七話
ネロが手元のボタンのようなものを押すと、ギャン、と何かの鳴き声のようなものが聞こえた。
その瞬間ガサリと音がして目の前の草むらが揺れ、獣型のモンスターが飛び出してくる。
「……もらった」
クリスは落ち着いて剣を抜き、一太刀でモンスターを切り裂いた。
「あー!ずりいクリス!!俺だって倒したかったんだからな!」
ユースが悔しい、と地団太を踏む。
「そう言ってられるのも今の内だからなー、ユース」
ネロが怪しく笑った、と同時に訓練場の上の方から鳥のような鳴き声が響いた。
黒い塊がこちらに急降下してくる。
「うっわ!?」
ユースとクリスが慌ててそれをかわす。
危なく頬をかすめるところだった。
「くっそ、さすがに飛ぶやつは厳しいぞ俺は……」
確かにナックルを武器とするユースには厳しい相手かもしれない。
かといって自分も倒せるわけではないクリスは、さっそく途方に暮れてしまった。
どうすればいい、動きをちゃんと見れば、でも、あのスピードのモンスターを斬れるか……?
クリスが様々な思考を張り巡らさせていると、後ろからはぁ、とため息が聞こえた。
「どいてて、あと、静かにしてて」
ユースとクリスの後ろではレイが弓を構えて、まっすぐに鳥型のモンスターをにらみつけていた。
スパンッと弓を放つと、矢はモンスターの首元に命中し、モンスターは悲鳴を上げる間もなくバタバタちょ何度か上空で羽ばたいてからガサガサガサッとすごい音を立てて木々の中に落ちて行った。
「……レイ、すげえじゃねえか、お前」
ユースとクリスはその様子をぽかんと眺めていた。
「油断しないで、ぼーっとしないで、ネロは性悪だから、どんどん出てくるよ、モンスター」
「お、わかってんじゃねえか、レイ」
けらけらとネロはまるで他人事のように笑った。
確かに木々の奥からはまだたくさんのモンスターたちの声が聞こえる。
「あとはお前らがここにいるやつを全滅させればいい、どうだ?簡単だろ?」
簡単なわけがない、というような意味を含んだ目線を送ると、ネロはまた大きく笑って、
「そんなに見るなよ、穴が開くだろ」
と見当違いにもほどがある発言をした。
「まー、何はともあれ行かなきゃなんねんだろ、な、早く行こうぜ」
ユースがうずうずと木々の奥へ進んでいこうとする。
クリスがそのあとについていこうとしたとき、視界の端に、カインの姿が見えた。
「……どうしたカイン、行かないのか」
「あ、あ……」
カインは震えながら小さくうつむいた。
と思えば、走って訓練場の外へ飛び出して行ってしまった。
「あ、おい、カイン!」
「前見ろクリス!!!」
ユースからの叱責が飛ぶが時すでに遅し。
モンスターはクリスのすぐ目の前まで迫っていた。
「あ……?」
剣を構える間もなく、モンスターはクリスに食らいつこうとする。
一瞬世界が止まったように見えた後、クリスの視界は赤く染まった。
ユースのナックルについた刃がモンスターを引き裂いた。
「よそ見してんなよ、遊びじゃねえんだ」
ユースらしからぬ真剣な目と、その言葉にクリスは思わずたじろぐ。
「あ、あぁ、すまない」
カインのことも気になるが、今はこの戦いに集中しよう、とクリスは剣を構え直した。