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第38章 荒川と古平のその後

荒川澄江


 施設閉鎖後、荒川は一時的に看護師免許の停止処分を受けた。直接的な加担を問われたからだ。しかし、彼女の匿名通報と内部協力は調査で明らかになり、重い刑罰からは免れた。

 だが、彼女の心に残った痛みは、処分以上に深かった。


 ——助けられなかった命。

 ——見届けるしかなかった最期。


 夜ごと、それらが夢となって荒川を苛んだ。彼女は臨床の現場に戻ることを選ばなかった。代わりに、小さな市民団体の依頼で「緩和ケアにおける倫理」の講演をするようになった。人前で話すとき、彼女の声はかすかに震えた。それは後悔の証であり、同時に誠実さの証でもあった。


 講演を終えるたびに、誰かが彼女に声をかけた。

 「私の母も最期をどう迎えるかで悩んでいて……」

 「私も自分が年老いたとき、どう生きたいか考えさせられました」


 そうした声に触れることで、荒川は自らの存在を少しずつ許すことができた。

 彼女は、誰かの心に「考えるきっかけ」を与えることこそ、自分に残された役割だと信じ始めていた。


古平


 古平は医師として、事件後すぐに大学病院の倫理委員会に招かれた。かつての仲間からは背を向けられ、同僚からは責められることもあった。だが彼は、逃げなかった。


 「私は現場で死を見届けた。安らぎを名目に、人間の尊厳を消費した。だからこそ、今度は語らなければならない」


 彼の証言は法廷でも委員会でも繰り返された。時に激しく糾弾され、時に聴衆に涙を誘った。古平はやがて臨床医を退き、政策研究と教育に力を注ぐようになった。


 医学生に語るとき、彼は決まってこう言った。

 「医療は命を延ばすだけのものじゃない。人間を支えるものだ。支えることに失敗したら、その失敗を次へ渡す勇気を持て」


 彼の言葉は、若い世代に重くもまっすぐに届いた。

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