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黒い★の日常と非日常エッセイ  作者: 黒星★チーコ(黑星ちい子)


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3 海外で肝を冷やした話

 私のパスポートは失効しています。

 なぜなら海外に行かないからです。


 旅行するなら日本国内で充分楽しいと知ってしまったし、あと日本は沖縄と離島以外はだいたい橋やらトンネルやらで陸続きになってるのと、言葉が通じるから、トラブルがあってもだいたい帰ってこれるので。

(まあ、国内のスキー旅行で膝の前十字靭帯完全断裂+側副靭帯損傷+スキー場の係員さんの無責任な言葉に騙されて歩いたせいで剥離骨折とかもしたことあったんですけどね)


 私は人生で三度、海外旅行に行ったことがあるのですが。

 その三度ともトラブルがありました。


 一度目は私のお馬鹿なうっかりのせいで。

 二度目は母のお馬鹿なうっかりのせいで。

 三度目は、その国の機械メンテナンスが悪かったのと弟の運が悪かったせいで。


 私の件は17歳の時にパリで迷子になった話なのですが、詳しく話すとちょっと特殊すぎて身バレしかねないので、また次の機会にしたいと思います。


 弟の件は、彼はなんにも悪くないんですよ。

 ホテルのエレベーターが途中で止まってしまって閉じ込められたんです。

 運の悪いことに彼は閉所恐怖症かつ、そのときはエレベーターの中に独りきりだったので、パニック寸前というか、微パニック状態まで行きました。


 結果は、エレベーターの非常ボタンで怒り焦りながらも会話をして、何とか助けてもらえたそうです。

 お詫びにチョコレートの詰め合わせが部屋に届きました。


 しっかし、その泊まったホテル、世界で超有名なブランドでして。その地域でも間違いなくトップレベル(レベルと言うか、多分No.1)のホテルだったのに、そんな事が起きるんですからね。

 某国はやっぱり日本と比べて機械メンテナンスがいい加減なんだなぁと思ったものです。

 20年ほど前ですから、今は違うかもしれませんがね。


 そして帰りの飛行機でまあまあなエアポケットに巻き込まれてしまい、一瞬宙に浮く疑似体験ができたのです。

 この時弟は真っ青になり「二度と海外に行かない……」と言ってました。弟よ、エアポケットは国内線でも極稀にあるで〜。


 ★


 さて、今回のお話のタイトル『海外で肝を冷やした話』ですが、これは当然弟の件ではなく、母の話になります。


 もう20年以上も前のことです。

 当時母は旅行が好きで、また、当時は今と比べ物にならないほど羽振りも良く、何度か海外旅行に父と二人で行っていたかと思います。

 でもそれって、JTBとか、近畿日本ツーリストとか、添乗員さんが付くタイプのツアーばかりだったんですよね。


 そんな中、父が海外のとある地域に単身赴任をすることになりました。期間は2年未満だったかと。


 父が旅立ったあと、私と母は父のところに遊びに行くことにしました。今回もJTBの窓口で申し込みはしたものの、飛行機とホテル、そして空港とホテルの往復バスがパッケージングされているだけの、完全フリープランで添乗員さんは居ません。

 当然ですね。現地では父に案内してもらうのですから、観光先が全部決まってて自由時間の無いツアーでは身動きが取れませんから。


 それでも、私は17歳の頃に一度海外に行ったきりで、母は何度も海外旅行を経験していましたので、母の方が経験者として上だと思ってました。

 最終日の、空港にて肝が冷えたあの時までは。


 ええ、旅行の最終日まではなにもトラブルはなく、とても楽しく過ごしたのです。

 ホテルをチェックアウト後、ツアー客専用の、ホテル空港直行バスに乗り込みます。

 そこで母はバスのすぐ後ろの座席に座っていた、荷物の多い、同じ年代らしき女性とおしゃべりを始めました。


「○○(その地域では有名な観光地)には行かれました〜?」

「行きました行きました。なんだか成金趣味だったわね〜」

「ああ、そうですね〜! 私は△△に行ったんですけど……」


 空港までの1時間ほどの時間、そんな感じでおしゃべりに花が咲いていました。母は今まで海外旅行の際、ツアー内の他のお客さんと仲良くなったりしていたのですが、今回はフリープランで皆バラバラ行動ですから、他の旅行者と交流を温めることは無かったのです。

 行動も常に私か父と一緒でしたので、同年代のオバサンとのおしゃべりに飢えていたんでしょうね。

 私も旅行中、ずっと母の相手をしていて若干疲れてもいたので、良いことだ〜とのんびり車窓を眺めていました。


 二人は盛り上がり、空港に到着してバスを降りてもずっとしゃべり続けていました。

 その空港は日本の空港と違い、気になるお土産屋さんも大してなかったので、さっさとスーツケースを預けて保安検査場に向かいます。

 スーツケースを預けた直後、そのオバサン(私は名前も知りません)が両手にバッグとおみやげの袋を複数下げて、すーっと近寄ってきまして。二人はまたおしゃべりを始めました。どんだけ飢えてんのよ。


 保安検査場の列でも私の後ろに並んで、ずーっとしゃべり続けてました。話の内容に興味が無かったので、私はそれを聞くこともなく、

(さっき初めて会ったばかりの人とホントによく話題が続くなぁ)

 と、呆れ半分感心半分でぼーっと順番を待っていました。


 私の順番が来て、保安検査を無事通過します。出口のところで母を待っていました。

 ……ところが、母がなかなかやって来ない。


(えっ、なんか検査に引っかかった?)


 けれど、くどいようですが海外旅行は母のほうが遥かに回数が多いのです。保安検査で引っかかるような真似をするわけない。彼女は金属系のものは鍵とお金とケータイ以外は全部スーツケースに入れたから! とドヤ顔もしていた気がします。


 その時は心配で随分と長く待った気がしましたが、実際の時間は10分も無かったでしょうか。漸く母が出てきました。

 片手に、覚えのないおみやげの袋を下げて。


「ん?」


 と、私がツッコむ間もなく、母の後ろから例のオバサンがやってきて、母はその人におみやげの袋を手渡します。


「ありがとね〜! じゃあ!」


 オバサンはサッサと行ってしまいました。私は状況が理解できず、とりあえず母に近づき、こう言います。


「遅かったね。心配したよ」

「ああ、ごめんね。あの人がさ、手荷物が多くて機内持ち込み上限超えちゃうから、私に持ってくれない? って言うから〜」


 その瞬間、私の肝がザーーーーっと冷えました。

 慌ててオバサンの去った方を見ますが、彼女はもう人混みの中に消えています。さっきバスのなかで知り合っただけですから、当然、連絡先など交換していません。


「……馬鹿!! 何やってるの!!」

「え?」


 私が怒っても、母はポカンとしたままです。

 その時、機内持ち込み手荷物のルールは確かこうでした。(記憶があやふやですが、オバサンがルールを逸脱していたのは確かです)


 規定の大きさ、重さ内の荷物(自分のカバン)+2個(おみやげなど)まで。

 それを超える場合は別料金。


 オバサンは自分の手荷物がルールを超えていることを自覚しており、かつ、母がおみやげなどの手荷物が無いことに目をつけ、保安検査場を通る前に母に1個おみやげの袋を預けたのでした。


 二人とも何事もなく通過できたからいいものの、これでオバサンが極悪人だったらどうでしょう?

 母に預けた袋のなかに、爆発物や、銃や、麻薬が入っていたら? そこまででなくても禁輸品なんていくらでもあるんですよ。

 もしもそれで荷物の中身をあらためられ、空港係員さんに止められたら?


「今日知り合ったばっかりの、あそこにいる✕✕さんの荷物を持ってあげただけなんですぅ〜」


 なんて言い訳、(事実だけど)空港係員さんに通じると思いますか???


 オバサンが母にべったりだったのに、そして同じツアーだから同じ飛行機に乗るはずなのに、保安検査場を通過した途端にサッと居なくなったのも怪しさマシマシでした。


 その態度にも腹が立ったのですが、私は母の方にもっと怒っていたのです。何故なら、上記の説明をしても母は「心配しすぎよ〜なんでそんなに怒るのよ」と言っていたから。


「このッ、お人好しの平和ボケ!!!!」


 まさかの海外で自分の母に説教する羽目になるとは。

 でも私は余裕がありませんでした。だって既に保安検査場を通過してますから、大丈夫なはずですが……万が一、万が一、日本に入国時に母が止められたりしない? あの荷物は、本当にただのおみやげだったの? と、とても心配でしたから。


 まあ、そんな心配は杞憂に終わり、私たちは無事日本に帰ってこられたからいいのですけれど。


 それからも母が父に会いに行く時に、弟と一緒に一度同行したのですが(それが海外三度目でした)母が平和ボケ故に怖いことをしないか見張っていて気疲れしました。

 そんな私の気も知らず、母は衛生的に不安な、現地の屋台料理を勝手に買って「うまいうまい」とか食べてましたけど。お腹を壊さないか心配でしたが、平気そうでした。良かった。


 ★


 もう今は金銭的にも体力にも海外旅行に行ける余裕のない母ですが、相変わらずのお人好しの平和ボケです。振り込め詐欺とかに遭っていないか心配になりますけれど、意外にも怪しい着信もメールもSMSもすべて引っかからずスルーしています。


 一度など、実の息子(私の弟その2)が「母ちゃん、俺だけど、ちょっと金貸して〜」と電話してきた時に振り込め詐欺かと即座に疑っていたほど(笑)。


 最近は私も、母も意外とアレで本当に危なそうなものを無意識に嗅ぎつけて危険回避してるのかも?(だとしたら、私の心配は無用なものになるのですが)……と、ちょっと思ったりなんかもします。


 なんにせよ、平和ボケなら平和ボケなまま、平和な世界でのんびり暮らしていてほしいものです。


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