三話
「では、さっそく点呼を始める!端っこから呼ぶぞー、クロエ・オルロワ……」
生徒一人一人の点呼が始まる。
たった二十八人しかいないから、ここを呼ばれるのもそう時間がかからないだろう。
「……よし、ここの四人で一班な、忘れんなよ、大事だから覚えとけー」
一班?もしかして班制度があるのだろうか。
そうなると、この四人で組むことになるのか?
クリスはいまいちこの学校の制度が理解できずにうーん、と首をひねる以外できなかった。
「……カイン・フェルトマイアー」
「え、は、はい!」
カインはびくりと大げさに肩をはねさせて、返事をした。
そんなおびえんなよ、とユースが肩をたたく。
「ユース・アンダーソン」
「はいはーい」
「はいは一回だバカ者」
ぺしと担任に軽く頭をはたかれて、ユースはいたずらっ子っぽく笑った。
懲りないなぁと苦笑しつつもクリスはその光景をほほえましいと思いながら眺めていた。
「クリスティア・フォルストルム」
「はい」
「お前の名前長いな、覚えらんねーよ」
懲りないユースはまたちょっかいをかける。
「クリスでかまわない。私自身覚えにくいのも理解している」
「へーえ、おっけー、クリスね。……フォルストルムって何か聞いたことあんだよなー……お前どっかの貴族の娘か?」
ユースは興味津々といった具合でクリスの顔を覗き込んでくる。
クリスは少しこわばって、ちょっと不自然な笑顔を見せた後、首を振って、
「いや、違うよ」
と答えた。
ユースはふーんとあまり納得していない顔だったが、それ以上は何も聞いてこなかった。
「レイティア・バレンタイン」
「はい」
「お前今年こそは卒業してくれよー、てか今年卒業できなかったら退学だからな?」
「はい、わかってます」
「えっお前留年生なの」
ユースは驚きを隠せない、といった具合に乗り出してきてレイに尋ねた。
レイはユースを冷ややかな目線で見ると、そっぽを向いてしまった。
「よーし、んじゃここ四人で七班なー」
カイン、ユース、クリス、レイの四人。
臆病者と、お調子者と、生真面目と冷徹。
彼女らを表すならこんな具合だろう。
果たしてこの四人でうまくやっていけるのか、クリスは少し心配だった。
「あ、申し遅れたけど、俺の名前はネル・ピエリカ。本日からお前らの担任をすることになった、よろしく!あんま迷惑かけないでくれよ!」
会場からまた大きな歓声が上がり、この二十八人のどこからそんな元気がでるのだ、と思うくらいだった。
「まぁ、この学校にいる間のことを少し説明すると、主な活動は訓練とか、この国についての勉強とか講義とかを受ける感じ。この国でなにか事件が起きてお前たちが出ないといけないときもある。そのへんは把握しといてくれ」
まるで本物の騎士のようだ。
国で事件が起きれば出動して、それを収める。
自分がこの国を守るのだ、そう思うとクリスの胸は高鳴った。
「んー、まあ詳しいことは追々な、とりあえず今は各自部屋に戻れ、明日からのスケジュールなんかはさっき配った紙に書いてある、ということで解散!」
ネロの解散の一言で、クラスメイトの面々はまばらに席を立っていく。
自分も部屋に戻るか、とクリスは立ち上がって講堂を出た。
四人は何となく一緒に外に出て、何となく一緒に寮の前まで来た。
いや、これは偶然じゃないらしい。
どうやら部屋が隣だったようだ。
ユースはまたよろしくな!と明るい笑顔で言って、カインもぺこりとこちらに会釈しながら隣の部屋に入っていった。
クリスとレイは同室だ。部屋は二人一組で決められているらしい。
レイはクリスを置いてさっさと部屋の中に入っていってしまった。
部屋の中央には大きな二段ベッド。その右側には机と本棚と段ボールに詰められた荷物。
左側には同じように机と本棚とすでに荷ほどきされたレイのものであろう荷物が置いてあった。
右側と左側に窓が一つずつあり、柔らかな光が差し込んでいた。
レイは二段ベッドの下の方を早々に陣取り、ごろんと横になった。
「……制服のまま寝ころぶとしわになるぞ」
「私に話しかけないで」
クリス自身おしゃべりは苦手な方だが、さすがにそうきっぱり言われるとむっとしてしまう。
でもここで何か言って喧嘩になるのも嫌で、クリスは大人しく荷ほどきを始めた。
この四人で、うまくやっていけるのだろうか。