び出した。そして西本の影は奥に消えて行った。