二話
紫髪の女生徒を追いかけてたどり着いた先にある扉を開くと、そこにはせいぜい三十人程度の生徒が並んで座っていた。
講堂内はまだざわざわとしていて、入学式は始まっていないようだった。
四人一組程度で座るらしい椅子が前列に三脚、後列に四脚あり、一瞬どこも空いていないように見えたが、後列の一番端の椅子に紫髪の女生徒が一人で座っているのが見えた。
仕方なくクリスはその椅子に歩いていく。
「横、いいか?」
クリスが問いかけると紫髪の女生徒は返事もせずにそっぽを向いてしまった。
空いていないのだから仕方ない。
クリスはつい口がらこぼれそうになったため息をグッと飲み込み、女生徒の隣に腰かけた。
それからしばらく時間が開いて、目の前にある小さなステージに一人の男性が上がった。
ハウリングするマイクの音で全員の視線がその男性に集まり、講堂内は静まり返った。
「あー……あー、えー、おはよう、諸君。早速入学式を始めたいところなのだが、まだ来てない馬鹿が二人ほどいるみたいでなー、もうちょっと待っててくれ」
目の前にいる男性は教師らしい。
砕けた挨拶になんとなく気が抜けてしまう。
隣の女生徒はつまらなさそうに頬杖をついて白けた顔で教師を見ていた。
突如、バン!という音がして、講堂内にざわめきが起こる。
講堂のドアが勢いよく開き、そこには一人の男子生徒が立っていた。
「よし!まだ始まってないな!セーフだ!」
制服と、首元にストールを巻き付けた、少し不誠実そうなその男子生徒は、少し息を荒げながら笑っていた。
「アウトだ!ユース・アンダーソン!」
即座に教師からの叱責がとぶ。
ユースと呼ばれた男子生徒はちぇ、と少し拗ねたように唇を尖らして、空いているクリスたちの席に歩いてきた。
「よう!よろしく頼むぜ」
「ああ」
クリスとユースは小さく会話を交わす。
ユースは紫髪の女生徒にも挨拶をしたが、相変わらずの無視だった。
「ユース、カインはどうした?知らないか?」
「カイン?あの黒髪なら俺の後についてきてたはずだけど……」
教師とユースが首をかしげながら会話していると、今度は控えめに扉を開ける音がした。
「す、みま、せん、遅れ、ました……」
「遅いぞー、気を付けろ、カイン・フェルトマイアー」
息を切らしながらもう一度ごめんなさいと謝ってユースの横に座ったカインはなぜか右目を髪で隠していた。
教師はやれやれと言った具合にため息をついて、気を取り直すようにごほん、と咳払いをした。
「では諸君、これより、騎士養成学校アルベルツ、入学式を始める!!」
わああああという歓声と拍手が響く。
全校生徒二十八名という小さな学園の小さな入学式が今始まった。