六話
昼食も終わって、午後の訓練に向けて準備をする。
クリスは部屋の机の上に置いてあった剣を手に取ると、スラリとした刀身を抜いた。
昨日ちゃんと磨いたから、綺麗だ。訓練に支障も出ないだろう。
クリスは腰に剣をつるし、一応レイにも声をかけてから行こうか、と扉の前で振り返った。
「レイ、訓練場に行くけど、お前はどうする?」
「……どうするって、訓練なんだから私も行かないといけないでしょ」
あっさり無視されると思っていたクリスは返事に驚き、それから立ち上がってクリスの後についてきたレイにもう一度びっくりした。
レイは自分の武器らしい弓と矢筒を肩からかけている。
少しくらいは打ち解けてくれたのだろうか。
クリスはまだ驚きを隠せず、少し動揺したまま、部屋の扉を開いた。
ガチャリと扉の開く音が隣からも聞こえて、ユースとカインが出てきたのを知る。
「お、なんだクリス、いつもタイミングばっちりだなー」
けらけらと笑うユースはどうやらレイが視界に入っていないようだった。
「あ、あれ、レイ、さん……?」
カインが先にレイに気づき、驚いたように目を開く。
レイはその反応にはもう飽きたと言わんばかりにそっぽを向いた。
「うえ!?レイ!!えっどうしたんだよお前!?」
熱でもあんのか!?とユースが調子に乗ってレイに触れようとすると、レイは冷たくその手をたたき落とし、
「触らないで」
と一喝した。
そりゃそうなるだろうとクリスもカインも苦笑いをしながらその様子を見守る。
レイはそのまま黙って訓練場の方へ歩いて行ってしまった。
三人は慌ててそのあとを追う。
訓練場とは言っても外にあるわけではない。
もし、本物のモンスターがいるとして、外に訓練場があったら逃げ出したときに大変なことになる。
校舎の一番奥。講堂とは反対側に訓練場への扉はあった。
軽く押すと、ギィィと古びた音を立てながら木の扉が開いていく。
そしてレイを除く三人はその扉の向こうの景色にぽかんと口を開けて立ち尽くすこととなった。
さながらどこかの森から一部移植していたのかと言わんばかりの大きな木々。
どんよりと薄暗く、どこから発せられているのかわからない獣のような声が響いている。
一歩足を動かすとカサリと枯れ葉の動く音がし、警戒すれば一瞬で死んでしまうのではないかという重々しい雰囲気を醸し出していた。
「お、来たな、七班。早く扉閉めろよ、モンスターが出ちまったら困るだろ?」
声のする方を見るとネロが昨日よりも軽い恰好をして立っていた。
まるで世間話のようにモンスターの話をするりと出すあたり、先ほどの噂が本当であることを実感する。
「やっぱりいるんだ、モンスター……」
カインは手に持った杖――どうやらカインは魔法使いらしい――をぎゅっと握りしめ、目を伏せた。
カインはまつげが長いせいか、こういう風にしおらしい表情をしていると女の子にも見えてくる。
その横ではユースがナックルをはめ直し、やる気に満ち溢れたような顔をしている。
「さ、訓練を始めようか」
ネロがにやりと笑う。
その場に緊張が走った。