第8話「県大会、抗争開始」
冬の足音が近づく頃、北野高校女子サッカー部は県大会の舞台に立っていた。
初戦の相手は、筋肉でゴリ押しすることで有名な桜ヶ丘商業。ユニフォーム越しにも分かるほど、選手全員の肩や太腿は厚く、アップの段階からぶつかり稽古のような接触を繰り返していた。
試合前、竜司は円陣を組ませると、口の端を吊り上げた。
「売られた喧嘩は笑顔で買え。そして――カチコミカウンターだ」
梨花がニヤリとし、舞が「はいはい、つまりカウンター主体ね」と通訳する。
キックオフ直後、予想通り相手はロングボールと当たりで勝負してきた。梨花が体をぶつけられてよろめくと、桜ヶ丘のベンチから嘲笑が飛ぶ。
だが次の瞬間、梨花は逆に相手FWを押し返し、ボールを奪う。
「米袋筋トレ、ナメんなよ!」
オフシーズン、竜司が田畑でやらせた“米袋担ぎ走”の成果だった。全員が接触にビクともせず、むしろ相手の勢いを利用してボールを奪う。
前半20分、舞が中盤で相手の突撃をいなし、サイドへ展開。心愛が爆発的な加速でライン際を駆け上がり、低いクロスを送る。そこへ紗季が走り込み、ダイレクトでゴール左隅へ――1-0。
復帰戦となった紗季は、軽く拳を突き上げた。
しかし桜ヶ丘はそこからさらに荒くなった。背中を押す、足を引っかける、ユニフォームを掴む……審判の笛が追いつかない。
竜司はベンチから笑いながら怒鳴った。
「いいぞいいぞ! 売られた喧嘩は倍にして返せ! ただし、ボールを持ったままな!」
後半10分、相手のパワープレーで同点にされるが、北野は動じなかった。
舞が声を張り上げる。「次、仕留めるよ!」
その直後、相手のCKを美咲がパンチングでクリア。梨花が中盤まで運び、走り込む紗季へロングパス。
紗季は追ってくるDFを体で押さえ込みながら、ペナルティエリア外から右足を一閃――弾丸のようなシュートがゴールネットを揺らした。2-1。
残り時間、桜ヶ丘は総攻撃を仕掛けるが、北野の体力は尽きない。
米袋を背負って坂道を走った脚は、終盤でも止まらない。心愛や舞が前線までプレスに行き、相手を走り疲れさせる。
そして試合終了。スコアはそのまま2-1で北野の勝利。
握手の列で桜ヶ丘の主将が苦笑しながら言った。
「お前ら……どこでそんな体力つけた?」
梨花はドヤ顔でマッスルポーズをしながら「農作業!」とだけ答えた。
試合後、ベンチに戻った紗季がタオルで汗を拭きながら、竜司に向かって言った。
「監督……やっぱり、あんたはただ者じゃない」
竜司はタバコをくわえ、火をつけずに笑った。
「当たり前だ。オレは元ヤクザだぞ」
県大会は始まったばかり。北野高校の“抗争”は、これからさらに激しくなる――。