永遠に座れる椅子
東京下町
お昼過ぎ、下町の路地裏に三十代の男が、
歩いている。
男モノローグ(以下M)
「私の職業は小説家だ。最近、スランプ
で話が思い浮かばず、私は、いつまで小
説家でいられるのか不安でいた」
男の前に一軒の古家具屋が見えた。
男 「気分転換に椅子でも買い替えるか」
古家具屋
その家具屋の入り口は開いたままで、店
の前にはテーブルや棚などの大きめの古
家具が置いてあった。店内は薄暗く、沢
山の古びた家具が所狭しに並んでいる。
その奥に店主と思われる老人が一人、机
で何かを書きながら座っている。
男 「あの、椅子を探してるんですけど」
老人は男の方を向かずに答えた。
老人「どんな椅子がいいんだい?」
男 「私、小説家をしておりまして、長く使
える椅子がいいんですが」
そう言った瞬間、老人は男の方に顔を向
けて驚いた表情した。
男 「?」
老人はじっと男の顔を見て笑顔で言う。
老人「…ほう、小説家をね。実は、私も本業
は小説家でね。この店は副業なんだ」
男 「えっ、そうなんですか」
老人「今も、こうして書いているんだよ」
そう言って老人は今書いていた原稿を右
手で持って男に見せた
老人「長く使える椅子か…いいのあるよ」
そう言って老人は立ち上がり、老人が今
座っていた手すりのある、古びた椅子を
見せた。
男 「え?この椅子ですか?」
意外な椅子を勧められて、老人と椅子を
交互に見る男。
老人「この椅子を使えば《永遠に》小説家で
いられるよ」
男 「え、永遠?」
老人「現に、私はこの年まで小説を書いてい
られたからね」
男M「それって永遠じゃないけど…」
老人「少し座るかい?座り心地もいいよ?」
そう言って、老人はゆっくり立ち上が
り、右手で男に椅子を示した。
男 「あっじゃあ、ちょっと失礼します」
男は少し、苦笑いな表情をしながらも、
老人の手招き通り椅子に腰を下ろし、背
もたれに寄りかかった。
男 「…おお」
思わず声が出てしまった。
男M「すごい…体が安定する。初めて座った
のに、座り慣れてる感じだ」
男は目を閉じ、自然な笑みを浮かべた。
男 「…いいですね、この椅子。気に入りま
した。おいくらですか?」
老人「いや、金は要らんよ」
男 「え?(驚く)」
男は目を開き、老人を見た。
老人「その代わり、あんたに頼みがあるよ」
そう言って、先ほど見せた書きかけの原
稿と、引き出しから今まで書いた原稿を
手に取り、男へ向ける。
老人「この原稿の続きを書いて欲しいんだ」
男 「えっ私がですか!?(驚く)」
老人「私はもう年だ。流石に続きを書そうに
ない。お願いだよ」
そう言って原稿を男に手渡した。
男 「…一度、この原稿読んでから考えても
いいですか?」
老人「ああ。ゆっくり読んでくれ」
男は椅子に座りながら、ゆっくり原稿を
丁寧に読んだ。男は読み終え、膝の上で
原稿をトントンと揃えた。
男 「すごかったです…こんな話、今の私に
に続きが創れるかわかりませんが、やら
せて下さい!」
そう言って老人の方を向いたが、老人は
何処にもいない。
男 「あれ…?」
男M「結局、老人は現れなかった」
字幕「五十年後」
五十年後の古家具屋
店の奥の机で小説を書く男は五十年が経
ち、まるで、あの老人のような顔になっ
ていた。
男M「かつて、老人がやっていたこの古家具
屋を今は私がやっていた。この椅子に座
り、老人と同じように今も小説を書いて
いる」
ある日、一人の客が店に入ってきた。
客 「あの、椅子を探してるんですけど」
男 「どんな椅子がいいんだい?」
客 「私、小説家をしておりまして…」
男は客の顔を見て目を見開いて驚いた。
その客は、五十年前の自分と全く同じ顔
をしていたのだ。そして男は思った。
男M「私は永遠に小説を書けるようだ…」
完




