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「たった一人の人を
幸せに出来ねー天使なんざ
ちっとも役にたたねーって思ってさ。」
ユーちゃんはそう言って
にっこり笑った。
「でも、いいの?今まで天使だったんでしょ?
その生活にはもう戻れないんでしょ?」
心配そうに聞くあたしに
ユーちゃんはきっぱりと言った。
「俺はあんたを選んだ。
その選択に迷いはねーから。」
そして、ユーちゃんは
「さっそくだけど、仕事に戻ろうか。」
って、専務の顔になった。
「何していいかわかんないけど・・・」
あたしが心配そうに言ったら
「俺は、この生活まだ一ヶ月。
あんたは何年もやってんだろ?
大丈夫だよ。」
そう言ってにっこり笑う。
「ひとまず、話は後にして
仕事の説明すんぞ。じゃ、まずこれ・・・・」
びっくりした。
ユーちゃんはほんとに専務としての仕事
やってる。
大体やってることはわかるけど
なぜそれをユーちゃんが理解してるかが
不思議だった。
電話の取次ぎ、
商談の予定のやりくり
書類の作成・・・
そんなことはあたし、得意です。
電話片手に、メモを取ってるユーちゃんは
一緒に過ごしてたときと
顔つきがまったく違う。
高そうなスーツに負けず
仕事のできる男の顔だった。
あっという間にお昼になった。
「飯食いに行くか♪」
ユーちゃんが顔を上げて言った。
「はい、専務♪」
あたしが笑顔で答えると
照れくさそうに笑った。
「誰もいねー時は、
専務なんて言うんじゃねーよ。」
近くのレストランで食事しながら
あたしは気になってたことを聞いた。
「どうして専務なの?」
専務は遠くから戻ってきたと
聞かされてたけど
どういうことなの?
さっぱりわかんない・・・
「大天使様に不可能はないのさ♪
ちょっとしたお餞別。
あんたとはここで初めて知り合った。
そういうことでいいだろ?
天使やってましたなんて
誰もしんじねーだろーし。」
けらけら笑ってるユーちゃんを
会社の人たちが横目で見てる。
軽く見られるわけだ・・・
でも・・・知らないな・・・
ユーちゃん、仕事できる人だわ・・・
いや、そんなことはおいといて・・・
「ねぇ、もう、本当に消えたりしないの?」
不安そうに聞くあたしに
「残念ながら、もう
消えたくても消えらんねーよ。
空も飛べねーし・・・」
その言葉にほっとする。
よかった・・・
「さ、腹いっぱいになったし
仕事にもどろーか。」
そう言って、ユーちゃんは立ち上がった。
午後はひっきりなしに来客。
ユーちゃんの人当たりのよさは
誰もを笑顔にし、みんなの心をつかむ。
お客さんにコーヒーを出したら
ユーちゃんは、あたしにも、笑顔で
「ありがとう。」
お客さんまでつられて
「ありがとう。」
って言ってくれる。
2階で働いてたときには一度もなかった。
こんなこと。
そして・・・たいていお客さんは
笑顔で専務室を後にした。
仕事が終わった。
「今日は、もうおしまいにしよう。」
ユーちゃんの声に、どきどき・・・
帰りたくないなんて言えないし・・・
正直、秘書が専務を誘うなんて
ありえないでしょ・・・
どうしよう・・・
あたしの心配は10秒後に
ユーちゃんの一言でふき飛ばされた。




