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永遠に座れる椅子

作者: 田田田田
掲載日:2026/03/31

東京下町

 お昼過ぎ、下町の路地裏に三十代の男が、

 歩いている。

男モノローグ(以下M)

  「私の職業は小説家だ。最近、スランプ

  で話が思い浮かばず、私は、いつまで小

  説家でいられるのか不安でいた」

  男の前に一軒の古家具屋が見えた。

男 「気分転換に椅子でも買い替えるか」

  古家具屋

  その家具屋の入り口は開いたままで、店 

  の前にはテーブルや棚などの大きめの古 

  家具が置いてあった。店内は薄暗く、沢  

  山の古びた家具が所狭しに並んでいる。

  その奥に店主と思われる老人が一人、机 

  で何かを書きながら座っている。

男 「あの、椅子を探してるんですけど」

  老人は男の方を向かずに答えた。

老人「どんな椅子がいいんだい?」

男 「私、小説家をしておりまして、長く使

  える椅子がいいんですが」

  そう言った瞬間、老人は男の方に顔を向

  けて驚いた表情した。

男 「?」

  老人はじっと男の顔を見て笑顔で言う。

老人「…ほう、小説家をね。実は、私も本業

  は小説家でね。この店は副業なんだ」

男 「えっ、そうなんですか」

老人「今も、こうして書いているんだよ」

  そう言って老人は今書いていた原稿を右  

  手で持って男に見せた

老人「長く使える椅子か…いいのあるよ」

  そう言って老人は立ち上がり、老人が今

  座っていた手すりのある、古びた椅子を

  見せた。

男 「え?この椅子ですか?」

  意外な椅子を勧められて、老人と椅子を

  交互に見る男。

老人「この椅子を使えば《永遠に》小説家で

  いられるよ」

男 「え、永遠?」

老人「現に、私はこの年まで小説を書いてい

  られたからね」

男M「それって永遠じゃないけど…」

老人「少し座るかい?座り心地もいいよ?」

  そう言って、老人はゆっくり立ち上が  

  り、右手で男に椅子を示した。

男 「あっじゃあ、ちょっと失礼します」

  男は少し、苦笑いな表情をしながらも、

  老人の手招き通り椅子に腰を下ろし、背

  もたれに寄りかかった。

男 「…おお」

  思わず声が出てしまった。

男M「すごい…体が安定する。初めて座った

  のに、座り慣れてる感じだ」

  男は目を閉じ、自然な笑みを浮かべた。

男 「…いいですね、この椅子。気に入りま

  した。おいくらですか?」

老人「いや、金は要らんよ」

男 「え?(驚く)」

  男は目を開き、老人を見た。

老人「その代わり、あんたに頼みがあるよ」

  そう言って、先ほど見せた書きかけの原 

  稿と、引き出しから今まで書いた原稿を

  手に取り、男へ向ける。

老人「この原稿の続きを書いて欲しいんだ」

男 「えっ私がですか!?(驚く)」

老人「私はもう年だ。流石に続きを書そうに

  ない。お願いだよ」

  そう言って原稿を男に手渡した。

男 「…一度、この原稿読んでから考えても

  いいですか?」

老人「ああ。ゆっくり読んでくれ」

  男は椅子に座りながら、ゆっくり原稿を

  丁寧に読んだ。男は読み終え、膝の上で

  原稿をトントンと揃えた。

男 「すごかったです…こんな話、今の私に

  に続きが創れるかわかりませんが、やら

  せて下さい!」

  そう言って老人の方を向いたが、老人は 

  何処にもいない。

男 「あれ…?」

男M「結局、老人は現れなかった」

字幕「五十年後」

 五十年後の古家具屋

  店の奥の机で小説を書く男は五十年が経

  ち、まるで、あの老人のような顔になっ

  ていた。

男M「かつて、老人がやっていたこの古家具 

  屋を今は私がやっていた。この椅子に座  

  り、老人と同じように今も小説を書いて

  いる」

  ある日、一人の客が店に入ってきた。

客 「あの、椅子を探してるんですけど」

男 「どんな椅子がいいんだい?」 

客 「私、小説家をしておりまして…」

  男は客の顔を見て目を見開いて驚いた。

  その客は、五十年前の自分と全く同じ顔 

  をしていたのだ。そして男は思った。

男M「私は永遠に小説を書けるようだ…」


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― 新着の感想 ―
売れない小説家が椅子を買いに行った先で、老人から「自分が今座っている椅子」を勧められ、気づいたら自分も小説家になっていた——というアイデアが秀逸で、構成もお見事でした。 最後には、主人公自身が次の売れ…
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