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5階の一番奥の部屋の前に立つ。
ここまで来て初めて気付いた。
ここは・・・
変わってることで有名な
この会社の会長と社長と
専務の部屋のフロア。
来たことないはずだ。
用事なんてないもん。
よくあるパターンで、
親族経営の会社だから
専務なんて最近どこかから帰ってきた
まだ30そこそこの若い人。
会長からしたら孫にあたる。
そんなんで、ちゃんと仕事できんのかなって
最近、みんなが話してたっけ・・・
興味ないから聞き流してたけど。
奥の部屋をノックする。
「入りなさい。」
会長の声がする。
「失礼します。」
中に入ると、鋭い目つきの会長が
こっちを見ていた。
「こちらに伺うように
上司に言われてまいりました。」
「今日から君は、
専務の秘書をしてくれ。
あいつがどうしてもと言うのでな。
秘書が急に辞めてしまって
困ってたんだよ。
無理を言ってすまないが
よろしく頼むよ。」
はい?
何であたしが?
「じーちゃん!ちょっと」
「こら、会社では会長だ。」
「どっちでもいいじゃねーか。」
いきなり部屋に入ってきたのは
ピシッとスーツを着こなした専務。
なんて軽い・・・
みんな言ってたけど
これで仕事できるのかね・・・
「お前が言ってた秘書を呼んでおいたぞ。
挨拶くらいしたらどうだ。」
専務が振り向いた。
あたしにはそれが
スローモーションのように見えた。
「あ!」
思わず声が出る。
にこっと笑って
「よろしくな。」
って、手を差し出された。
震える手をあたしも差し出した。
専務はその手を、力強くぎゅっと握った。
「具合でも悪いのか?」
「いいえ・・・」
震える声で答えるあたし。
「また、飯食ってねーんだろ。バカヤロー。」
・・・・・・・・!!!
「本物・・・なの?」
「そうだよ。お化けじゃねーからな。」
ここが会長室だという事も忘れて
涙があふれてきた。
会長は、あきれたようにあたしを見ている。
「何泣いてんだよ。」
くらくらしそうな笑顔でにこっとして
「バカ・・・」
って、あたしをそっと抱き寄せた。
「おい、雄輔!」
あっけにとられた会長に
「じーちゃん、ちょっと打ち合わせ行ってくるわ。
それから、こいつ、
俺の嫁さんになるから。よろしく!」
そういって、会長室からあたしを連れ出した。
夢見てるんだろうか・・・
夢ならこのまま覚めないで。
きっと夢なんだろうな。
そんなことありえないもん。
夢なら・・・・
そっと腕につかまった。
何も言わない。
ほら、夢なんだ・・・
じゃ・・・・
「寂しかったんだから・・・」
あたしが言うと、
専務がふっと微笑んだのが見えた。
「会いたかったんだから・・・」
専務の執務室のドアを開ける。
豪華な応接セットの向こう側に
白い新しい机。
わぁ・・・きれいな部屋・・・
と思うまもなく
ぎゅっと抱きすくめられた。
夢なのにあったかい。
「俺も会いたかった・・・」
耳元で聞こえる甘い声。
夢中で抱きしめた。
涙がほほを伝う。
「夢でもあえてよかった・・・」
「夢じゃねーよ。 」
え?
そんなわけないでしょ・・・
「ほんとだってば。」
そう言って、あたしのほっぺを
むにーーって引っ張る。
「いたた・・・何すんのよ。」
「痛かったろ?
夢じゃねーから。」
・・・・・・・・・・・・・
ほんとに?




